第643話 人魚の国にお邪魔します

 海老、大変美味しゅうございました。


 海老フライに海老マヨ。海老の殻で出汁をとったゴジル汁。海老の刺身に海老のごま和え。海老の天ぷらと、海老三昧な夕食でした。


 マイシスターよありがとう。お前の兄と言うだけでオレの人生は最高。今なら世界平和を祈れるくらい幸せだよ。


 ……でも、朝から海老三昧は止めてください。マジ辛いです。


 一メートル近い海老フライをそっとアリザのほうへ押し出し、海老のワンタンスープをいただきます。


 スープをレンゲで飲みながらヴィアンサプレシア号の食堂を見回す。


 一応、ミタさんに主要メンバーを朝食に集めておいてくれと頼んだが、肝心の婦人がいなかった。


 まあ、いくら優秀なミタさんでも完璧にはオレの思考を理解するのは無理ってもの。責めることでもないんで自分でいくことにするか。


「親父殿、オカン。朝食後しばらくしたら人魚の国に見物にいくから用意しててくれや」


「用意ってなにを用意すればいいんだ?」


「海の中だからな、ちょっと寒いかもしれん。まあ、オレの力でいくからそう寒くはしねーが、体感温度は人それぞれ。細かい設定がメンドクセーから厚着をしてってくれ。暑ければ脱げばイイしな」


 港にある人魚の町はオレやあんちゃん、その関係者しかいかないから結界は二十度くらいに設定してあるし、浅い場所だから陽の光りもあるから寒い印象もない。


 だが、さすがに人魚の国、王都がどうなっているかまではわからねー。用意はしていくに越したことねーだろう。


「武器とかの持ち込みはどうなんだ?」


「さすがにまずいだろうから収納鞄に入れてってくれ。多分、護衛がつくだろうし、そう悪い展開にはならんだろう。万が一の場合は結界武装をしろ。あれは海の中でも活動できるようにしてあるし、オカンには万全の結界を纏わしてある。竜の百や二百襲いかかってこようが傷一つつかねーよ」


 もちろん、精神的にも万全。視界を遮り、村の景色を映すようにしてある。結界も自動で逃げるように設定してあるので安心。あとはオレが……いや、親父殿がなんとかするだろう。


「わかった。そうするよ」


 朝食は海老のワンタンスープで済ませ、各船長や小人族、ゼルフィング商会のものに指示を出し、我が家へと転移した。


「ただいまー」


 玄関から入り、声をかけると執事さんとメイドさんが出て来た。


「お帰りなさいませ。ベー様だけですか?」


「ああ。人魚の国には無事着いた。親父殿もオカンも健康だ。それよりオレに会いに誰か来たかい?」


「エルフのリュケルト様がお越しになりました」


「やっぱり来たか。で、リュケルトは?」


 まあ、本格的な夏が来る前にいろいろ買い出しに来るのだ。エルフも塩や穀物、薬草など必要とするからな。


「はい、アバール様のところで買い物をしております。夜は館に泊まるので夕方には戻るかと」


 何日か滞在するし、そう急ぐこともないか。


「多分、リュケルトがいる間には戻って来ると思うが、ダメなときのために伝言を頼む。世界樹の種、あるだけオレが買う。代価はなにがイイか決めててくれ。会えないときはこちらから会いにいく、ってな」


 リュケルトの村には二度、いっている。なら転移バッチでひとっ飛びさ。


「畏まりました。そうお伝えします」


「婦人連れたらまた人魚の国に戻るんで留守の続きを頼むわ」


 お任せくださいて頭を下げる執事さんにおうと答え、ゼルフィング商会本店へと向かった。


 ゼルフィング商会本店は八時始まりだが、まだ一階の店はオープンしておらず、品だしするおば――じゃなくておねーさんたちが品出ししていた。


「おはよーさん」


 中に入り、おねーさん方に挨拶する。


「おはようございま~す!」


「おはようございます!」


 挨拶を返してくれるおねーさん方に手を上げて応えながら二階へと向かう。


「婦人、いるかい?」


 執務室のドアをノックをして声をかけた。


 はいと中から返事がしてドアが開いた。


「おはようございます、ベー」


「おう、おはよーさん。仕事は捗ってるかい?」


「はい。帝国への出店や人選も進んでおります」


 さすが婦人。仕事が早い。


「それで、人魚の国に到着したのですか?」


「ああ、無事着いて、今日人魚の国、まあ、王都に入る。すぐでワリーが今から行けるかい?」


 昨日の夜に来るかと思ったんだが海老三昧で腹一杯になり、動けなかったのだ。スンマセン!


「相変わらず急ですね。大丈夫ですよ。いつでもいけるようにはしてましたから。ただ、何日もは無理ですよ」


「ああ。紹介だけだし、商売は連れていったもんとオレでやるよ。まあ、夜には帰ってこれるさ」


 オレがダメなときはミタさんに頼むし、シュンパネもある。余程のことがなければ大丈夫だろうよ。


「わかりました。わたしだけでよろしいですね」


 チラっと秘書のねーちゃんを見るが反対はなし。説得済みか。まあ、顔は納得してないみたいだが。


「ああ。なら、すぐにいくぜ」


 手を差し伸べると、婦人がオレの手をつかんだ。


 ヴィアンサプレシア号の食堂に転移。アリザや世話をするメイドさん以外は皆いなくなっていた。


「サプル。メイドさん一人借りてイイか?」


 厨房に顔を出し、分身の術を展開するマイシスターに尋ねた。


「イイよ。あ、ナルベリアさん、お願い」


 と、適当な指名に、ナルベリアさんとやらが婦人の護衛兼世話役になりました。それでイイんかい?


「ナルベリアと申します。よろしくお願いします」


 皿運びをしていたナルベリアさんとやらがニッコリとお辞儀した。


 どうやらナルベリアさんとやらに否はないらしい。どうなってんだ、メイドさんズは……?


「わたしはフィアラ。よろしくね、ナルベリアさん」


 まあ、二人の関係は二人に任せ、ヴィアンサプレシア号の外へと向かう。


 王都に行くメンバーは、オレ(といつものメンバー)、親父殿、オカン、その世話をするメイドさん二名。ゼルフィング商会の者二名。婦人、ナルベリアさんとやら、技研の技術少佐と他三名だ。


「おはようございます、ベーさま」


 どうやらオルグンが案内役のようだ。


「おう、おはよーさん。今日は頼むわ」


 さて。人魚の国にお邪魔しますだ。

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