第568話 スマッグマスター
えーと。婦人の番号は……これか。通話っと。
不慣れな手つきでスマッグを操作し、婦人のスマッグへかけた。
「あーもしもし、オレベーだけど、婦人かい?」
「はい。フィアラです」
お、ちゃんと繋がったか。結構簡単じゃん。
「……かけるまでに長いこと悩んでなければね……」
心の声に突っ込みを入れるメルヘン。うっさいわ!
「今、大丈夫かい?」
「はい。受け入れ準備の監督をしてますので」
もう発着場に来てんのかい。随分と早いこった。
「しばらくしたらそっちに行くからよ、小屋の前、多分、事務所に使ってるだろう小屋の前に現れるから空けといてくれや」
「……よくわかりませんが、わかりました。小屋の前は空けておきます」
「おう、頼むわ」
通話を切り、船団長にかけた。
「ベーだけど、今大丈夫かい?」
「はい。大丈夫です」
「いつ頃バリアルの街に着ける?」
「昼前には着けるように飛行しております。お急ぎでしたら速度を上げますが?」
「いや、そのままでイイよ。船団を迎える用意もあるしな。まあ、安全飛行で頼むわ」
「畏まりました」
通話を切り、スマッグをポケットに仕舞った。
しかし、あんな簡単な指示でこうも順調に進むとは、うちの従業員マジ優秀。そして、ダメな経営者でスンマセン!
「さて。用意はイイかい?」
振り返り、昨日うちの従業員になった九人に尋ねた。
「はい。いつでも構いません」
九人の中でリーダー格になった……エニッツさんが代表して応えた。
「んじゃ、行くぜ。ジャンプ!」
サクっとバリアルの街に転移。指定した小屋の前に出現する。
辺りを見回すと、ちょっと驚いた婦人と超びっくりした娘と、商人風の集団がいた。
「ワリーな、いろいろ遅れてよ」
婦人のもとへと向かい、遅れたことを謝った。
「いえ。こちらも不備が多々あり、ベー様の要望通りにはできませんでした。申し訳ありません」
構わんよと笑って流す。
こんな短時間でできたらオレいらない子。ゆっくりまったり……は無理だろうけど、それなりにガンバってくださいな。
「それより。自己紹介と行こうか」
まずは婦人の存在とゼルフィング商会での地位を示すために、婦人の横に立った。
「オレに代り、ゼルフィング商会の全てを任せる人だ」
婦人へと視線を送り、続きを頼んだ。
「初めまして。ベー様よりゼルフィング商会を預かることになったフィアラ・バーブルです。よろしくお願い致します」
「で、こっちの九人は昨日雇い入れた者だ。各自自己紹介を」
と、九人に自己紹介を振る――が、メンドクセーから省略。暇ができたら紹介するよ。
「婦人。さっそくでワリーが商売の話といこうか。今日はなにをどのくらい持ってきた?」
「はい。主に小麦と野菜、酒、油、布地、木材、鉄など、一応、目録にしてあります」
受け取り、目録を見る。
発着場はまだまだ不備だらけだが、商品の仕入れは万全のようだ。つーか、よう集めたもんだ。普通の隊商三個分はあるぞ。
「さすが婦人。イイ仕事をする」
「フフ。そう言ってもらえて光栄です。ですが、いただいた資金を大幅に超えてしまいました」
「構わんよ。買えるなら幾らでも出すさ。ほれ、資金追加だ。未払いの代金を払ってくれ」
収納鞄から金貨と銀貨が詰まった袋を出して婦人に……渡そうとしたら脇にいたねーちゃんが受け取った。え、誰?
「私の侍女をしておりましたカレナです。秘書として連れて参りました」
さすがに婦人だけ呼ぶのは偲びないと、何人か側近を連れて来なとは言ったが、侍女さんに商人の秘書とか大丈夫なん?
「カレナは優秀なので心配ありません。カレナ。ベー様にご挨拶を」
動きやすいドレスを着た、ちょっとつり上がった目が印象的な、二十代半ばのねーちゃんが、スカートの裾をつかんでお辞儀した。
「カレナと申します。どうかお見知り置きを」
なんとも堅い人のようだが、婦人の言うように優秀なようで、オレを観察する目が容赦ねー。まるで心の中まで見られているようだぜ。
「ふふ。なんか見えるかい?」
まあ、見えたら見えたで怖いけどよ。
「カレナ。ベー様を困らせたらいけませんよ。申し訳ありません。カレナは妹のような存在で、私が商人になることを心配しているのです」
「まあ、領主夫人だった者が商人になるとかあり得ねーしな、カレナさんの心配は当然さ。オレは気にしちゃいないよ」
こんな目ならウエルカム。腐れた目は超絶にノーサンキュー、だ。
「人事は婦人に任せる。必要と思うなら好きに雇いな。それより、昼前に船団が来るんで、品をこれに移し換えてくれ。その手間賃も出すからよ」
これだけのものを運んで来ただけあって、大量の人足がいた。これだけいれば昼前には終わるだろうよ。
「随分と小さな箱ですね?」
「小人族規格さ。今度からはこれに入れてくれると助かる」
「わかりました。カレナ。バーブルら商人に指示をお願いします。ベー様。誰か計算に強い方をお貸しください。恥ずかしながら商人のように計算できる者を用意できませんでした」
できたら最初から商人してるわな。
「あいよ。誰か頼めるかい?」
「では、わたしがお手伝いさせていただきます。前の店では計算を任されてました」
と、ダールさんが前に出て来た。
「んじゃ、今からダールさんはゼルフィング商会の金庫番な。しっかり頼むぜ」
「はい! お任せください!」
「つーことで、頼むわ、婦人」
「はい。わかりました。では」
と、生き生きと仕事に入る婦人。ガンバってちょうだいな。
「さて。オレは船団の出迎えとしますかね」
スマッグを取り出し、黒髪の乙女さんにかけた。
「もしもし、オレ。バリアルの街まで迎えに来てくれや」
もうオレ、スマッグマスター。超余裕――おっと、プリッつあん。その先は言わせねーぜ。
なにか言いそうなメルヘンをつかみ、プリッナイトにしてやった。しばらくあっちに行ってなさい!
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