第569話 幸多かれと願う

 緊急速報です。


 ゼルフィング家の長男、ヴィベルファクフィニーくんがいらない子になっています。


 繰り返します。ゼルフィング家の長男、ヴィベルファクフィニーくんがいらない子になっています。


 はぁ? なに言ってんの? との冷たい突っ込みでもイイからオレにくれ。いらない子状態は結構キツイです。


 船団も到着して今後の展開を話し合う場を作り、小人族の商人、ゼルフィング商会の面々、バリアルの街の役人と商人に任せたのだが、オレの立ち入る隙がねー。


 あーだこーだと今後の計画やら発着場の決まり事、人の動かし方、人足の給金、果ては近隣に公園を造りましょうとかなっていた。


 もちろん、そんなことを一日で決めようなんて不可能だし、野菜など生鮮品や食糧をそのままにしておけるわけもねーので、積んだら順次発進させているので、会合は夜にやっているのだが、これがなかなかどうして白熱して、夜中までやっているのだ。


 早寝早起きが基本の村人にはキツいし、名ばかりの商会長であるから付き合ってはいるが、本物の商人の会話につけ入る隙なし。あーコーヒーうめーをやっていたのが悪かったのか、オレいらない子になってしまったのだ。


 結構キツい思いをしてたが、もういらない子でイイやと思ったら、身も心もスッキリ。そっと会合を抜け出し、人のこない場所でマ〇ダムタイムとシャレ込んだ。


「いいの、抜け出したりして?」


 そっと抜け出したとは言え、背後霊のごとくオレにくっつく……あ、そう言やこのメルヘン、共存体でしたね。なんか忘れったわ。


「構わんさ。なんでもかんでもオレがやったら婦人たちの方がいらない子。マルっとサクっとお任せだ」


 だったら最初に気づけよって話だが、まったくこれっぽっちも気づきませんでした。ハイ、アホなオレですよ。


 まあ、なるようになるがオレの人生。なら楽しめだ。


 散々コーヒーを飲んだので腹がタプタプだが、コーヒーの香りはまだイケる。


 なにをするでもなく、コーヒーの香りを楽しむ。


 一応、発着場には灯りを灯しているが、ここは発着場の端。見えるのは星空。聞こえるのは虫の鳴き声。他所から見たらなにやってんのって状況だろうよ。


 なにか文句の一つでも言いそうなプリッつあんも、自分のテーブルを出して紅茶を楽しみ、ドレミはオレの膝の上で丸くなっている。


 ゆったりまったり流れる時間。イイ夜だ。


「相席、よろしいですか?」


 どうぞと、土魔法で椅子を創り出し、気の利いたプリッつあんが紅茶を出してくれた。


「いい合いの手ですこと」


 その冗談に、オレとプリッつあんは肩を竦めて応えた。


「会合は終わりかい?」


「はい。夜も夜なので」


 ちなみに宿泊用に、プリッつあんにキャッスルを出してもらいました。


「そうかい」


 とだげ応え、コーヒーの香りを楽しむ。


「ベー様は、本当に人生を楽しんでいるのですね」


「一度しかない人生、楽しまなければもったいねーしな」


 まあ、前世の記憶があるから一度と言ってイイか謎だが、今生にヴィベルファクフィニーは一人だけ。ならヴィベルファクフィニーとして楽しく生きて、満足して死ぬまでさ。


「……楽しむ、ですか……」


 下を向く婦人が自嘲的な笑みを浮かべている。


 婦人がどんな人生を歩んで来たか知らねーし、興味もないが、そこから渾身の笑みを浮かべてオレを見る今は笑顔には興味があるし、これからどう歩むかが気になってしかたがねーよ。


「人生はままならないものですが、ときに素晴らしい出会いを与えてくれますね」


「ああ。素晴らしきかな出会い運に感謝だ」


 こんな出会いならいつでもウエルカム。つーか、オレの出会い運ってイイほうだよね?


 なにか、損している出会いのほうが多いでもない気がしねーではないが、そこは考えたら負けだ。イイ出会いにだけ目を向けよう。うん。


「婦人のこれからの人生に幸多かれと願うよ」


 先の人生なんて、なにが起こるかわからねーが、今は幸あれと願うよ。


「はい」


 婦人の笑顔に、オレも笑顔で応えた。

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