第598話 搭乗

 なんて昔を思い出しっちまったが、それはオレとオトンが知ってればイイこと。いつかサプルが嫁にいくときに語ることにしよう。


「お前の父親は、いったいなにを考えていたんだ?」


「子どもたちの幸せな未来さ」


 愛されて、望んでくれた両親に深い愛と感謝だ。


「……そうか。生きているうちに会いたかったな……」


「大老どのにそう言ってもらえると、息子として誇らしいよ。でもまあ、今は生きてる者を優先してくれや」


 オトンを偲ぶのはオレが請け負う。オトンの息子として、その思いを受け継いだオレの権利さ。


「……わかった。にしても、サプルの名前がヴィアンサプレシアとはな。それならそれと言えよ。水臭い」


「そう使う名じゃねーしな、必要がなけりゃ忘れてるんだよ」


「まあ、確かにヴィベルファクフィニーもヴィアンサプレシアも普段使うには不便だな。わしもヴィベルファクフィニーと呼べるようになるのに苦労したもんだ」


 言えるようになっただけ大老どのはスゲーよ。なかなかヴは発音し難いからな。


「ベーさま。観衆が集まりました」


 ゼルフィング商会の一人が報告に来た。名札、全員にはいき渡ってねーのかよ。これが終わったら名札作りに取りかからんとな。


「あいよ。んじゃ、お披露目式といきますかね」


 ポケットから殺戮阿と爆雷の魔術を封印した結界球を取り出し、空に向かって打ち上げた。


 花火とかカイナーズホームで売ってそうだが、ファンタジーな空にはこれが似合うだろう。まあ、ちょっと華やかさはねーがよ。


 ゼルフィング商会の者や船の乗員、作業員、メイドさんズを並ばせ、演台の上に上がる。


「これより船のお披露目を行う。サプル。こっちへ」


「なーに、あんちゃん?」


 演台の上に上がって来たサプルに、無限鞄からワインボトルを一本取り出して渡した。


「これをあの船に向かって投げろ。力いっぱいに」


「え、汚れちゃうよ?」


「イイんだよ。これは新しい船を清めるものであり、船の安全を願うもんだ。まあ、そーゆーもんだと納得しろ」


 オレもなんでかは知らんが、儀式なんてそんなもの。思い込んだが勝ちだ。


「よくわかんないけど、ぶつければイイんだね。えいっ」


 かけ声はカワイイが、飛んでいくワインボトルはえげつない。たぶん、オーガなら一殺できそうな威力で船に激突した。


 ……結界張っておいてよかった。してなきゃ貫通してたぞ……。


 厚さ五ミリの鉄板を張りつけただけで、防御力なんて求めちゃいねー。空を優雅に飛行する豪華客船なんだよ。


「所有者、ヴィアンサプレシアにより船は清められた! 大老どの、前へ!」


「はっ!」


「汝にヴィアンサプレシア号を託す。ヴィアンサプレシアの名に恥じぬ舵取りを任せる!」


「はっ! アルム・ハイデルトが慎んで承った」


 え、大老どの、そんな名前だったんだ!? とかビックリだが、顔には出さず頷いた。


「フミ、前に」


「はい!」


 大老どのが下がり、フミさんが前に出る。


「汝をヴィアンサプレシア号専任技術長に任命する。船の安全を任せる!」


「はい、フミ・アルバーン、誠心誠意当たらせていただきます!」


 背筋を伸ばし、一礼した。


「メイド長、前に」


 フミさんが下がり、ダークエルフのメイド長さんが前に出る。


「汝をヴィアンサプレシア号のメイド隊総隊長を命じる。サプルを守り、支えよ!」


「畏まりました」


 簡素に、だが、しっかりとキレイなお辞儀をして答えた。


「アーカイム隊隊長、前に」


「はっ!」


 メイド長が下がり、黒髪の乙女さんが前に出る。


「汝をヴィアンサプレシア号の守護を命じる。あの純白に傷をつけさせるな!」


「竜の翼に誓って」


 敬礼する黒髪の乙女さん。


 他にも細かい仕事はあり、任命したいところだが、それは後々だ。今の四人が各部門の最高統括者だ。


 その上に総責任者、サプルがつくんだが、まだ幼女のサプルにやれって方がワリー。なので、ヴィアンサプレシア号はゼルフィング商会の一部として、オレが責任を負うことにする。


 もちろん、普段のメンドクセーことは、マルッとサクッとお任せ。ガンバってちょうだいな。


「全員、搭乗! ヴィアンサプレシア号を起動せよ!」


 オレの指示に全員が頷き、それぞれの持ち場へと向かった。

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