第577話 カッコイイじゃねーか
そして、老騎士は希望を胸に旅立つのであった。
……イイ最終回だった……。
「……なにか、ベーの中では感動的なことが起こっているようだけど、顔はゲスいことになってるからね……」
おっと。これは失礼。あまりに上手くいったものだから感情が抑えられませんでしたわ。ケケケ。
ドレミからコーヒーをもらい心を落ち着かせる。
「ん? どったの?」
あらやだ。そんな罪人を見るような目を向けないできださいよ。オレ、無害な村人だよ。
「なにを考えておる。と言うか、なぜ領主様だとわかるのだ?」
「なんとなく?」
湯飲み茶碗が飛んでくるが、痛くも痒くもありませーん。
「ったく。領主様に名を捧げろとか、どうするのだ?」
どうするもなにもそのままの意味だが?
「まあ、領主様が味方になってくれた方がなにかとやり易いっしょっ」
アホな領主はいらないが、あの領主ならなにかと使える。やはり、身近に協力者は欲しいところだ。
あんちゃんに道を、と言われたとき、道の重要性に気がついた。
輸送を空だけに頼るのは危険だし、孤立した国に繁栄はねー。繋がってこそ道。行き止まりに未来はねーよ。
「それに、町とか造るのに領主の力は必要だしな」
さすがに人が増えすぎ、村から町になりそうな気配になってきた。
まあ、村人が町人になったところで問題はねーのだが、陽当たり山がこれ以上発展すると山の衆との軋轢を生む。山の衆が自ら発展を願うなら協力もするが、このままを続けたいのならオレもそれに従うまでだ。
「村長も気づいているだろうが、いろんな種族がこの村に集まっている。村の者は他種族に寛容だろうが、さすがに多くなると問題がどうしても出る。それを防ぐためにも新たに町を造らねーとならん。そうなると領主の協力なしには不可能だ。どうしてもこちら側に引き込まなくちゃならん。そのためならオレはなんでもするよ」
いやまあ、全てオレが原因なんですけど、もう止まれない。ならば、全力で未来に進め、だ。
「……村の未来はお前に任せてある。好きにせい」
言葉にはせず、ただ村長に頭を下げた。ほんと、話のわかる村長で助かるよ。
「……キノコ病、だったかい?」
と、ずっと沈黙していたオババが口を開いた。
「ああ。世にも奇妙な病気だな。それが?」
なにか怒られている感じがするんだが、なぜに?
「お前なら治せたんじゃないかい?」
「自信をもって治せるとは言えねーが、たぶん、なんとかできると思う」
キノコ病が寄生なら結界で包み込み、伸縮能力で小さくして排除なりすればイイ。もちろん、それだけでは治したとは言えねーが、そこは薬師としての腕の見せ所。やってやれねーことはねー。
「じゃあ、なんでやらんのだ?」
どうやら治せるのに治さなかったことにご立腹のようだ。
「治せるなら治させてやりてーじゃんか。老騎士さんに、いや、領主さまによ」
その意味がわからないようで、皆が首を傾げた。
「あの領主さまの苦労なんて知らねーし、知った口を叩く気もねー。だが、救いたい人を救うためにした努力を無駄にさせたくねーじゃん。あんたの努力、無駄でしたとか気の毒だろう。なら、己の手で救わしてやりてーじゃんよ」
前世のオレは、救いたいのに救えなかった。救う術すら与えられなかった。
それがどんな思いかはオレだけが知っていればイイことだが、それをまた見せられるのは結構キツイものがある。
これは代償行為、なんだろう。それを否定する気はねー。そうだと認めてもイイ。代償でも繰り返したくねーんだよ。
「己が愛した人を己で救う。カッコイイじゃねーか」
羨ましい気持ちはある。嫉妬もある。なぜオレはと言う後悔もある。だが、あんなカッコイイとこ見せられたらカッコワリーところなんて見せらんねーじゃんか。男は見栄と虚栄でできてんだぞ。
「そんな男を前に男を見せなきゃ本当の男じゃねー」
女から見たら下らねーことだろう。アホなことだろう。だが、それを誇ってこその男だ!
とかなんとか言って恥ずかちぃ~~!
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