第631話 モコプリ

 只今、ヴィベルファクフィニーくん十一歳が絶賛踏まれ中です。


 うむ。あまり語呂がよろしくないな。


「ベーが! ベーが! アンポンタンなのっ!」


 プリッつあんがアホの子のように泣いてます。ちなみに踏んでるのはプリッつあんです。


 頭の上に住まれて数ヵ月。毎日踏まれているようなもの。今更気にはならないが、足でドンドンやるのは止めてください。ヴィアンサプレシア号の床が抜けちゃいますんで。


 えーと、これなんて状況? そう問う方々にお答えしよう。


 あれは今を過ぎること十五分前。アリザを連れて皆が食堂を出て行き、オレ、プリッつあん、ドレミが残されました。


 そこにはアリザが脱ぎ捨てた……着ぐるみ? があったら興味持つじゃん。背中がパックリ開いてたら覗くじゃん。それが好奇心ってものじゃんよ。


 で、三人(?)で覗いたら、なんか中が亜空間になってるじゃありませんか。謎ですね。不思議ですね。いったいどうなってんのよと思うでしょ、人として。


 そこで思ったわけですよ。アリザ、脱げるって言ったなって。


 脱げるってこは着れるってこと。じゃあ、着てみるかと、プリッつあんを入れてみた訳ですよ。まあ、やったときはそんなこと考えて訳じゃねーし後付けだが、オレの考えるな、感じろは行けると踏んだのだ。


 じゃあ、なんでプリッつあんにやらせんだよ!


 オレはオレの勘を信じるし、もし万が一のとき、なんとかできるのらオレだけ。自ら実験体になる訳にはいかんでしょう。


 ぶっちゃけると?


 どうなってるかわからない亜空間になんて入りたくないからプリッつあんにやらせました。ごめんなさい。


 で、背中が閉まると、なにか着ぐるみ(?)が震え出し、中から魔力が高まってきた。


 ちょっとヤバイかなと着ぐるみの背から下り距離を取る。身の安全と言うよりは精神に余裕をもたせるためだ。


 魔力が充満し、震えが止まった。


 緊迫の間。


 と、着ぐるみの閉じた瞼が開いた。


「……な、なんなのよいったい……?」


 着ぐるみの口からプリッつあんの声が出た。はぁ?


 心なしかなよっとしたモコモコ獣が、キョロキョロと辺りを見回す。


 咄嗟にテーブルの下に隠れ、様子を見る。


「……わたし、あれ? ベー? なんだか体が変なんだけど……」


 ウム。やはりあれはプリッつあんか。完全に中の人状態だな。


 モコプリ(勝手に命名)の視線に入らないようにほふく前進する。


「ねぇ、なんなのよ? ベーどこ?」


 今、君の後ろにいるの。振り返らないでね。


「――なにこれ!?」


 モコプリの驚愕した声に振り向くと、壁の鏡を見ていた。まさに絶句。無理もない……。


 自分に起きた出来事を受け入れるための時間をあげようと、食堂のドアに手をかけようとしたら、外から開けられた。


「ベー様、どうかしましたか?」


 ――殺気!


 と思うと同時にプリモコさんに頭からガブリんちょ。飢えた狼のようにハミハミされました。


 それからまあ酷いこと。咬まれた後は、壁に何度も叩きつけられ、また咬まれ、最後にはその大きな足でフミフミ。オレじゃなければ死んでますね。


「ベー様が悪いです」


 ミタさんがもっともで、冷静で的確なことを言った。


 まったくもって反論できぬ。だが、後悔はせぬ!


「アリザ様。プリッシュ様はどうなるんでしょうか?」


 皆の目が暴食いするアリザに向いた。


 誰のコーディネーター……まあ、ミタさんだろうが、随分と可愛らしい服を着せたこと。動かなければ気品のある美女なんだが、暴食いが全てを台無しにしていた。


 ……見た目だけなら風格はあるんだがな……。


「脱げばいい」


「脱げるのですか?」


「脱げるよ。背中から」


 まさに着ぐるみだな。つーか、着れる説明もしてください。


「プリッシュ様。背中を開くように思ってみてください」


 ミタさんによる的確な指示のもと、モコプリの背中から光が漏れ、めでたくプリッつあんが脱皮しました。


 ……イイ映画だった。ヴィベルファクフィニーくんは未だに踏まれてますが……。


「あ~ん! 怖かったよぉ~!」


 ミタさんの胸に埋もれて号泣するプリッつあん。感動だね~。


「――ベーはそこで反省よ!」


 復活したプリッつあんが、モコプリに踏まれたヴィベルファクフィニーくんに蹴りを入れてます。酷いよね、動けない人を蹴るなんて。


 しばらくして、サプルがアリザの食事を強制終了させ、食堂を出て行った。


 メイドさんズも食堂の片付けを終わらせて食堂を出て行き、オレだけ――いや、ヴィベルファクフィニーくんに擬態したドレミと喜劇を観賞していたオレだけになった。


「ドレミ、生きてる?」


「はい、生きております」


 モコプリに踏まれているヴィベルファクフィニーくんが蠢き、スライムへと戻った。


「悪いな、身代わりにして」


「それがわたしの勤め。お気になさらず」


 まったくよくできたスライムだよ。ありがとな、ドレミ。


「そんで、モコプリの性能はわかったか?」


「はい。モコプリはアリザ様以外にも着れますが、一度着るとその者しか着れません。着脱は自由ですが、魔力が切れると強制的に排除されます。魔力が完全になくなるとモコプリは崩れてしまいます」


「つーことは、これはもうプリッつあん用か。使えねーな」


 プリッつあんがもう着るとは思えねー。粗大ゴミ決定かよ。


「でしたら、わたしが吸収します。よろしいでしょうか?」


「構わんが、モコプリを吸収するとどうなるんだ?」


「モコプリの力が使えます」


 ……なかなかおっかねー能力をお持ちで……。


「まあイイさ。モコプリを吸収しろ。モコプリの性能をよりよく理解するためにな」


 モコモコ獣の中を見て思ったことがもう一つあった。


 これ、移動砲台になんじゃね? ってな。 

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