第565話 まったくもってその通りですが、なにか?

 昼食も終わり、あんちゃんの挨拶で……そう言や、なんだ、この集まり? 職業説明会か? 集団就職? いやまあ、なんでもイイや。会合にしとこう。メンドクセーし。


 で、緊張したあんちゃんの挨拶も終わり、世界貿易ギルドの説明やらそれぞれの商会に入りたい者は歓迎するとか、大変だな~ぐらいの軽い気持ちで眺めていた。


「そこの他人事のように見ている腐れ村人。テメーもなんか挨拶しやがれってんだ!」


「オレはベー。十一歳。ボブラ村でおもしろおかしく生きてる村人です!」


 って言ったらあんちゃんに椅子を投げられた。


 結界を纏っていたので痛くも痒くもありませーん。つーか、あんちゃん。最近、オレの扱い雑じゃね?


「まあまあ、落ち着けアバール。こいつのことを一番知ってるのはお前だろう。今更なんだから軽く流せよ」


 なにやらフォロー上手なチャンターさん。あなたたち、結構イイコンビだよね。


「あ、ああ。ワリー。最近忙しかったから歯止めが利かなかったよ」


 ガンバ! ってイイ笑顔で言おうとしたらカイナにチョップされた。


「ベーは黙ってようね」


 そのつもりだったのをしゃべらせたのあんちゃんじゃん。とか思ったけど、空気の読めるボクはお口にチャックです。


 会合が再開され、まず、世界貿易ギルドへ就職する人を募った。


 世界貿易ギルドは、このジオフロント計画の資金調達や人材確保のために組織したので――って、そう言や、そんな説明してなかったっけ。


 うん、まあ、説明しなくてもそうなるんだし、いっか。そのうち誰かが気づくだろう。そんとき説明すればイイや。


 肝心要な組織なので、バーザさんを筆頭に、三十一人が世界貿易ギルドに就職した。


 続いてあんちゃんのところに八人。一見、少ないように見えるが、商会の規模としてはそれで充分だろう。


 本店に二人。港に二人。広場に二人。クレインの町に二人。まあ、そんなところだろう。


 チャンターさんとアダガさんは二人ずつ。港とクレインの町の支店を任せるのだろう。


 カイナは雇わず。魔族ばかりの中に入れても埋もれるだけだし、多少なりともいさかいはある。人の商人を入れるのはもうちょっと落ち着いてからだろうよ。


 で、残りはゼルフィング商会に就職しました。


「九人かい。予想以上に来たな」


 まあ、二、三人も入れば御の字と思ってたんだが、まさかこんなに来るとは。しかも、望んで来るなんて想像もしなかったわ。なぜに?


「正直、世界貿易ギルド員になることも考えましたが、あなたの態度が気になり、悩んだ末にあなたに賭けました」


 と、線の細い三十前の男が真っ先に口を開いた。


 他を見れば自分も同じだとばかりに頷いた。


「それはまた、大胆な賭けに出たもんだ。ハズレかもしれんぜ?」


「そうですか? これでも賭けには強い方ですよ」


 なんとも落ち着いた笑みを見せてきた。


 ……見た感じ、賭けとかするタイプには見えんのだがな……?


 と言うか、よくよく見たらうちの商会に来たの、全員が三十前って感じだな。


 何才なのと聞いたら全員三十前で、商会の次男坊三男坊なんだとよ。


 どこでも次男坊三男坊の扱いは同じか。大変なこった。


「我々では不満でしょうか?」


「いや、逆にオレに不満はねーのかい? こんなガキに使われるなんて、あんたらはそれでイイのか?」


 それなりのプライドがあったらこんなガキに使われるなんて嫌だろうに。


「バーザさんからあなたのことは聞きましたし、見た目に騙されるなとも言われました。しかも、先程の一幕を見たらあの中で誰が仕切ってるかなど一目瞭然。ならば、あなたの下が一番出世できると判断しました」


「フフ。なかなか熱い野望を持ってるじゃねーの」


 本当に見た目を裏切るあんちゃんだ。


「気に障りましたか?」


「いや、イイんじゃねーの。うちで働くんならそのぐらいの気概がねーと心が病むしな」


 うちで働いてる訳でもねーのに、オレの注文で心が病みかけてる人いるし。


「あなたたち、自分が大切なら他で働いた方がいいわよ。このアホは常識にケンカ売るのが大好きだから」


 メルヘンに常識うんねん言われるファンタジーな世界で生きる村人。世は不条理なり。


「まあ、頭の上のは気にしなくてイイよ。うちに就職するなら大歓迎さ。ただ、さっきも言ったが、ゼルフィング商会の全権は婦人……」


「フィアラ。なんで忘れるのよ!」


 それは世界の神秘、的な?


「フィアラに与える。なんであんたらの配置はフィアラが決める。が、オレの展望としては、帝国、南の大陸、東の大陸、西の大陸と支店を置く考えがあり、いずれそこを独立させ、ゼルフィング商会と協定関係商会として世界を相手にする」


 そんなオレの展望に全員が絶句した。


 まあ、やるのは婦人ですけどね。と言える雰囲気ではなかった。


「やるやらねーはあんたらの自由だ。ただ、やるんなら遠慮なくやってもらうがな」


 うちに来たことを大正解と思わせてやるよ。


「……他人任せの人生ね……」


 頭の上からの突っ込みに、オレは胸を張る。


 ハイ、まったくもってその通りですが、なにか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る