第564話 全ては運と実力次第

 ハイ、サクッとマルッと済ませて転職さんらを村に連れて来た。 


「ここが、ボブラ村ですか?」


 サクッとマルッとこれるように努力してくれたバーザさんが辺りを見回しながら言葉を漏らした。


「いや、ここは、うちの牧草地さ」


 人数が人数なだけに村に現れることはできんし、広場も人目がある。なんで、二キロ離れた牧草地に転移したわけだ。


「牧草地、ですか。なにか、牧草地に相応しくないものがチラホラ見えますが……」


 たぶん、謎の動くキノコを見て言っているのだろう。


「まあ、家畜の世話をするうちのキノコだ」


 なんの説明にもなってねーが、そうとしか言いようがねーんだよ。


 謎の生命体だが、これがまた賢く、家畜の世話を教えて任せると、自分たちの判断で動いてくれるんだってよ。


「そう、ですか。ベー様のところなら不思議はありませんね」


 いや、オレの目から見てもあれは不思議な光景ですからね。ただ、スルーしてるだけですからね。


「ま、まあ、これから少人数で転移させるから、ギルドマスターか指示する者に従ってくれや」


 まだ転移に慣れてねーの試し試しやらんと事故りそうだからよ。


「わかりました。皆さん。それでお願いしますね」


 転職さんらが頷いたので、五、六人ずつ連れて宿屋の前に転移する。


 十数回で全員を宿屋の前に転移させた。ふ~。結構精神的に疲れるな、これは。


「あ、あんちゃん。用意はできたかい?」


 転職さんらと挨拶するあんちゃんに声をかけた。


「ああ。ロノさんたちのお陰でなんとかできたよ」


「そうか。なら、まずは礼を言ってこんとな。あ、挨拶はそこそこにして昼食にしようや」


 順調だったとは言え、牧草地から宿屋の往復で結構時間がかかったために昼を過ぎてしまった。オレも腹減ったわ。


「わかったよ。バーザさん、皆を席につかせてください」


 任せて嫁さんのもとに向かって礼を言った。


「構わねーだよ。宿屋の始まりとしては最高だや」


 まあ、身内の集まりだが、オープン初日としては盛大でイイだろう。どうせ、毎日大繁盛ってところじゃねーしな。


「そうか。なら、盛大に迎えてくれや。あ、昼食後に話し合いすっから転職さんらの家族を部屋に案内してくれや」


「わかっただよ。そんで、泊まりは何人になるだかや?」


「まだわからん。だが、全室泊まれるようにはしててくれや。多分、カイナが多いぶんは連れていくと思うからよ」


 竜巌城ってところによ。


「なら、それで動くだよ。バリファさんにダルンさん、昼食を出すだや」


 背後にいる紫肌のおばちゃんと一本角の鬼のねーちゃんが頷き、宿屋へと入って行った。


「嫁さんは、魔族に偏見はねーんだな」


 そう聞くと、一笑に付した。


「あんた見てたら魔族だドワーフだなんてどうでもよくなるだや。比べるのもバカらしいだよ」


 そんなもんなのかい?


「名前さえわかればそれで充分だや」


 アハハと笑い、嫁さんも宿屋の中へと入って行った。


「……ただたんに種族とか覚えんのメンドクセーだけなんじゃねーの?」


「だったら種族を覚える前に名前を覚えなさいよ」


「さーて。オレも昼食にしよ~っと」


 なにか聞こえたが、お腹ペコペコなので気にしません。お昼なにかな~?


 空いてる席を探していたら、あんちゃんに襟首をつかまれ、カイナやチャンターさんがいる席へと座らされた。なぜに?


「お前が発起人なんだからここに決まってんだろうが。なに、他人事な顔してあっちに座るんだよ?」


「あ、いや、世界貿易ギルドに転職すんだし、あんちゃんらに任せた方がイイと思って」


 主役はあんちゃんら。オレはオマケさ。


「なら、あの人ら、オレらがもらってもいいんだな?」


「まあ、正直に言やぁ、全員うちにもらいてーが、先に譲るよ。もし余ったらうちでもらうさ」


 誰もが一流の商人。余ったところでハズレはねーよ。


「なに考えてやがる?」


 訝しげな目を向けてくるあんちゃん。別に他意はないよ。


「それはなんか企んでいる顔だ。正直に話しやがれ!」


 殺意丸出しで首を絞めてくるあんちゃん。やはり騙されてくれませんか。


「つーか、なんでお前はギルドに入らねー? それも話しやがれ!」


 わかったよとあんちゃんの腕を振り払う。


「別に世界貿易ギルドには入るさ。ただ、ゼルフィング商会の全権は婦人に……って、婦人、名前なんつったっけ?」


「フィアラよ」


 と、プリッつあんが教えてくれました。あれ、そんな名前だったっけ?


「ま、まあ、そのフィアラさんを明日迎えにいく。なんで、世界貿易ギルドに入るのはそれからだし、職業選択の自由で判断は転職さんらに任せる。なんで、オレはあとでイイんだよ」


 と言うか、オレはもう小人族を優先的に雇っており、コーリンや宿屋もあんちゃんらより先に人材を手に入れている。ここでも口出したらひんしゅくもんだよ。


「あとでと言いながら、お前は最終的に美味しいとこ取りだからな……」


 それはオレの運。文句を言われても知りませぬ。


「イイとこ取りされたくないのなら先に取れ。そこはあんちゃんの見る目と商人としての勘。これから先、どうしたいか考えて選べ」


 全てはあんちゃんの運と実力次第。ガンバれ、未来の大商人よ。

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