第639話 烈光乱舞

 辺りが暗くなり、手元が見えなくなってきたので魔術で光を灯した。


「ミタさん、休憩するかい?」


 出発して約二時間。長距離ドライバーなら大した距離でも時間でもねーだろうが、一般ドライバーとしたら充分長距離運転と言ってもイイ。休憩しても文句は言われんだろう。


「いえ、大丈夫です。もう少ししたらドレミ様と代わりますので。あたしたちに構わずベー様はお休みください」


「あいよ」


 命令して休ませることもできるが、ミタさんのプライドを傷つけるのも悪い。思いのままにさせるとしよう。


 しばらくモコモコビーム弾――MMB弾の製作をしていたら、頭の上で編み物をしていたプリッつあんが下りて来た。


「どうした? トイレか?」


 そう聞くが、なにやら右側を凝視して答えなかった。


 なにかあるのかとオレも見るが、光に反射されたオレとプリッつあんが映るだけ。なんもわからんか。


 光を消して再度見るが、真っ暗でもないが月明かりに照らされた海が見えるだけ。なんぞな?


「……あ、また光った」


 オレにはなんも見えませんが。


「ミタさん。右側を見てくれ。なにか見えるかい?」


 エルフも視力がイイ種族。ならダークエルフも同じだろうと思って頼んだが、当然のように倍率の高い双眼鏡を出して覗く万能メイド。なにをどう突っ込んでイイかわからんわ……。


「……あ、確かになにか光ってますね。距離からして数十キロは離れていると思います」


 見えると言うことは地平線の手前かちょっと越えたくらいか。


「なんでしょう? 遠くてわかりませんが、それなりに規模の大きい光りのようですが?」


「たぶん、魔法的光りだろう。前に人魚の戦い方を聞いたことあるが、海の生き物は光を集めるために目が特殊に進化してるとかで、目潰しに光を戦術に取り込むんだってよ」


 オルグンも使ってたし、海の中、人魚の間では当たり前の戦術なんだろう。


「となれば戦闘が行われているのでしょうか?」


「だろうな。ただ、人魚も夜間戦闘はそんなにしないはずなんだがな……」


 海の中にも夜行性の魔物はいるし、凶暴な性質なものが多い。余程のことがなければ夜は動かないのが基本である。


「ミタさん。水竜機に信号弾的なものはあるかい?」


「ありません。元々夜は動かしませんから」


 だよね。空だって方位磁石があっても迷うくらいだし。


「ですが、カイナーズホームで照明弾を買いましたので撃つことは可能です。しかし、他の方々に伝わるでしょうか?」


「エニマニに注目してくれたら大丈夫だ」


「わかりました。ドレミ様。操縦をお願いします。ベー様、コクピットを開けるのでご注意ください」


 了解と答えると、コクピットが開いた。


 時速にしたら六十か七十キロ。それほど風圧はスゴくないだろうが、平然としていられる風圧でもねーのだが、ミタさんはなんでもないかのように銃を構えると、照明弾を打ち上げた。


 プロキオンの前に展開している防御結界に、矢印を描き、進路を変えることと戦闘用意する文字を描いた。


 ミタさんが座席に戻り、コクピットが閉じられる。


「では、全速力で向かいます」


 速度そのままに右へと旋回。機体が水平になると、さらに速度を上げた。


 ……水竜機の最高速度って何キロだよ……?


 確実に百キロは突破したエニマニ。もう飛べばイイんじゃね。


「お、そう言やミタさん。これ試作機だが、武装とかしてるのか?」


 今さらな質問をした。


「水進魚雷が八発。翼刃が機首、両翼に搭載。銛弾が二十八発。あとは、圧縮砲があります」


 ウン。心強い武装でなによりデス。


「プリッつあん、プロキオンや竜機はついて来てるか?」


 頭の上に戻った臨時監視人に尋ねた。


「ついて来てるわよ。あ、黒髪の乙女の竜機が飛び越えていったわよ」


「竜機にライトなんてついてたっけ?」


「竜機には照明が搭載されているそうです。ほら」


 コクピットに張りつき、前方を見ると、なかなか明るい光りが輝いていた。そう言うのあるんなら水竜機にもつけろや。


「プリッシュ様。前方、見えますか?」


 頭の上から飛び立ち、操縦席に移動するプリッつあん。後部座席と操縦席との間が狭くて前が見えんですたい。


「……なにかしら。翼を生やした魚? 凄い群れだわ……」


 飛び魚の群れか?


「群れの中に、なにかいませんか? 細長い生き物で後方に貝? でしょうか? たくさんついてますね」


「たぶんそれ、人魚の船だ。何隻見える?」


「二……いや、四隻はいるかしら? 群れが凄すぎてよくわからないわ」


 数隻いるとなると隊商か、もしくは軍の輸送隊。まあ、なんだとは言えねーが、ここら辺はもうハルヤール将軍の国。見過ごすことはできん。


「その翼の生えた魚、だいたい何匹いるんだ?」


「少なくても千。海の中もだと三千はいるかと思います。まだ距離があるのではっきりとはわかりませんが、それほど大きくはありません。灰色狼の半分くらいではないでしょうか?」


 海の中では珍しくもないが、襲っている時点で凶暴で肉食と言っているようなもの。脅威としか言いようがねーな。


「どうしますか? さすがに水竜機や竜機の武装では歯が立たないかと思います」


 殲滅するだけなら殲滅ボールでなんとかなるが、それだと人魚の船まで殲滅してしまう。


「フフ。まさかすぐに使うとはな」


 ある意味、これも出会い運だろうか。まあ、あちらは不運だろうがよ。


「ミタさん。今度はオレが外に出る。竜機と一緒になるべく多くの照明弾を打ち上げてくれ。さすがに暗いと人魚の船まで沈めっちまうからな」


「無茶をなさるのでしたら反対です!」


「無茶? オレがやるのは無茶苦茶だぜ」


 そんな中途半端、オレの主義主張に反する。ましてや新たな殺戮技が一つ。そんな生ぬるいことはしねーよ。


「……わかりました。ベー様ですしね」


 呆れのため息とともにコクピットが開き、空飛ぶ結界で外に飛び出した。


 無限鞄から轟牙を取り出す。


「轟牙、装着!」


 空飛ぶ結界を操り、轟牙の背中へと飛び込んだ。


 直ぐに意識が轟牙に移り、結界翼を展開する。


 敵群との距離、約一キロ。充分モコモコビームの射程距離。発射!


 人魚の船の後方に着弾。大爆発を起こした。あ、威力強過ぎた。でも大丈夫。人魚の船はそのまま進んでます。


 あまり知能がないのか、翼の生えた魚はこちらに構わず人魚の船にまとわりついている。


「フフ。そうではないとな」


 無限鞄からビームバルカン砲を四つ取り出し、目の前に並べる。


 わかる人ならわかるだろうから説明はなし。そして、突っ込みはノーサンキュー。


「殺戮技が一つ、烈光乱舞れっこうらんぶ。撃てぇぇぇっ!」 


 名の如し、光りが乱舞した。 

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