第629話 暴食の魔王
モコモコガールからモコモコ要素がなくなっていた。
「つーか、ガールの要素すらねーな」
モコモコガール、完全消滅。さようなら~。
「んじゃ、アリザだな」
特徴があるようで特徴がない姿。角がある獣人はいるし、白髪なんて戦闘民族な賢者殿がいる。インパクトはマイナスまで落ちている。
「……なんとなくだけど、ベーの名前を呼ぶ基準が見えたかも……」
そんな基準ねーよと強制分離。スライム型ドレミにドッキングさせた。
「サプル。なんか腹に優しいものをくれや?」
アリザの横に座り、厨房にいるマイシスターにお願いした。
「クルムスープでイイ?」
カボチャに似たもので、柔らかい舌触りと胃に落ち着くスープだ。それでお願いします。
「にしても成長したな」
モコモコ時代は八歳くらいで、脱皮(?)したときは十五、六に見えたのだが、今は十八、九くらいになっていた。
「まさに生命の神秘」
いや、生命の冒涜か? まあ、どっちでもイイわ。意味不明な生き物なんだからよ。
「成長しても食べるのね?」
ドレミから分離したプリッつあんがアリザの前に着地する。
……食われるぞ、プリッつあん。――あ、ほらっ!
腕が見えないくらい目の前にある料理に手を伸ばすアリザにつかまり、慌てて結界術で助け出した。
「プリッつあんは下がってろ」
もう一度ドレミにドッキングさせる。
ったく。こーゆー無警戒に近づくところがメルヘンの悪いところだよな。
「はい、あんちゃん。クルムスープ」
ありがとよ、サプル。お前の愛が胃に染みるよ……。
「ねぇ、あんちゃん。アリザ、どうなっちゃったの? あのモフモフは帰ってこないの?」
「すまんな。オレにもよーわからんのだ。食ってたら突然光り出してな、そしたら脱皮したんだよ」
自分で言ってても意味不明だが、こんな不思議生物なんて初めて。本当に生物なのかも疑問だぜ。
「ミタさん。ブララ島にいける?」
「ブララ島ですか? 初めて聞きました」
まあ、そりゃそうだわな。さすがに知るわけねーか。オレですら最近行ってねーしな。
「ちょっとアリザのとーちゃんに聞いて来るわ。ミタさん」
手を伸ばすと、ミタさんが手を取り、プリッナイトが頭に乗った。
もはやオレの付属物。気にせずブララ島へと転移した。
現れたところは港で、見渡す限り、モコモコ族が視界には入ることはなかった。どこだ?
ブララの収穫は終わっているはずだ。なら、皮剥きか?
とりあえず山の上に造った作業所へと向かってみる。
「あ、ベーさまだ!」
と、モコモコ少年がオレを発見して声を上げた。
オレらと少年の間には木々が生い茂っているのだが、魔境で生きてきた獣人なだけあって、臭いか気配かでわかるよーだ。
「これはベーさま。よく来てきださいました」
モコモコ族総出で迎えてくれた。
「ワリーな、突然来てよ」
「いえ、ベーさまならいつでも歓迎です」
やっぱこのモコモコダンディー、魔境の外に出たことあるな。しゃべりが流暢だ。
「そりゃありがとよ。で、だ。今日来たのはアリザのことなんだが、ありゃなんだい?」
脱皮したことを伝えた。
「以前、お話したかもしれませんが、アリザは金の娘で、暴食の力を持っているのです」
あーなんかそんなことを聞いたような気はするが、金の娘とか、暴食の力とかは聞いてねーはずだ。
「一族の古い言い伝えで、我々シュラダ族は、魔王の一族で、金の力を宿していたそうです。ですが、金の力は暴食の力。食べなければ本来の力は出せず、飢饉でその力を失ったとあります」
「けど、たまにアリザのようなのが生まれると?」
「はい。ですが、どう頑張っても十歳までは生きられません。餓死してしまうのです」
確かに魔境にいたらあの胃を満足させるなんてまず不可能だろう。仮にできたとしても魔境の生態系が狂ってしまう。そうなったら周りの国もなんらかの被害は出るだろうよ。
「今はイイが、対策を立てておかねーとマズいだろうな」
今は海竜や魚介類があるから十数年は大丈夫だろうが、この先、人口が増えれば食料不足になって行くことだろうよ。
「我々に住み家を与えてくれるばかりか、アリザまで面倒見てもらい、どう感謝してよいかわかりません」
「なら、無理に感謝することはねーさ。あんたらを助けたのはオレに得があるからだし、アリザのことはサプルが気に入っているから食わしてるだけ。こちらの事情と勝手さ、気にする必要はねーよ」
こうしてブララを収穫してくれ、大量のジャムを作ってくれ、あのモコモコがサプルの平穏を支えてくれている。感謝するのはこっちだぜ。
「そんなことより、脱皮したアリザが急成長したんだが、あれって大丈夫なのか? 一気に十歳は成長したぞ?」
「なにぶん言い伝えで残ってきたもので、はっきりとは申せませんが、魔王へとなる成長過程でさらに暴食となり、足りないと死ぬ場合があるそうです」
まあ、食料が足りなくなることはねーからそれはイイが、問題はあの食い方だな。あれだけ食ってるのに足りないって、料理一つに占める栄養素が薄いかもしれんな。
「そうか。わかった。アリザのことはこちらでなんとかするよ。あと、落ち着いたらアリザを連れて来るから家族団らんでもしてくれや」
「お心遣い、ありがとうございます」
またなと、ヴィアンサプレシア号へと転移した。
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