第599話 青鬼のシンエモン
起動準備は大老どのらやフミさんらに任せ、メイドさんらや黒髪の乙女さんら、ゼルフィング商会の者を再度集める。
「黒髪の乙女さんらはワリーが、また空に上がって観衆を湧かしてくれや」
「はい。お任せください」
全員が一斉に敬礼して竜機へと駆けていった。
「サプル。船内に家具とか皿とか運んだのか?」
追い出されてからはまったく中のことがわかんねーんだよ。
「だいたいは整えてはあるけど、食糧なんかはまだやってないよ。ねぇ、あんちゃん。厨房や食堂が小さいんだけど、あれじゃそんなに賄い切れないよ?」
「あれはヴィアンサプレシア号専用のだよ。大人数のときは違うところを使う」
そのためのアドバイザーを頼んだんだが、まだ来てねーのかな?
「サプル、カイナをどっかで見たか?」
「カイナさんなら、たぶん、プリトラス・フィーアじゃないかな? 入って行くのは見たけど、今もそこにいるかはわかんない。誰か見た人いる?」
と、メイドさんらに尋ねたが、誰も見てないよーだ。なら、プリトラス・フィーアにいるな。
「わかった。メイドさんらは、起動して初飛行したら食糧を積み込むから準備しておいてくれ。ただ、ヴィアンサプレシア号専用の食糧は初飛行前に積んでてくれ。万が一のときのためによ」
「万が一?」
「まあ、あり得ねーとは思うが、初飛行でそのまま出発ってことがあるかもしれんし、誰かに転移させられるかもしれん。初飛行とは言え、飛ぶからには最低限の用意をしておくのが責任者の勤めだ」
そんなマンガみてーなこと起こる訳ねーだろうが、マンガみてーな世界に生まれてしまった身としては、あり得ねーと一笑にはできねー。常に備えろの精神でやっておくのだ。
「でしたら武器も一緒に積んで置くべきかと」
と、メイド長さんからの意見具申。
「そうだな。その辺はメイド長さんに任せる。必要と思うものは最低限積んでくれ」
まあ、サプルの収納鞄に必要なものは揃ってんだがな。一応、だ。
「畏まりました」
「ゼルフィング商会の者も初飛行が終わったら荷物を積み込むんで用意しておいてくれ。人手が足りないときは人足を雇え。金はあるか?」
クレイン支部の代表さんに問う。
「はい。運転資金は婦人にいただいております」
仕事が早い婦人に感謝です。
「んじゃ、頼むわ」
任せてプリトラス・フィーアへと向かう。
中に入ると、そこも死屍累々。つーか、酒クセーな。どんだけ飲んでんだよ。
死屍累々を掻き分けて奥へと進み、食堂に入ると、人外やらなんやらが酒盛りしていた。まだ飲んでたのかよ……。
「あれ、ベー。どうしたの~?」
「どうしたのじゃねーよ。船のお披露目に来たんじゃねーのかよ、お前らは?」
「あれ? そーだっけ? では、新しき船に乾杯!」
乾杯と応える人外どもとなんやらども。完全に飲んべえによる飲み会になってんな、こりゃ……。
「乾杯はイイから頼んでおいたアドバイザーはどうしたよ?」
「アドバイザー? なんだっけ?」
「豪華客船のだよ。使い方を知ってるヤツを頼むって言ったろうが!」
とてもじゃねーが、豪華客船なんて扱えねー。だから、それを扱える者をカイナに頼んだのだ。
まあ、いんのかよと自分自身に突っ込んだが、カイナならなんとかするはず。そう思って聞いたらカイナーズホームにアドバイザー部とかあって、前世のものの取り扱いを教えてくれるんだってよ。
「ん? ああ、あれね。えーと、どこだっけな。昨日連れて来て……あ、あそこか。ほい――」
と、真っ青な顔をした鬼のあんちゃんが現れた。いや、青鬼か。
「乗り物担当の人だよ」
いや、鬼だよ。って、突っ込みはノーサンキューで行こうぜ。
「つーか、酔いつぶれてんだが」
床にぐったりと倒れる青鬼さん。どーすんだよ、これ?
「ほいっと。これで大丈夫だよ」
なにをしたかわからんが、青鬼さんの顔色が……って、青鬼だから変わらんわ。
「……あれ、ここは……?」
「まあ、イイわ。もらってくぞ」
青鬼さんの襟首をつかみ、外へと引きずり出した。
「え、あ、ちょっ、な、なんなんですか、あなたは!?」
「オレはベー。カイナに豪華客船を扱える者を頼んだ者だ。これから豪華客船を扱う者を紹介するよ」
「あ、え、わ、わかりました、わかりましたから、そう引っ張らないでくださいよ! 自分で歩きますからっ!」
「なら、自分の足で歩け」
襟首を離し、構わず先を進む。
「もー! 乱暴なんですから!」
ぶつくさ言いながらも青鬼さんが後をついて来た。
「つーか、鬼族って粗暴で筋肉ムキムキって聞いてたんだが、あんたは細いんだな。しゃべりも理知的だし」
「赤鬼族や緑鬼族と一緒にしないでください。青鬼族は知性派なんです」
へ~。鬼族にもいろいろわかれてんだ。初めて知ったよ。
「あ、わたしは、シンエモンと申します。アドバイザー部で乗り物を主に担当しております。あ、これ名刺です」
なかなか突っ込みどころ満載だが、スルー拳二倍も出せば気にもならねー。あ、名刺どーもです。
「カイナに頼んでおいてなんだが、あんな船を扱えるってどーゆーわけよ。あんたらの技術じゃねーだろう」
「あ、それはカイナ様から知識を転写されましたから扱えるのですよ。まあ、実際に動かしたことはないんですが、教えることはできるのでご心配なく」
なんでもあり。そう納得しておこう。
「修理とかもできんのかい?」
「いえ、それは修理部が担当します。さすがにわたしたちの頭では無理です。あ、修理部も連れて来てますからご心配なく。えーと、クルフ族なんですが……ああ、いたいた。ちょっと失礼」
そう言うと、造船所の前にいた、デフォルトなおっさんの集団へと駆け出した。
……クルフ族って、確かフミさんらの種族だよな……?
「あ、ベー様。こちらが修理部の係長でバッガスさんです」
「バッガスだ。娘が世話になってる」
娘?
「フミの父親だ。仕事を与えてくれてありがとよ。クルフ族は女が物いじりすんのは縁起が悪いって言って仕事ができねぇのさ」
なるほど。だから全員女だったわけか。
「そうなのかい。まあ、オレは気にしねーんで、男だろうと女だろうといるならこっちに回してくれや。まだまだ人手が足りねーんでな」
三千人は軽く収容できる豪華客船。フミさんらだけでは追いつかねー。いるんならぜひともくださいだ。
「ああ。なら頼むわ。クルフ族に仕事を与えてくれ」
おう。いっぱい与えてやるぜ。
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