第561話 シュンパネ

 明日、お昼に出発すると伝え、今日は解散した。


 本当ならもっと説明やら話し合いが必要なんだろうが、なんか面倒くさくなったんで止めました。


 なにやってんのお前? とか突っ込みされそうだが、されたところで右から左。オレ知ーらねー、だ。


「マスター。創造主様がアリュエ様を連れて来て欲しいとのことです」


 超絶に拒否したいが、娘さんを前に……と言うか近いです。あと、輝かんばかりの笑顔は止めてください。目が腐りそうです。


「ベー様。お姉様の元にお願いします!」


 幾百万の突っ込みを繰り出してーが、それ以上に関わりたくねー。なので、超スピーディーに解決しましょう。


 いろいろめいげ――これもメンドクセーな。ん~、そうだな。移動の翼、いや、瞬間の羽根……うん! シュンパネと命名しよう。


 単純だな。との突っ込みに「ハイ!」と答えよう。だって難しくしたら忘れそうだもん!


 あ、ついでに連れていくのも略させてもらいますね。語りたくないんでよ。


 完全に記憶から削除して我が家に無事帰還。なぜか涙が溢れてきます。


「どうしたの?」


 庭先でさめざめと泣いていると、モコモコガールが串肉を片手に現れた。


「食べる?」


 えぐえぐ言ってると、モコモコガールの励まし方なんだろう、大切な串肉を差し出してきた。


 エエ子や~とモコモコに埋もれて腐臭に犯された心を癒した。


 あ、このモコモコ、気持ちイイ。今度、モコモコガールの毛で毛布作ろう~っと。


 ってことで、ハイ、オレ復活です。心は晴れました~。


「ありがとな。お礼にこれやるよ」


 カイナーズホームで買った飴をあげた。


「ありがと~」


「おう。また今度やるからな」


 モコモコ頭をわしわししてサリネのところへ向かった。


「サリネ、いる~?」


 誰もいない工房に向けて声をかけるが、なにも返ってこなかった。留守ですか?


「あ、そこのメイドさん。サリネ知らね?」


 工房の前を横切ったメイドさんに気がつき、声をかけた。横なだけに名札は見えませんでした。


「サリネ様でしたらロノ様と食堂にいらっしゃいます」


 ロノ? 誰だっけ? と首を傾げながら食堂にいくと、サリネとドワーフのおっちゃんの嫁さんがいた。


 あ、ああ。おっちゃんの嫁さんのことか。すっかり忘れったわ。


「宿屋の話かい?」


 テーブルの上に宿屋だろうミニチュアな建物が乗っていた。


「ああ。今、ロノさんに確認してもらってたところさ」


 サリネの作るものは屋根が取り外せるようになってたり、分離できたりできるんで、ちゃんと中が見れるのだ。


「んで、どうなんだい?」


「なかなかいいだよ。こんな宿屋をやれるとか夢みてーだ」


 ん? 嫁さんは、モコモコ族の村で育った訳じゃねーのか?


「オラらたちが生まれたところは、それなりにデカイ町だったがや、魔物に襲われてなくなっただよ。着の身着のまま逃げ出して、シュラダ族のもんに助けられただ。その礼にと住み着いただよ」


 疑問に思ったので口にしたら、そんな答えが返ってきた。


「ほーん。だから宿屋とか知ってたわけか。ん? 宿屋やってたんか?」


「いや、若い頃手伝いをしてただよ。これでも看板娘としてモテてただ~」


 うん。そんな話いらねー。とか言っちゃダメだぜ。おばさまの話は笑顔で聞くが吉。それが身内なら根性据えて拝聴しろだ。


「あ、なら、宿屋を建てるか。ちょっと大人数を泊まらしたいからよ」


 よーわからん昔話がやっと終わり、逃げるように話題を変えた。


「わかっただよ。で、何人だや?」


「つーか、何部屋あんだ、この宿屋?」


 まったく携わってねーので、なんも知りませんです。


「二人部屋用が二十に一人用が十だよ。あと高級部屋が二つだ」


「結構あんだな。嫁さん一人じゃ大変なんじゃね?」


 いや、無理だろう、それ。


「魔族のもんを雇っただよ。働きてーってもんはいっぱいいるでよ」


 なかなかアグレッシブな嫁さんだな。いつの間にやってたんだ?


「まあ、宿屋のことは嫁さんに任すわ。あ、宿屋と繋ぎで高級食堂をやるんでよろしくな。近いうちに料理人夫婦を連れて来るからよ」


「高級食堂かや?」


「貴族や大商人が来るからな、その会合や接待に使うんだよ。もちろん、一般の客にも開放するが、特別な日に食事をする、的な感じにしてーんだわ」


 まあ、まだふわ~んとしたイメージでしかねーがよ。


「よくわからんだがや、わかっただよ。すぐやるだか?」


「ああ。明日には全部屋埋まるくらい連れて来るんで、今日中建てちまうよ。場所は拓けさせておいたからよ」


 いつやったんだよ? とか突っ込みはノーサンキュー。都合のイイときにやったんだよ。


「わかっただ。なら、すぐに集めるだよ。いつでもいいように準備はしてたでよ」


「おう、頼むわ」


 任せろだやと嫁さんが食事を飛び出していった。


「元気な嫁さんだ」


「フフ。相当楽しみにしてたからね。もう毎日そわそわしてたよ」


 まあ、夢に向かって爆進してくださいだ。


「つーことで、高級食堂を追加で頼むわ」


「ああ。任された」


 なんの文句も言わず、鼻唄を歌いながら食堂を出て行くサリネ。まったく、うちの女性陣は働き者だぜ。

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