第638話 どこでもオレは自由です
――
簡単に言えば水の中を進む用に開発された生体兵器だ。
空に住む小人族に水の中は専門外だが、生体兵器技術は数百年――いや、それこそタケルの潜水艦のように別の世界から持って来たかのような超技術である。
もはや突っ込むのもバカらしいので、ありのままを受け入れ、殿様に水竜機の開発をお願いしたのだ。
まあ、まさか水竜機を造ろうとしていた者がいるとは思わなかったから、できるのは数年後だろうとは考えていた。
それが一月やそこらで試作機ができるんだから都合がイイにもほどがあるわ。もう誰かの意図を感じてしかたがねーよ。
「ベー様、いつでも発進可能です」
他の試作機パイロットの面々は、潜水服のようなゴテゴテしたものを着ているのに、ミタさんはいつものメイド服。まあ、カイナが携わっている以上、ただのメイド服ではねーだろうし、戦闘強化とか言っていた。なら、問題はあるまい。
つーか、オレもいつもの格好。他人にどうこう言える立場じゃねーか。
「あいよ。なら発進だ」
複座式になった水竜機のコクピット。本来の仕様ではねーが、タケルの潜水艦にも積もうと思っているので、操作系は人に合わせて造られている。
後部席に乗り込み、結界を纏う。
「誰か船橋に伝えてくれ。水竜機が先頭を走る。プロキオンはその後に続いてアーカイム隊は左右と背後を守れとな」
「はい、お伝えします!」
技術少佐が敬礼で答えた。
ミタさんも乗り込み、水竜機を起動させる。
「そう言や、水竜機って動力なによ?」
竜機は、心臓を改造した魔力炉らしいが、水竜機も同じなのか?
「わたしもよくはわかりませんが、新しい心臓炉を搭載してるようです」
まあ、超ファンタジーな力で動いているってことね。了解です。
「ベー様。用意はよろしいですか?」
「ああ、万全だよ。プリッつあん、下手に動き回るなよ」
「わかった」
一応、結界を纏わせて固定してるが、プリッつあんの意志で着脱可能に設定してある。死にたくなければちゃんとパイ〇ダーオンしとけよ。
「水竜機試作四番機、発進用意! 後部扉開け!」
誘導員らしきヤツらが忙しく走り回っている。
「水竜機試作四番機か。ミタさん、これミタさん専用機にするから名前をつけろや」
開発以来したとき、何機かもらう約束を交わしている。さっそくこれをいただきましょう。
「でしたらエニマニと名づけさせてもらいます」
「エニマニ? なんか意味あんのかい?」
「昔飼っていた小魚の名前です」
あーうん、そう。まあ、ミタさんがそれでイイのなら構わんよ。水竜機も竜とは言ってるが、魚っぽい体に直角三角形の羽(?)をつけた形をしている。そうは違和感はねーだろうさ。
「ベー様、出ます」
水竜機――じゃなくて、エニマニが後方へ下がり、そのまま海へと落下する。
そう高いところを飛んでいたわけじゃねーのですぐに着水。そのまま潜り、機体を水平に正し、海面上へと飛び出た。
そう言や推力ってなによ?
「高圧噴水機だそうです」
ハイ、超ファンタジーの力ですね。了解です。
「では、速力上げます」
グンっと体が座席に埋もれ、外の景色が……わかんねーか。周り、海ばっかりだし。
沈んでいるだろう太陽は背後。景色だけなら空を飛んでるのと変わりはねー。
なんのおもしろみもねーんで結界を広げてマンダ〇タイム。あーコーヒーうめ~。
「……自由よね、ベーって……」
それがオレ、ヴィベルファクフィニーです。
「ミタさん。四時間進んだら二時間休憩な。ドレミ。ミタさんの操縦を覚えて疲れたら代わってやれ」
「畏まりました」
スライム型ドレミが前の席へとウニョウニョ蠢きながら移動した。ミタさん、よろしく。
マ〇ダムタイムだけでは間が持たないので、ビーム兵器の開発を始めた。
「……それ、アリザが吐いたやつよね……」
「吐いたって、まあ、間違ってはいねーが、ゲロみてーに聞こえるな。モコモコビームって言えよ」
まあ、モコモコビームもしまらねーちゃーしまらねーが、言い慣れたし、それで正式名称決定です。
「危なくないんでしょうね?」
「大丈夫。オレの結界は超強力だ」
でなきゃこん中でやらんよ。爆発ありきの実験なんてオレの趣味じゃねーわ。
「ビームガンを最初から作るより朧で撃てるようにするか」
最近、撃ってねーが、オレの手に馴染んできたし、気に入ってもいる。朧を捨てて違うのをってのはなんか不義理だ。
「そうだな。相棒となったからには使ってやらんとな」
なら、弾の型にしてビームを撃てるようにするか。となれば耐えられる素材……結界を纏わせればイイか。
「となると朧の名前も変えなくちゃダメか」
バージョンアップするからには名前も変えなくちゃならんでしょ。
ニュー朧。なんか語呂がワリーな。朧Ⅱ、朧バージョンⅡ? 朧マークⅡか? いやなんか違うな。朧……朧、改? お、イイなそれ。
「よし。朧改。今お前に新しい命を吹き込んでやるからな!」
すっかり目的を忘れて製作に夢中になった。
「……ほんと、自由よね……」
ハイ、それがオレ、ヴィベルファクフィニーです!
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