第578話 新時代

 クックックッ。


 我には錬金の指輪あり。三つの能力に伸縮能力と、クリエイターとしての力を持っている。作りたいものを作れる。そう、我に死角はないのだ!


「内装のセンスがまったくないわね」


 ハイ、速攻でプリッつあんが死角を突いてきました~!


 ……ぐふっ。なかなかやるじゃねーか、オシャレさんよ……。


「まあ、落ち着くとは思うけど、サプルの趣味ではないんじゃない?」


 あ、そー言や、最初のコンセプトがオシャレで優雅な豪華客船だったっけ。


 二十畳ほどの部屋に炬燵や囲炉裏とか、完全に和風で、スローライフな感じがハンパない。うん、気づこうね、オレ。


 うーん。格納庫や倉庫はカッコよく作れたし、リアムやノノからは好評だっのだが、生活空間は失敗か……。


 クッ。まさかオレにそんな欠陥があるとは。クリエイターの名に泥を塗ってしまったぜい!


「……やり直すか……」


 錬金の指輪があるので板張りだろうが、鉄工だろうが問題なく錬成、解体、分離、結合が可能なので、そこら辺は助かるぜ。


「でもその前に、気分直しにカイナーズホームに買い出しに行くか」


 確か本屋も併設してたはず。インテリアの本でも見て考えるとしよう。


 ミニ造船所から出て、作業服からいつもの村人ルックに着替える。


「前から思ってたけど、その格好ってなんなの? 拘り?」


「ああ、拘りだよ」


 何度も言ってるが、オレは形から入る男。村人って言ったら布の服。いやまあ、腕には時計。指には各種指輪。腰には朧。そして、新しく備わった無限鞄と、もうなんなだかなーって格好になってますけどねっ。


 部屋を出ると、なにやらメイドズとキノコ軍団を率いるサプルがいた。


「なに、この行進?」


 大奥ごっこか?


「あ、あんちゃん。ちょうどよかった。なにか仕事ないかな? やることないんだ?」


 サプルさんの説明によれば仕事を探して放浪しているようです。


 うんまあ、サプルがいるだけで過剰戦力だもんね、うちって。しかも、サプルに鍛えられた十人の……ん? あれ? メイドズって十人だったよね? ひのふのみの……十五人いるんですが、なぜに?


「メイドさんは全部で八十人いるよ」


 は?


「いやいやいや、なに八十人って? どこにいんだよ、そんなに!?」


 うち、どんだけ広いんだよ! 食堂にだってそんなにいなかっただろうがよ!


「地下にいるよ。フェリエねーちゃんの下の部屋に」


 確かにフェリエの部屋の下には第二シェルターがあるが、十人も入らねー広さだろう。


「カイナさんが改造してくれてね、地下マンションになってるんだ」


 あ、あの、腐れ魔王、なに勝手に改造してやがんだ! やるんなら自分のテリトリーだけ魔改造しやがれ!


「……なんか地下都市になってそうだな……」


 カイナーズホームですら数日で創りやがったからな、ジオフロントができてても驚きはしねーぞ。


「あ、なんか地下団地造ってるっては言ってたよ」


「ゴラー!!」


 カイナを強くイメージしてジャンプ。目の前に昭和風味の団地が広がり、ヘルメットを被り、ツナギ姿の魔族たちがいるが、元凶はどこにもいない。クソ。逃げ足の早い野郎だぜ。


「チッ。あのアホに自重しろと言っとけ」


 唖然とする魔族に言い残してサプルの元にジャンプした。


「どうしたの、あんちゃん?」


 キョトンとするサプルになんでもねーと笑って見せた。


「えーと。仕事だったな。任せろ。今、飛空船造ってるから、そこで何人か働いてもらうよ」


「なんならサプルたちに任せたら? どうせサプルたちが使うんだからさ」


 あ、それイイかもな。


「いや、でも、メイドズに工作とか無理じゃね?」


 ダークエルフは器用な種族らしいが、それは体を動かす系。ドワーフのような手先の器用じゃねーって話だぞ。


「なら、フミさんたちを使えば?」


 フミさん? なに、その新キャラ登場の流れは?


「サプル。フミさんたちは?」


「フミさんなら保存庫で棚とか作ってもらってるよ」


 なにやら保存庫も魔改造されてる気配だな。


「サプルさま。わたしが呼んで参ります」


 ダークエルフのメイドさんが前に出た。


「あ、うん。お願い」


 はっ! と答えたダークエルフのメイドさんがパシュッと消えた。忍者かい!?


 ……クッ。うちのメイドズ、変な方向に進化してってんな……。


 まあ、好きな方向に好きなだけいけがうちのモットー。オレが口出すことじゃねー、とスルーしておこう。


 場所を食堂に移してコーヒーを飲みながら待っていると、ドワーフ……じゃねーな。なんて言ったっけ、コレ? ドワーフの亜種で、どちらかと言えばホビットに近い、魔族二十四種族のうちの一つ、なんだっけ?


「クルフ族のフミと申します」


 身長一メートルくらいの、デフォルトなおねーさまが頭を下げた。


「あーうん。オレ、ベー。よろしくな」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 姿はアレだが、なかなか色っぽいボイスですこと。心の目で見たら傾国の美女が見えますヨ。


「えーと。フミさんは、と言うか、クルフ族って工作系の種族なん?」


「はい。クルフ族は物作りが得意な種族です」


「ベーさま。魔道船を造ったのはクルフ族です」


 メイド長さんがそうつけ足した。


 それはまたスゲー種族だな。あのデザインはアレだけど。


「そうか。ならこれをどう思う?」


 無限鞄からカイナーズホームで買った工具類を出して、テーブルの上に並べた。


「……な、なんと見事な……」


 まるで歴史的芸術品を発見した収集家のように震えるフミさん。


「新たな技術に興味があるならそれを取りな」


 震えてはいるが、なんの躊躇いもなく工具をつかんだ。


「ベーさま。どうかフミに新たな技術を伝授してくださいませ」


「おう。新時代を見せてやるよ」


 ハイ、よくわからないうちにゼルフィング商会に技術部門ができましたとさ。

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