第547話 超万能生物超便利

「あ、あんちゃん」


 部屋へと向かっていると、トータとガブがやって来た。


「あんちゃん、回復薬ちょうだい」


「回復薬? 随分珍しいものを欲しがるな」


 いや、トータには万が一のことを考えて回復薬は渡してあるが、渡してから今まで補充したことはねー。そもそも結界鎧を纏わせているのでケガなんてする状況が思いつかねーよ。


「うん。ノギル村で魔物の大暴走があって回復薬が不足してるんだ。だから冒険者ギルドが回復薬をわけてくれって頼まれた」


 ノギルの村? 聞いたことねーな。どこの村だよ。


 なにやらトータの活動範囲がワールドワイドになってそうな感じだが、オレがどうこう言う資格はねー。まあ、好きにしろだ。


「あいよ。んじゃ、あるだけ持っていけ」


 部屋にいき、いまある全ての回復薬をトータに渡した。


「……これだけ?」


 トータに渡した回復薬は全部で五十三。備えろの精神を教えられている身としては、少なく思えるようだ。


「回復薬ってのは、そんな簡単にはできねーんだよ。まあ、材料は腐るほどあるが、調合するのは技術と手間がかかる。オレの腕ではこれが精一杯なんだよ」


 オレがここで言ってるのは飲めば一瞬で回復するファンタジーな回復薬だ。


 通常の薬草はいくらでもある。が、これは患者の具合を診て投与したり服用させたりしなくちゃならん。素人に渡してイイもんじゃねーんだよ。


「わかった。ありがとう、あんちゃん」


「気にすんな。あ、今日いくのか?」


「うん。午後からいく」


「午後か。なら、間に合うな。トータ。いくときはオレに声をかけろな。昼までに回復薬を作るからよ」


 不思議そうなトータに構わず部屋へと向かう。


 今更だが、オレの部屋は二階にある。が、実はオレの部屋は館とは独立していて、地下の保存庫から三階まで続いている。


 二階は寝室として、寝るだけのものであり、三階は趣味工房。そして、一階は薬師としての薬所だ。


「無理っ!」


 鼻を塞ぎながら薬所を逃げていくプリッつあん。


 オレはもう慣れたが、まあ、慣れない者にはキツいだろうよと構わず、回復薬の材料を集める。


 言ったように回復薬の材料は、たくさんあり、結界で時間凍結しているので全てが新鮮。薬師として超便利な能力だね。


「こんなものか」


 たくさんありすぎて置ききれんわ。


 材料の中心に座り、ポケットから先生にもらった錬金の指輪を右手の中指にはめた。


 ――錬金の指輪。


 遥か昔、魔法文明が黄金期の頃、錬金の指輪は知恵の実と呼ばれ、その繁栄を支えていたと言う。


 まあ、遥か昔過ぎてお伽噺とされているが、この錬金の指輪は、結構な数が今の世に受け継がれてたりする。


 錬金の指輪は、破壊や再生、変化変質を起こせ、融合や分離もでき、まさに鉄を金に、なんてこともできちゃうスゲーものだが、便利かと言うと、そうでもなかったりする。


 この錬金の指輪は、使用者の知識と魔力に依存し、しかも、材料がなければ錬金はできないときてる。


 とは言え、道具なんて使い方次第。知識と材料があり、魔力回復薬があるなら無問題。


「回復薬、錬金!」


 指輪が光り、周りにある材料を一瞬にして錬金して回復薬を――って、瓶瓶!


 回復薬は飲み薬。目の前で一瞬にできるが、容器を用意してないとエライことになるのを忘れてたわ。


 寸前のところで容器に確保。アブネーアブネー。


「こーゆーところがダメなところだよな」


 一回でオレの魔力が半分ほどなくなり、ちょっとダルくなった。


 回復薬と違って魔力回復薬は、それほど難しい調合ではねーんだが、材料が回復薬の三倍くらい集めるのが大変ってものだ。


 だが、一番集めるのが大変な精霊水は、アマテラスが生み出してくれるので無問題。他の材料もエルフとお友達なら超無問題。もう一倉庫にいっぱいだよ。


 ブララの炭酸割り魔力回復薬を一口。それで、魔力全快。ファンタジースゲーだね。


「とは言え、少食なオレには辛いがな」


 一口で魔力全快とは言え、精々四十口も飲めば腹がパンパン。コーヒーだって連続で四杯も飲めば腹一杯だわ。


「三十が限界か」


 炭酸にしたのが敗因でした。ゲプ。


「あんちゃん、いる?」


 苦しくて仰向けになって休んでいると、トータとガブが寝室から続く階段を下りて来た。


「ああ、いるよ。回復薬、できてるから持ってけ」


 あんちゃん、まだ動けないんで適当に持っててください。


「あんちゃん、ありがとう」


 階段を上がっていく二人に手をヒラヒラさせて見送った。


「錬金の指輪、もっと上手く使う手はないもんかな?」


 オレに魔力があれば無問題なんだが、こればっかりは生まれもったもの。グチってもしょうがねー。


「なあ、ドレミ。なんかねーかな?」


 なんとはなしにドレミに聞いてみる。まあ、期待はしてねーがよ。


「ならば、魔力の指輪など、どうですか?」


 なんかあっさりと返ってきた。


「魔力の指輪?」


 なにそれ? 初耳なんですけど。


「わたしも詳しくは知りませんが、オークの将軍が身につけていたと、分裂体から情報を引き継いでおります」


 なにか、いろいろ突っ込む場面なんだろうが、オレのスルー拳の前では雑魚でしかねー。気にもならんわ!


「つーことは、エリナが持ってるってことか?」


「しばらくお待ちくだはい。今、分裂体に連絡をいれます。――はい、あるとのことです」


 ウン、スルー拳三十倍!


「……それ、もらえるのか?」


「はい。差し上げますとのことです」


 いきたくはねーが、最近、いってねーからいくか。状況とか聞かなくちゃならんしよ。


「今からもらいにいくと伝えてくれ」


「畏まりました。いつでもお越しくださいとのことです」


 超力万能生物超便利~!

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