第642話 海老三昧
っていうか、皆を休憩させたら誰も見ないよね。
「わたしが見てるわよ」
プリッつあんに見せてもなんも嬉しくないが、集中したら周りなど見えなくなるのがオレ。我を忘れて岩場の改造を行った。
ぐぅ~。
腹の虫がなった。
腕時計を見れば午後の一時。もう昼を過ぎてたか。
「プリッつあん、昼にするか」
と、声をかけるが、返事がない。ってか、頭の上にいませんでした。わたしが見てるはどこいったよ?
「どこにいったんだ?」
カモメ(なんか獰猛そうな顔つきですが)に拐われたか?
「プリッシュ様でしたらあちらにいます」
猫型ドレミが岩島の中央部のほうを見た。
なにやってんだといってみると、なぜかアリザがいた。なぜに!?
なんでここにいるかは謎だが、プリッつあんと一緒にしゃがんでなんかしていた。
「アリザ、プリッつあん。なにしてんだ?」
二人の横に来ると、なにやら二十センチくらいの丸穴に細長い棒を突っ込んでいた。
「ここに、美味しいのがいる」
「たぶん、海老だと思う」
オレが夢中になっている間に海老を発見したプリッつあんが、暇潰しに観察していて、食べれるんだろうかとミタさんに頼んでヴィアンサプレシア号に飛び、アリザを連れて来たんだとよ。
「海老ね。それ、本当に食えるのか?」
港でも海老は採れるが、種類によっては毒があったり不味かったりする。ゴブリン実験で試したが、食えないほうが多かった。
「茹でると美味しい匂いがする。焼いてもいい」
どうやらアリザは匂いで食える食えないがわかるらしい。謎な生き物だ。
とりあえず捕ってみるか。
結構深そうだが、結界術の前には意味はない。サクっと取り出した。
「……さすがファンタジーの海老は一味違うな……」
なんつーか、サイズは伊勢海老くらいだがハサミは凶悪そうで、脚は触手っぽいものうじゃうじゃ生えていた。
「本当に食えるんだろうな?」
「生でもいけそうだけど、茹でたほうが美味しい」
まあ、グルメモンスターが言うのなら間違いはねーだろう。
土魔法で竈を作り、無限鞄から鉄鍋を取り出し、伸縮能力でデカくする。そこに水を入れ、薪を燃やして沸騰させる。
海老を湯に入れると、黒い体がすぐに身が赤くなり、イイ感じで湯から出した。で、どう食うんだ、これ?
よくわからんのでアリザに渡した。
グルメな細胞が知っているのか、胴体をねじ切り、甲殻を剥いて身を口にした。
「うま。これうまうま」
身を食べると、今度は触手部分を口にする。それも食えるんだ……。
ハサミの部分も身が詰まっているようで、器用に割ってキレイに食した。
「お代わり!」
お代わりって、まだいるのか?
「結構いるみたいよ。同じ穴がいっぱいあったから」
確かに、見える範囲に幾つもの穴が開いていた。
結界で取り出すと、出るわ出るわの海老祭り。あ、そう言やココ、海老島とか言ってたっけ。なるほど海老島だわ。
鉄鍋をもうちょっとデカくし、海老を一気に十匹ほど入れて茹でる。
イイ感じで取り上げ、結界皿に盛ると、我慢できないとばかりにアリザが手を出した。
本当に旨いようで、笑顔も手も止まらない。あっと言う間に完食してしまった。
「ドレミ。あとは頼むわ」
どうやら安全なようなのでオレも食べることにした。
「……あ、旨い……」
港で採る小エビの比ではねー。濃厚でプリッとして旨味が凝縮している。前世で伊勢海老を食ったことはねーが、確実にこっちの方が旨い。
「海老フライで食ってみてーな」
できればタルタルソースで食いてー。あー想像するだけでヨダレが出て来たぜ……。
「えびふらい!? なにそれ!!」
オレの呟きにアリザがえらい勢いで食いついてきた。
「生タマゴといて海老をつけてパン粉でくるみ、油で揚げたもんだよ。たまに出てるだろう」
小さな海老フライやイカリング、カツとか食ってるだろう。
「あ、あれか。あれは幸せな味だった……」
名前ではなく味で思い出したのか、ヨダレが止まらない。
小さいままだったら微笑ましい光景だが、見た目、二十過ぎの女がヨダレを垂らすのは痛いだけだな……。
「まだたくさんあるからサプルに作ってもらえ」
まだ三十匹近くある。サプルなら二、三匹使えば最高の海老フライを作り出すだろうさ。
「わかった!」
と、まだ熱々の鉄鍋をつかむと、湯を捨て結界で包んだ海老を入れた。山盛りになった鉄鍋を頭に乗せると、海老を食べてるプリッつあんを鷲掴み。なぜか転移バッチを発動させてヴィアンサプレシア号へと帰っていった。
モグモグゴックン。さて、続きをやりますかね。
あ、その前に人魚の兵士さんにお尋ねします。この海老って勝手に採ってよろしいのでしょうか?
「はい。駆除対象の生き物なので構いませんが、そんなものどうするのです?」
どうやら人魚は食わないようです。人魚の舌も人とそう変わらんのだが、体質的にダメなんだろうか?
「この海老、海の中にもいるのかい?」
「はい。島の上にいるのは幼体で、成体になると海の中で小魚や貝を食べています。他にも珊瑚も食べるのでほとほと困っているのですよ」
あれで幼体かよ。成体になったらどんだけデカくなんだ?
「ワリーがハルヤール将軍に伝言を頼む。冒険者にこの海老を捕まえるように依頼を出してくれ。一匹五ビルでオレが買うってな」
だいたい銅貨にしても五枚。約五百円くらいだな。
「これを五ビルですか?」
人魚からしたらさぞ奇怪に聞こえるだろう。地上で言えばドブネズミを銅貨五枚で買おうと言っているようなもんだしな。
「ああ。生きたままで頼むぜ。買い取りはここで――って、ここに冒険者を呼んでも大丈夫かい?」
なんか軍事基地とか言っていたような気がするが。
「はい。こちら側でしたら問題ありません」
「なら、買い取り所を造るからそこに持って来たら買い取るよ。冒険者ギルドにやる手数料はハルヤール将軍に頼んでくれ。あとで払うからよ」
地上の冒険者ギルドと形態が違うから幾らかわからん。すまねーが立て替えててくれや。
「わかりました。そうお伝えします」
「助かるよ。あとで酒でも差し入れするからよ」
人魚も酒を飲み、ハルヤール将軍たちはエールを特に気に入っていた。アルコール度数より味がイイみてーだぜ。
「それは楽しみです。では――」
人魚の兵士を見送り、残りの兵士たちに海老の捕獲を頼んだ。たぶん、アリザがもっと食べたいと騒ぐだろうからな。
了承してくれた兵士たちを見送り、生け簀を造ってから島の改造を再開させた。
そして、夕方には島の改造を終え、コーヒーで一服していると、竜機が島の上空を飛んでいった。
来た方向に目を向けると、ヴィアンサプレシア号と輸送船が見えた。
ドレミにプロキオンの船員たちを呼びにいってもらおとしたら、その前に出て来た。
「予定通りですな」
船長のセリフにそうだなと頷いた。
「じゃあ、ヴィアンサプレシア号の受け入れ、頼むわ」
そう言うのはお任せします。オレは海老を回収しますんで。
「今日の夕食は海老三昧だな」
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