第637話 今度こそ人魚の国編スタート
再出発して一日。陽が暮れて来たので錨泊することにした。
「あと、一日ってところか?」
夕食の席、船長が尋ねて来た。
基本、船長は船橋か船長室にいるが、食事のときは食堂で取るようにしている。
まあ、それは船員やメイドさんズも同じで、なるべく他の者とコミュニケーションを取れるようにと食事は食堂で取らせているのだ。
「そうだな。多分、明日には着けるだろうよ」
オルグンにお願いした案内灯(海蛍的な生き物で)が設けられ、気の利いたことにカウントダウン的な数字まで残してくれた。
今、この下にあるのは二。再出発した地点に三があった。少なくても陽が沈む前には着けるはずだ。
「このまま行って大丈夫なのか? 人魚の国は海の中なんだろう」
「まあ、海の中と言えば海の中だが、陸同様、海の中も凶悪な生き物がうようよしている。だから、陸の街と同じく壁を造り、その中で生きている。だから、壁の近くに降りればイイのさ。海面から少し出ているそうだから桟橋代わりにはなるはずだ」
壁と言っても珊瑚(前世とは違い、とても丈夫らしい)なので使い勝手はワリーと思うけどよ。
「そうだな。いきなりも不安だからプロキオンで先行するか」
こちらは三隻。どれも大型だ。いって接岸できませんでは目も当てられん。やはり先行して整えなくちゃマズイだろう。
「船長。プロキオンで先行してヴィアンサプレシア号と輸送船の受け入れ準備をするよ」
「今からか? 夜間飛行は危険だぞ」
海の上とは言え、夜行性の竜や流れた浮遊石がある。この世界の常識だ。まあ、船乗りの世界では、だけどな。
「そこは考えがあるから大丈夫だよ。ただ、護衛に竜機を三機連れて行くが構わねーかい?」
「まったく、お前が言うと当然のように聞こえるから参るよ。なんなら全機連れて行くか?」
「三機で充分だよ。竜程度ならどうとでもできるからな」
轟牙があれば大抵の竜なら一殺。数で来たらビームバルカンや殲滅フラッシュがある。百や二百来たところで怖くはねーさ。
「……わかった。ベーに任せるよ」
話が決まれば即行動――する前に夕食をいただきます。そしてごちそうさまでした。
「んじゃいくぞ」
誰にとかは愚問。来たい者に言ったまでだ。
まずは黒髪の乙女さんに話を通さねーとな。
竜機の格納庫へと向かい、護衛を終えて戻って来た黒髪の乙女に話を通す。
「でしたらわたしとリア、サエが出ます」
「今戻って来たばかりだろう」
三機一隊として三交代で出ている。何時間出てるかは忘れたが、このまま出たら超過勤務なのは確かだ。
「戦となれば丸一日竜機に乗っていることもあります。そのくらいできないようでは竜機乗りとして失格です」
背後の二人もそうですとばかりに頷いた。やれやれ。なんともタフな乙女さんたちだこと……。
「わかった。ただし、出発は一時間後だ。その間に体をさっぱりさせて腹を満たしておけ。こちらも出発準備が必要だからな」
プロキオンにも話を通さなくちゃならんし、水竜機の発進準備をしてもらわんとならんからな。
「プロキオンにいく」
言うと、ミタさんが肩をつかみ、スライム型ドレミが足に絡みついた。
転移バッチでプロキオンの甲板上に転移した。
プロキオンは飛空船団の旗船だが、今回は水竜機の実験船と変え、試作の水竜機が四機収まり、それのテストパイロットと整備士を乗せている。
まずはプロキオンの船橋へと向かう。
「ベー様、いかがなされました?」
プロキオンの船長……あれ、なんて言ったっけ? サーでもなくてヨーでもなくて、あう~んて感じだったはずだ。
「胸を見なさいよ。ネームプレートしてるでしょう」
頭の上の住人の言葉に船長さんの胸を見ればネームプレートがつけてあった。あ、シューロットさんでしたか。よいお名前で。
「ワリー船長。プロキオンは先行して人魚の国に向かう。海面スレスレに飛行して案内灯を頼りに飛んでくれ。安全のためにプロキオンの前にはオレの力で透明の盾を作り出す。護衛に竜機をつけるが、念のため四時間交代で監視を立たせてくれるか?」
「わかりました。少々時間をいただけますか?」
「一時間後に出発する。その間に決めてくれ」
「了解です」
さすが殿様の下で働いてきたベテラン。話が早くて助かるよ。
任せて水竜機格納庫へ向かう。
「えーと、水竜機実験隊の代表さんはいるかい?」
つーか、代表者誰だか聞いてなかったわ。
「はい、わたしが水竜機実験隊の責任者です」
と、三十前後の、見るからに研究員と言った感じの男が出て来た。
「えーと、少佐だっけ、その階級章って?」
「はい。技研所属技術少佐、アルダエトと申します!」
へ~。技研なんてもんあったんだ。
「そうか、よろしくな。さっそくでワリーんだが、水竜機を出してもらいてーんだが、可能かい?」
「はい。いつでも発進可能です。夜間試験でしょうか?」
「まあ、そんなもんだ。ただ今回は海面走行だ。さすがにいきなり海中は危険だしな。その一機にオレが乗る。ミタさん、教わってくれ」
オールマイティーなミタさんなら数分もあれば覚えるだろう。
「こ、こちらの女性にですか?」
「うちのミタさんは万能だから大丈夫だよ」
「……わ、わかりました。では、ミタ嬢こちらに」
「ミタさん。覚えたら船橋に来てくれや」
「畏まりました。すぐに覚えて参ります」
あいよと答え、また船橋に戻る。
さて。人魚の国編、今度こそスタートだ。
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