第548話 さあ?
ほんじゃ出かけますかと外に出ると、カイナ丸かじりな状態になっていた。
……え、なにその状況……!?
スイカぶしゃーなその口で、カイナの頭を本気かじりにしているが、されてるカイナは、なぜか目尻が下がり、まるで愛犬と戯れているかのようだった。
「……かじられてるが、大丈夫なんか……?」
銃弾食らっても平気な体なのは知ってるが、先生に改造された強化カバ。さすがにマズイんじゃねーの?
「甘噛みだから大丈夫だよ」
甘噛みって、オレには本気噛みに見えるんだがな。
……カバ子さんの噛み締める音が洒落にならないんですがね……。
まあ、本人が喜んでいるんなら口を出すのは野暮ってもの。お楽しみくださいな。
「もう、ほんと、離しなさいよ!」
噛むのに疲れたのか、剛拳(蹄的な)を何発も顔に入れるが、カイナの顔はデレデレ。ある意味、ペットとしてはリリーは最適……と思おう。うん。
「まあ、ほどほどにな」
あんまり構いすぎるとペットもストレスで禿げるって言うしな。あ、カバ子に毛はねーから大丈夫だな。
二人の戯れを邪魔するのも悪いので、早々にさようなら。馬屋へと向かった。
家畜小屋へと来ると、なにやら女性陣が集まっていた。なんだいいったい?
「なにしてんだ?」
そう声をかけると、ご近所の奥さま連中とダークエルフのメイドさんが振り返った。
「ん? この匂い、焼き芋か?」
前世の子どもの頃は、よくアルミホイルに包んで達磨ストーブの上において作ったもんだが、まさか今生でもそれを見るとは思わなんだ。
「あ、あんちゃん。達磨ストーブ借りてるね」
家畜のためのストーブだが、たまにお湯を沸かしたり、干し肉を炙ったりと、スローライフにはもってこいのアイテムである。
「別に構わんが、なにも館の暖炉を使えばイイだろに」
館の暖炉にアルミホイル(もちろん、カイナーズホームで買ってきました)で包んでもできるだろうに。
「うん。そうなんだけど、なんと言うか、あんちゃんの達磨ストーブでやるのが一番美味しくて……」
その通りとばかりに頷く女性陣。いや、なんでもイイけどさ。
「まあ、そのうち石焼きを作ってやるよ。それよりサツマイモはまだあるか?」
すっかり忘れてたが、エリナに持って行く約束してたんだった。
「うん。なんかよくわからないけど、ここ最近、家の前にいっぱい置かれてるから」
なんてにこやかに笑うマイシスター。
あ、いや、エリナからだろうが、誰ともわからないものを、なんの躊躇いもなく使うとか、ちょっとは警戒心をもとうよ、サプルちゃんよ……。
その無垢さに心配になるが、まあ、純真に育ってくれたと喜んでおこう。
……もし、その純真さを汚したヤツがいたらオレが地獄を見せてやるよ……。
「そうか。なら、いくつかもらっててもイイか?」
「うん。イイよ。午後からおやつ用にたくさん作る予定だから。あんちゃん、出かけるの? お昼だよ」
「ああ。昼はいらん。たぶん、今日は泊まりになるかもしれんから、親父殿に言っておいてくれや」
「……あんちゃん、最近家にいないね……」
なにやら寂しそうな顔を見せるサプル。寂しい思いさせてたか、オレ。
「ワリーな。なら、今度、帝国にいくからお前も来るか?」
「う~ん」
ちょっと潔癖なサプルには、旅は苦痛でしかねー。が、飛空船を旅客船にすれば快適で楽しい空の旅となる。
「お前用に飛空船を造ってやる。完成したら決めればイイさ」
もちろん、飛行システム的なものは博士ドクターに頼むが、内装はオレが造る。手段は手に入れたからな。
「わかった。そうする」
楽しみにしてろと笑い、焼き芋を収納鞄に詰めて行く。
「んじゃ、いってくるわ」
そう言って外に出ると、視界の隅になにかが映った。
オレの考えるな、感じろセンサーが危険と察し、結界を纏わせた。その直後、剛拳(蹄的な)がそこにあった。
「リリーは拳で語るタイプなのか?」
その口で語るタイプだと言われても戸惑うがよ。
「よくもわたしを売ってくれたわね!」
「失敬な。譲渡と言ってくれ」
「よけいに悪いわよ」
頭の上からの突っ込みは聞こえません。
「カイナはどうした?」
逃がすようなカイナじゃないだろう。
「紫の肌をした男が引きずっていったわよ」
ふ~ん。まあ、あいつも魔族の世話をしている。いろいろあんだろう。
「なら、リリーも一緒に来るか? 一応、紹介もしておきたいからよ」
剛拳(蹄的な)を振るうカバ子さんに問うが、まったく聞いちゃいねー。ったく、しょうがねーな。
まあ、来たいのなら来るだろうと、剛拳(蹄的な)を振るうカバ子さんに構わず、牧草地にいるニッコウを呼ぶ。
リファエルと違い、賢いニッコウはヒヒーンと鳴いてこちらへと駆けて来た。
「出かけるから頼むな」
ニッコウの首を撫でてやり、柵の近くに設置した馬具棚から鞍や馬脚を出して装備する。
「ハイヨー、ニッコウ!」
ん~。なんか語呂がワリーな。なんかこう、しっくりくるもんはねーかな。
なんてことを考えながら、ふっとリリーのことを思い出して振り返った。
「…………」
カバが二足歩行で追いかけてくる。馬の速度と同じくらいのスピードで……。
「ハイヨー、カバ!」
とか言ってみたが、さらに語呂が悪かった。そして、カバ子さんのスピードが加速する。
「……ベーは一度、リリーに殺されたらいいと思う……」
一度死んだら終わりなので却下です。
「ニッコウ、ゴー!」
疾走するニッコウ。そして、カバ。なんだこれ?
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