第630話 どうなるよ?

 そんで戻って来ましたヴィアンサプレシア号の食堂。二、三十分は空けたのに、アリザはまだ食っていた。


 いつもなら……どんくらい食ってたっけ、こいつ? まあ、よく覚えてないが、四十分もすれば腹一杯になってたはずだ。


「あんちゃん。アリザ大丈夫なの?」


 作るのをメイドさんに任せたのか、アリザの向かいの席に座った。


「食ってれば大丈夫だが、食わないと餓死するらしい」


 うちの食糧事情的にはなんも問題ねー。餓死させることはねーだろう。が、アリザの肉体的にはなんとも言えねーのだ。


 この食べっぷりを見てると、なにかまだありそうな予感がするし、このままで終わるとも思えない。


 暴食と言うのも心をざわつかせるが、なにより魔王と言うのが不安でしかねー。


 魔王をそれほど知っているわけじゃないが、魔王になる者はどこか異常で生命の枠から外れた者が多い。全てのことに予想することができないのだ。


「アリザ、まだ腹一杯にならないのか?」


「全然お腹一杯にならない」


 器用に答えるアリザ。無駄に性能イイな、ほんと。


「なら、これを食ってみろ」


 無限鞄から世界樹の種を空き皿に盛る。


 あまり知られてないが、世界樹の種はアーモンド味がして結構旨く、エルフの保存食とされている。


 世界樹の種一つで、四日は持つと言われ、オレも試しに食ってみたが、七日は食わなくても平気だった。


 ……腹が減らないってのも大変だと学んだもんさ……。


 どこかの猫人が作ってる豆とは違い、特別な効果はないが、回復薬に混ぜると粗悪な回復薬ですら中級回復薬になってしまう。まあ、使用上の注意を守り、できることなら薬師の判断で飲むことをお勧めします。


 皿に盛られた世界樹の種を無造作につかみ、口の中へと入れて咀嚼するアリザ。


 五秒としないで完食。次なる料理へと手を伸ばした。


 一分二分と時間が流れる。あれ? なんもなし?


 と思った瞬間に、アリザの体が揺れ、肉が膨張していく。


 ……あーうん。なんかマズいときの反応だね……。


「あんちゃん、アリザが変身するよ!」


 これまでどんなことがあっても慌てなかったサプルが、あわわと狼狽えている。あら珍しや。


「ベー様。危険だと思います」


 万能メイドのミタさんの危険察知の能力もざわついています。これはヤバゲです。


「ベー様っ!」


 呑気に眺めているオレに、メイド長さんが叫ぶが、気にせずアリザの変身シーンを眺めていた。


 そして、変身が完了。昨日の同じ……ではねーな。なんか角がちょっとグレードアップし、体も象くらいになっていた。


 モコモコ獣アリザ、ここに降臨!


 ってまあ、どうなるか見たくてオレがわざと召喚したんだがな。


 純白の毛ながらなぜか金色に光るモコモコ獣。体を震わせると、口を開いた。


「あんちゃん!」


「ベー様!」


 その威力を知っているのだろう、サプルやメイドさんズが騒ぐが、我、明鏡止水(今回は現実逃避じゃないよ)。慌てず騒がずモコモコ獣の口の前に結界を展開させた。


 ――キラン。


 と眩い光が食堂を支配するが、オレは結界サングラスをしてるのでガン見継続中です。


 モコモコビームが射出終了――かと思いきや、次発装填を開始し始めた。


 モコモコビームを封印した結界をどけ、新たに結界を展開する――と同時に二射目発射した。


 二発で撃ち止めになることはなく、計八発も撃ちやがった。


 たぶん、力が制御できなくて暴走してたが、暴れたら落ち着いたらしく、焦点がなかったアリザの目に理性的な輝きが戻った。


「アリザ、落ち着いたか?」


「……うん。お腹すいた……」


 まあ、あんだけ撃てば腹も減るわな。つーか、食った量のエネルギーと撃ったエネルギーって同じなんだろうか? どう見ても撃った方がエネルギーが高いように思うんだがよ……。


「ガマンできるくらいか?」


「……お昼までは……」


 きゅるきゅると鳴くお前のお腹は無理だと叫んでるぜ。


「まあ、腹が減ったら食えばイイさ。つーか、そのままなのか?」


 そう言や、前のどうしたっけ? 捨てたか?


「ううん。脱げる」


 ……それは脱ぐものだったんだね。オレびっくり……。


 昨日のように背中が破れ――その場からヒラリと退避でござる!


 今までいたところに巨大なスパナが鎮座していた。あっぶねー!


「……ミタさん、その反射神経をオレを撲殺につかうより、バスタオルを出して隠してやることに使えよ……」


 オレ、頑丈なだけで不死身じゃないんだからね。血も涙も出る平和な種族なんだからね。


「……も、申し訳ありません。ベー様がアリザ様の裸を見たくてやっているかと思って……」


 オレも男だ、女の裸に興味がねーとは言わねー。だが、家族の体を見て興奮する性癖はねーよ。つーか、前世で枯れたオレをもう一度咲かせたかったらボンキ――いえ、なんでもございません。女性は存在するだけで美しいと思います。ハイ。


 メイドさんズによりスッポンポンなアリザが強制退場。あ、ミタさんお茶……一緒にいっちゃいましたか。なら、自分で淹れます。


 テーブルの上にあった茶筒を開け、急須に少々入れ、お湯を入れる。


 二十秒ほど円を描くように急須を回して茶碗に注ぐ。


「……う~ん。いまいち……」


 オレ、お茶淹れるの下手だね~と思いながらもお茶を飲んでいたら、アリザが脱いだ(?)……なんだ、これ? つーか、羊の着ぐるみか剥製だな……。


 背中がパックリと開いていたので、中どうなってんだろうと覗いて見たらなんか亜空間的な世界が広がっていた。


「……不思議な空間になってるわね……」


 頭の上の住人さんはいかなかったようで、頭から下りて……モコモコ獣(脱着後?)の中を覗いていた。


「…………」


 自分でもなぜそう思ったのかわからんが、プリッつあんをわしっとつかみ、モコモコ獣の中へとポイ。背中を締めた――ら締まりましたよ、奥さん。


 で、どうなるよ?

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