第560話 歓迎する!

 ガ……じゃなくて伸縮トンネルを潜っていると、徐々にプリッつあんがデカくなってきた。


 あ、いや、小さくならねーのか、もしかして?


「なんでプリッつあんは小さくなんねーんだよ?」


「……なんとなく……」


 もはやおぶさる形になったプリッつあんが、テキトーな答えを口にした。


 振り払おうとするも、こなきじじいがごとくしがみつき、どうやっても剥がれ落ちなかった。なんでだよ!?


 なんか別の能力を持ってんじゃねーのと勘繰りたくなるが、これ以上変な能力なんてノーサンキュー。お腹いっぱいだわ。


 二日酔いメルヘンを背負いながらキャッスルへと入る。


 エントランスホール的なところに集まる転職さんらが、オレが来たことに気がつき、こちらへと振り向いた。


「プリッつあん。気持ちワリーなら部屋にいってろや」


「……ここが気持ちいいからここにいる……」


 なんかオレから出てるんかいな? 


 ま、まあ、うっとうしくはあるが、重さなど感じねーし、スルー拳を使えばいないも同じ。気にするなだ。


「バーザさん。椅子もテーブルもねーが、ここでイイかい? 立ってるのが辛いならその場に腰を下ろしても構わねーからよ」


「お気になさらず。このくらいで根を上げるような者に声はかけてませんから」


「そうかい。なら、テキトーに寛いでくれや。ドレミ。バーザさんらに茶を頼む」


 ドレミに任せ、オレは収納鞄から空の収納鞄をあるだけ取り出した。


 全部で十二個か。結構人にあげたんだな。


「プリッつあんよ。鞄なんて持ってねーよな?」


 一応、聞いてみる。この二日酔いメルヘン、オレの知らねーところでいろいろ溜め込んでるからよ。


「……伸縮袋ならあるわよ……」


「伸縮袋? なんだいそれ?」


「ドレミ~。お願~い」


「マスター、これです」


 と、ドレミを見れば布製の買い物袋的なものをくわえていた。


 受け取り、いろいろな角度から眺める。ん? なにか伸縮能力を感じるぞ。


「伸縮袋に入れると小さくなり、出すと五秒で大きくなります」


「そんなもん、いつ創ったんだよ?」


「合宿のときです。マスターの収納鞄と似たようなものが創れないかと思い、プリッシュ様が試行錯誤で完成しました」


 なに、そのできる女みたいな言い方は? つーか、そんなに頭よかったのか、この二日酔いメルヘンって!?


 なんか納得いかねーが、今はそんなことに構ってる暇はねー。で、これ幾つあんだい?


「百は預かっております」


 その感じからしてまだありそうだな。そんなに創ってどーすんだよ?


「わかった。取り合えずいつでも出せるようにしといてくれ」


 まずはなによりバーザさんたちの確認だ。


 それぞれにお茶が行き渡り、一服してもらってからこちらに結界台に上がる。


 こちらを向く全員の顔を一人一人確認するように見回し、咳払いをして場を切り替えた。


「さて。オレとしては全員を雇いてーところだが、覚悟のねーヤツを雇うつもりもねー。なんで、行ったら最後、そこで骨を埋める覚悟があるヤツだけ残ってくれ。もちろん、家族を持つ者は家族を連れて行ってもイイし、親兄弟を連れて行くのも構わねー。まずそれを示してもらう。できねーヤツは帰ってくれ」


 まず、覚悟の確認をする。


 まあ、これだけの言葉で決めろとか詐欺まがいだが、覚悟を示さねーうちに異種族国家のことをしゃべるわけにはいかねぇんだよ。


 バーザさんの言葉、オレの言葉、この場の雰囲気、それで理解できねーヤツは異種族国家には不要だ。それができねーようではやってけねーよ。


 一分二分と待つが、誰も動く気配はなかった。うん。第一関門突破だな。


「なら、次だ。あんたらがいくところは他種族多民族国家だ。そこには、人魚もいれば魔族もいる。小人族や違う民族もいる。これからいろんな種族が集まる。それらを客と見れねーヤツは去れ」


 人しての価値観より商人としての矜持を持つ者だけが許されるところだ。異種族だ、異民族だなんて言ってるヤツは害悪でしかねーわ。


 また一分二分と待つが誰も動くことはなかった。第二関門突破だな。


 まあ、バーザさんが選んでいる時点で合格なんだが、かかわってる者が確認しねーのも問題だ。示すところは示しておかねーとな。


「再度問う。新天地に向かう覚悟はあるか?」


「もちろんです!」


 と、バーザさんがカップを掲げた。


 それに一人、また一人とカップを掲げ、そして、ここにいる全員がカップを掲げた。


「マスター」


 ドレミが差し出したカップを受け取り、前に突き出した。


「今このときより諸君らは我らの同胞だ。心より歓迎する!」


「乾杯!」


 と、バーザさんの音頭に全員が乾杯と応えた。 

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