第566話 イイとこ取りでした

 ゼルフィング商会には重要な決まりが一つある。


 それは各自、名札をつけることだ。


「……ベーによるベーだけの下らない決まりね……」


 うっさいなー! 余計なことを言うメルヘンはプリッナイトになってなさい。


 猫型ドレミの背に乗せて、そこら辺を走ってくるように命じた。


「では、各自、仕事時は名札は常に着用すること」


 各自、土魔法で創った名札を渡した。もちろん、紛失や着替えを考えて各自に名札は五枚ずつ渡しました。


「あと、これは準備金だ。まあ、必要なものは持って来てると思うが、オレは常に飢饉に備えている。なので、ゼルフィング商会で働く人にもそれを強制します。昨日渡した収納袋には常に食糧を入れておくこと。あと、ゼルフィング商会とは別に珍しい食材を見つけたらオレが買うので、もし他の地域にいくような場合は買ってきてくれ。手数料と謝礼金をつけて買い取るからよ」


 まあ、個人で買うものだから量はそれほどでもないだろうが、塵も積もればだ。やらぬ買い物よりやる買い物。なにごともコツコツとだ。


「さて。あんたらの住むところだが……って、この中で既婚者とかいるかい?」


 連れて来た感じはねーようだが?


「いません。結婚なんてできる身分ではないので」


 あれ、そうなの? 田舎と違って都会なら結婚とか、自由意思で、仕事を持ってればできると思ってたんだが、そうじゃないのか?


「いえ、一般の次男坊や三男坊は普通にできますが、商会の次男坊や三男坊は一人立ちしたら結婚を許され、親の選んだ者と結婚するのです」


「ほーん。そんな風習があったんだ。初めて聞いたよ」


 時代時代、地域や環境によっていろんな風習があるので、どうこう言うつもりはねーが、商人の子っていろいろ大変なんだな~。ほんと、村人に生まれてよかったわ。


「まあ、うちは恋愛自由で結婚したけりゃしろの職場だ、道徳的に反しなければ好きにしてイイよ。ただ、あんたらには世界を見てもらうんで、それが許せる嫁を探せな。そうだな。福利厚生も考えなくちゃならんか」


 うちの職場は清く正しく、従業員に優しい商会なんだからな。


「そんでだ。あんたらの住むところなんだが、しばらくはそこの宿屋に泊まってもらう。あんたらにはワリーが、まだゼルフィング商会の形が整ってねーんだわ。全権を与える婦人も明日迎えにいくからな。なんで、今日はどーすっぺ?」


 ハイ、なんも考えてませんでした。


「あ、この中で装飾関係の仕事してたのいるかい?」


「はい、わたしは服飾の仕事をしてました」


 いるんかい。なんともご都合展開だな。


「えーと、アルバラさんか。なら、アルバラさんに服飾系の仕事、まあ、裏方になるだろうが、今やってる店の管理を任せてーんだが、やってみる気はあるかい? コーリンって言う伯爵令嬢の店なんだがよ」


「コーリン様ですか!?」


 おや。やはり有名なのかい、コーリンって。


「わたしは会ったことはありませんが、コーリン様は服飾関係では有名です。服狂いのコーリンと呼ばれてましたから」


 まあ、あの様子では当然の異名だな。


「コーリン様とご一緒に仕事ができるのなら喜んで引き受けさせてもらいます!」


 なにか秘めたる思いがあるんだろう。野望と言うよりは復讐に近い感じがあった。まあ、人それぞれの動機。御する婦人に乞うご期待だ。


「もしかして、だが、海産物に関わってたヤツ、いるかい?」


 ふと思い尋ねてみたらマジでいやがった。


「うちは、王都の海で獲れた干物や貝を内陸に卸していました」


 まあ、冷凍技術のない時代。海産物と言えばそんなもんか。


「えーと、カルマトラさんか。あんたにはワリーだが、うちの海産物業を担当してもらえねーかな? どうも最近、忙しくて海の工房に行けてねーんだわ。いろいろ加工物や保存方法を考えたんだが、それをどう広げるか悩んでたんだよ。できれば経験者にやって欲しいんだわ。他より地味になるが、給料は弾む。どうだい?」


 工房の規模も小さいし、作ってる量も少ない。しばらくは個人経営レベルのものになる。が、海産物を村の特産物としてやってきてー。なるべくなら廃らしたくねーんだよな。


「はい、やらしていただきます。実のところ、わたしには皆ほど商才はありません。大きな商売より地道にやっていける商売が自分に合っていると思うので」


「生産は工房の連中に任せてるから、カルマトラさんはあんちゃんの店や港の……港にはまだいってなかったっけ。まあ、その話はあとでやろうや」


 今は概要だけ伝わればイイさ。


 にしても、二人も適合者がいるとなると欲と言うか期待とかしたくなるな。もしかしてと、問屋系や買いつけ系の者がいるか聞いたら、なんといました。マジか!?


「……わ、我ながらこの出会い運が恐ろしいぜ……」


 あんちゃんがイイとこ取りと言ったが、まさしくイイところをいただいちゃいました、だな……。


 ま、まあ、とにかくだ。これも運のなせる業。ラッキーと思っておこう。うん。


 当初から計画やら予定が狂ったが、イイ方向に狂ったんだからよしとしよう。


「ほんじゃ、今日は解散。明日は婦人を迎えにいくんで朝食を取ったら宿屋の前に集合な。それまでは自由にしててイイからよ」


「でしたら、この周りを見てもいいでしょうか?」


「ああ、構わんよ。ただ、まだ山からは下りんでくれや。村長や山に住むもんにあんたらのこと言ってないんでよ。暇なら港にいってみるとイイ。たぶん、あんちゃんらがいくと思うんで着いていけばイイよ」


 チャンターさんやアダガらもいくだろうし、一緒にお願いしますだ。


 その場で解散し、オレは明日の用意のためにバリアルの街へと転移した。


 あ、もちろん、プリッナイトも一緒にね。

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