第641話 オレの見せ場

 到着したのはイイんだが、バルデラル王国の王都に入るにはどうしたらよろしいのでしょうか?


 軽く城壁(?)を一周して見たが、海面上にはそれらしい出入り口はなかった。


「ミタさん。オレ、一旦プロキオンに戻るから城壁の周りを回っててくれ。オレの旗を掲げておくからよ。もし、人魚が動いたらオレの使いだと言えば伝わるはずだ。自動翻訳の魔道具、持ってるよな?」


 ヤルブが持ってきたものや人魚の町で集めたお陰で、三十個以上手に入れることができた。


 主要人物には配ったが、ミタさんには配ってねー。が、あるのがミタさんクオリティーだ。


「はい。カイナ様から翻訳バッチをいただきましたので問題ありません」


 つーかもうカイナーズホームで販売してくれよ。集めるの大変だからさ~。


「んじゃ、頼む」


 任せてプロキオンの甲板に転移した。


 そのまま船橋に向かい、船長にオレの旗を揚げる用意といつでも降りれるように準備を頼んだ。


「あと、監視員を立たせてくれ。多分、どこからか人魚の兵隊が現れるはずだから。それと自動翻訳の首輪を忘れるなよ。あれがないと意志疎通ができんからよ」


「わかりました。直ぐに監視員を立たせます」


 よろしくと言い残して誘導員に頼んで黒髪の乙女さんらに帰還してもらうようにお願いした。


 また甲板に出てオレも結界望遠鏡で辺りを見回した。


「――十三時方向に気泡有り!」


 監視員の誰が叫び、十三時方向に結界望遠鏡を向けた。


 確かに気泡が沢山あり、しばらくして白銀鋼の鎧を纏ったオルグンと数名の兵士が海面上に顔を出した。


「プロキオン、着水します!」


 ゆっくりとプロキオンが降下し、波を立てずに着水する。


「プロキオンに小舟とか積んでたっけ?」


 近くの船員に尋ねる。飛空船では海面まで遠いし、開ける窓もねー。まあ、荷物扉があるが、それでも離れている。いくら知り合いでもそれでは客の礼儀に反する。ちゃんと近くで挨拶するのが礼儀だろうよ。


「申し訳ありません。小舟はありません。コーランでよろしければ出せます」


 お。プロキオンにも積んでたんだ。それは知らんかった。


「ならコーレンを頼む」


「了解です!」


 敬礼をして駆けていく船員さん。すぐにコーレンがやって来た。


 飛び乗ると叫び、結界を使って軽やかに飛び乗り、プロキオンの船首前の海面ギリギリに降りてもらう。


「ベーさま!」


「おう、オルグン。待たせたかい?」


 人魚と人の間には越えられない壁(コーレンで海面ギリギリに降りても距離はあるんだよ)があるので手を上げて挨拶をする。


「いえ、ちょうどよい来訪です。受け入れ準備が少し前にできましたので」


 急ピッチでやったのだろう。ここは謝罪するより感謝を示しておこう。


「それはよかった。ありがとよ」


「それで、ベーさまのお仲間はこれだけですか? もっといたような気がしますが?」


 さすがオルグン。コーレンの数から全体を予想したか。


「オレたちは先行だ。本体を迎えるためのな。飛空船――この船より二回りデカいのとこれと同じ船の三隻で来た。どこに置けばイイ。土産に野菜や工芸品を持って来たんで荷下ろしのやりやすいところが助かるんだがよ」


「わかりました。でしたら、海老山に案内します」


 えびやま?


「あそこの岩場が見えますか?」


 オルグンが指す方向を見れば、城壁の外、距離にして二百メートルほと離れたところに岩場と言うより岩島があった。


「あそこはバルデラル王国の軍事基地で王都まで繋がっておりますので、荷を下ろすのも難しくはありません。海面上であればベーさまの力で改造しても問題ありません。好きにお使いください」


 お、それは助かる。さすがに船を固定できねーと大変だからな。


「わかった。まずは本体の受け入れをやるんで、ハルヤール将軍には明日の昼くらいに会うよ」


「わかりました。では、部下を何名か置いていくのでお使いください。なにか連絡があればその者らにおっしゃっていただければ直ぐに参ります」


 オルグンの命令で人魚の兵士が六人、前へと出た。 


「んじゃ、案内頼むわ」


 コーランの操縦者に着いていくように頼み、オレはプロキオンに転移する。


「コーランの後に続いていってくれ」


 近くの船員に叫び、プロキオンの横に来たエニマニに跳び移った。


「ミタさん。あの岩島へいってくれ」


 岩島を指して指示を出し、後部座席へと乗り込む。


 コーレンより先に岩島へと到着し、辺りを見回した。


 広さ的には野球場三つぶん。殆ど岩で平らなところはねーが、人魚が使っている様子はねーし、岩ならどうとでもなる。


 まずはプロキオン用の桟橋を造り、接岸させる。


「船長。ヴィアンサプレシア号が来るまで皆を休ませてくれ。オレは島を改造するからよ。ミタさんもだぜ」


「我々にできることがあればお手伝いしますが?」


「いらん。オレ一人の方が捗るんでな」


 小人族も魔法や魔術を使えるが、魔術師と呼べる者は極少数。殿様の配下でも三人しかいねー。とてもじゃねーが、役には立たん。


「基礎はオレがやる。あとの細かいことは任せるんで、それまでは休んでてくれや」


 さすがに徹夜明けで働かすなんて悪どいことはしたくねー。我がゼルフィング商会は、従業員に優しい商会なのだ。


 ……まあ、一部ブラックなところはありますが、それは給金と言う形で報いたいと思います……。


「さて。ここからはオレの見せ場だ」


 ドンと岩島を踏みつけた。

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