第640話 ハルヤール将軍の国

 ハイ、サクっと終了です。


「……身も蓋もないどころかナメてるわよね……」


 ハッハッハー。メルヘンさんはなにをおっしゃってるんでしょうね。戦いは過程より結果ですよ。勝てば官軍負ければ賊軍。無事に勝ててよかったねだ。


「にしてもあっけないものだ。さすがビームバルカン。竜機や飛空船にもつけるかね」


 オレの結界術がないと無理だが、オレの周りだけ装備すればイイんだから問題なし。エリナの国とオレは別物だしな。


「ところで、人魚の船までいなくなっちゃったけど、いいの?」


 言われて見れば人魚の船がどこにもない。まあ、味方だとも助けに来たとも言ってねー。訳がわからんのなら逃げるわな。


「構わんさ。助けたのはオレの勝手。礼が欲しくて助けたわけじゃねーしな」


 それに、逃げた先はどうせハルヤール将軍の国だ。縁があれば出会うし、縁がねーのなら出会わないだけ。それだけだ。


 轟牙を脱ぎ、無限鞄に仕舞い、エニマニに乗り込んだ。


「ミタさん。出発よろしく」


「はい。では、出発します」


 照明弾を一発打ち上げてからコクピットを閉めた。


「ミタさん。ワリーけど、ちょっと寝る。操縦に疲れたら適当に休んでくれや」


「はい。わかりました」


 どうせ休まねーだろうが、言っても聞かねーんだから好きにしろだ。人魚の国に着いたら充分休ませたらイイしな。


 お休み三秒で眠りへとつき、朝日の眩しさで目が覚めた。


 腕時計を見れば朝の四時。いつもより早いが熟睡したお陰ですんなり目覚められた。


「ミタさん。おはよーさん。なんかあった?」


「おはようございません。なにも問題ありません。プロキオン、竜機ともに順調に航行しております」


 コクピットに顔を近づけて後ろを見れば竜機とプロキオンが見えた。


 見える範囲内でこれと言った変化は見て取れない。ミタさんの言う通り順調に来れたようだ。


 コーヒーとサンドイッチで朝食を済ませ、まったりしていると、プリッつあんが起きた。


 結界テーブルに下りると、収納鞄からお出かけセットを取り出し、身だしなみを整え始めた。


 なんとはなしに眺めながらコーヒーを飲み、お代わりしようとポットに手を伸ばそうとしたら視界の隅になにか映った。


「ん? なんだ?」


 目を向けると、イルカ……っぽいものが群れて泳いでいた。


「自然は雄大だね~」


 と感動していたら、突然イルカっぽい群れの中心で水柱が上がった。


 はぁ? と唖然としてると、なにかワニのような巨大な魚が現れた。


 まるでクジラが鰯の群れを襲うように、ワニのような魚が何匹と現れ、なかなかスケールのデカい弱肉強食を見せていた。


「海はスゲーな」


 しかし、人魚の国が近くにあるって言うのに、あんなのがいんのかよ。やっぱ陸と同じで海の中で牧畜(って言ってイイのかわからんけど)は無理なのかね……?


 できることなら魚を産業としてもらって定期的にエリナの国に卸してもらいたかったんだが、あんなのがいたら諦めるしかねーか。


「ベー様。一匹がこちらに向かって来ますが、どうなさいますか?」


「殺っちゃってイイよ」


「大丈夫でしょうか? 人魚の国では禁止されていたりするのでは?」


「構わんさ。あっちが先に襲って来るんだ、食われてやる理由はねーよ。もし、法に触れたらハルヤール将軍になんとかしてもらうさ」


 それだけの借りがあるんだ、喜んで払ってくれるさ。


 それに、水竜機の性能を確かめるにはちょうどイイだろう。ああ言うのと戦うことを目的に造ってもらったんだからな。


「プリッつあん。揺れるから仕舞えよ」


「うん、わかった」


 テキパキと片付け、頭の上にパ〇ルダーオンした。


「ベー様。戦闘開始します」


「なるべく水竜機の武器を使って倒してくれな」


「畏まりました」


 後部座席からは戦闘は見えないが、エニマニの動きからなかなかの運動性能なのはわかった。


 左右にある砲から銛弾が発射され、交差する瞬間に当たっているのを確認。結構えげつない刺さり方をしていた。


 エニマニが旋回し、今度は水進魚雷が発射された。


 竜機にもミサイル的なものがあり、ゴブリンくらいなら爆散させるくらいの威力はあった。


 まあ、小人サイズなんで飛竜なんかには牽制するのが精一杯だが、人類サイズにしたら飛竜に衝撃を与えるくらいにはなっていた。


 爆発の余波でエニマニが揺さぶられるが、ミタさんの巧みな操縦で被害らしい被害はなく、短時間で終了してしまった。


「申し訳ありません。予想以上に武器の威力が高くて倒してしまいました」


「いや、イイよ。それだけ水竜機の性能とミタさんの操縦が上手かったってことさ。充分だよ。他に襲って来るのはいるかい?」


「いえ、逃げたようで姿は見えません」


 まったく知能がねーってわけじゃなさそうだな。それとも襲って来たのがたんにバカなだけだったのかな?


「んじゃ、人魚の国に向かうか」


 水竜機が充分使えることはわかった。あとはミタさん以外のデータを取れば申し分ねーだろう。


「ベー。海の上になんか立ってるわよ」


 左側のコクピットに張りついているプリッつあんがなにかを見つけたようだ。


「ミタさん、見える?」


 機体を変えたので後部座席からは見えなくなったのでミタさんに確かめてもらう。


「見張り灯……ではないですね。なんでしょう? ベー様の港にあるような光を放つ塔のように見えます」


「あ、そりゃ灯台だ。ハルヤール将軍、造ったんだ」


 冗談で遊びに行くから目印に灯台を造っておけと言ったが、本当に造るとは。まあ、本当に遊びに来たオレのセリフでもねーけどよ。


「どうやら到着したようだな」


 ハルヤール将軍の国――バルデラル王国に。 

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