第600話 ざっくり終了
豪華客船で働いてもらう者は、三十五名。船を動かしてもらうためのメンバーだ。
本当なら技術者も加えたいところなんだが、前世の技術なんて一朝一夕にはいかねー。部品交換ですら技術がいる。とてもじゃねーが、素人には無理だ。
だから、使い方だけ学ばせ、二、三年で交換するかと考えていた。まあ、フミさんらが来たので練習用にして学ばせるつもりではいた。それでも習得には至らねーだろうがな。
「シンエモンさん。人員が足りてねーが、この三十五名で動かせるようにしてくれねーかな?」
「三十五名ですか。最低でもこの倍は欲しいところですが、航海しないと言うならなんとかなるでしょう。ただ、全ての機能を使おうと考えているなら二百人は集めることをお勧めします」
二百人かい。それはまた難題だな。
「まあ、最新鋭の客船ですからだいたいがコンピューター制御されてますから、区画を区切れば三十五名でも可能でしょう」
「なら、大ホールと客室、だいたい百くらいでどうかな?」
目的を話すと、思案するシンエモンさん。
「そう、ですね。中央にあるダイニングを開放して、三階層の部屋を使いましょう。防災扉を閉めれば簡単に封鎖できますからね」
「んじゃ、その方向で頼むわ。あと、人の配置とか役割とか頼んでイイかい? 全員が素人だし、種族によって向き不向きがあるだろうからよ。もちろん、追加料金は払うからさ」
雇い入れた三十五名は、全員が魔族。オレが見て判断するより魔族のシンエモンさんに決めてもらった方が確かだ。
「いえ、追加料金は結構ですよ。今のところ、カイナーズホームはベー様でもっているようなもの。大お得意様へのサービスでやらさせて頂きます」
確かに、億単位で買ってるのオレぐらいか。つーか、オレが買わなかったらどうしたんだ、あの店は?
「まあ、イイわ。やってくれんなら頼むわ」
三十五名をシンエモンさんに任せ、フミさんの親父さんと向かい合う。
「えーと、フミさんの親父さんよ。親父さんは、船の修理や保全とか、どこまでできんだい?」
「さすがに建造までの技術はないが、あるものを修理したり保全したりはできるよ」
「それはまたスゲーな。難しいとかのレベルじゃねーだろうに」
前世の技術なんて、感じるな、考えろだもん。とてもじゃないがオレの頭では理解できんよ。
「そうだな。カイナ様に知識を受けたとは言え、わからないことは沢山ある。だが、機械屋としての技術はあるから心配するな」
よーわからんが、やれるのなら任せるのみ。起動準備しているフミさんを呼び出した。
「フミさんの配下って何人いたっけ?」
なんかメイドとしてうちにいたが、造船所で働いてたのは二、三十人いたような気がしたが。
「五十四人です」
あれ? なんか人数増えてね?
「そ、そんなにいたっけ?」
「はい。技術者はいくらいても困らないと言うので、興味のある者に声をかけて集めました」
なに気に人材確保がお上手で。なら、これからもお願いします。
「ヴィアンサプレシア号の技師って何人いればイイ?」
「船だけの維持でしたら十名もいれば充分です。ただ、竜機の方もとなると三十名は欲しいかと」
「竜機の方は小人族の整備士に任せる。そのうち連れて来るから分担やらを話し合ってくれ」
「わかりました」
「なら、残りを、いや、班分けしてフミさんの親父さんから技術を習得してくれ。親父さん、頼まれてくれるか?」
フミさんの表情からなんか確執的なもんを感じるが、それは父娘間で解決してください。オレにはなんもできませんので。
「……ああ。これも仕事だしな」
ハイ、お任せしましたと、ヴィアンサプレシア号へと向かい、船橋へと上がった。
「大老どの、準備はどうだい?」
ヴィアンサプレシア号の船橋は、六畳ほどの広さで、中央に舵があり、右に船長席があるだけの簡素な船橋だが、この世界の飛空船なんてこんなもの。魔力万歳な法則で動いてんだよ。
「こちらは、いつでも発進可能だ」
エンジンなんて積んでねーし……って、そー言や、飛空船の動力ってなによ? 全然気にもしなかったわ。
「なら、固定具は外しておくから、発進準備が整ったら、造船所を出て空に上がってくれ。テキトーにクレイン湖の周りを何周かして降りてくれ。オレは下で見てるからよ」
「了解だ。その後の計画はどうなってるのだ? 直ぐに帝国に行くのか?」
「いや、ちょっと初航海がてらオカンと親父殿を新婚旅行に連れてやろうと思ってな」
「新婚、旅行? なんだ、それは?」
んー。そう問われると答えらんねーが、まあ、ちょっとした儀式? いや、風習か? まあ、親孝行だよ。
「よくわからんが、いつ出発するのだ?」
「そうだな。二日後、くらいを目標に出発する」
サプライズだからいろいろ準備しなくちゃなんねー。二日もあればなんとかなんだろう。
と言うことで、ざっくりとしたお披露目をして終了。あとは、騒いで飲んでいつもの日常に戻ってください。
オレは一足先にドロンさせていただきやす。
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