第545話 よりよい明日が来ることを願って
メンドクセーことは丸投げなオレだが、丸投げ要員がいないときはやらざるを得ない。
「明日、ゼルフィング輸送船団の訓練飛行に出る」
夕方、各船長を集め、今後の計画と指示を伝える。
「船団長、出発の準備はできてるかい?」
オレより遥かに上の人だが、こちらがガキだと侮ることはなく、まるで殿様を相手するかのように家臣の態度を見せていた。
まあ、感じからして軍人だったのだろう。固っ苦しいな~とは思うが、身についた習性を変えろと言うのも酷。好きにしろだ。
「はい。いつでも出発は可能です。ですが、補給なしで飛べるのは四日がやっとです」
四日か。まあ、そんだけあれば充分とは思うが、そんなもんだっけ、飛行可能時間って? 公爵どののリオカッティー号は十日くらい平気なはずだったが……。
「元々我々の船は、長距離を移動するように造っておらず、食糧の保存や船員の寝泊まりは最低限しか確保してないのです」
なるほど。そーゆーことね。
飛空船は素人なオレなので、
「まあ、しばらくは近場の行き来だし、四日も飛べれば充分だ。長距離の場合は補給船を組織するなり対応しよう。オレの力を使えば食糧は一月分でも一年分でも積めるからな」
そう言う改造ならお手のもの。問題はねー。それに、先生からもらった錬金の指輪があればサクッとできるしな。
「前に言ったが、これは魔族の船員を教育する飛空でもある。その辺のこと留意してくれ」
あ、アダガさんやアダガさんが選んだ船長候補の方もいますね。
「畏まりました。お任せください」
「頼むわ。それと、四日の訓練飛行後、プロキオンと小人族の飛空船団はバリアルの街に向かう。場所はわかるな?」
「はい。竜機による偵察で半径百リノルの地は把握しております」
リノルがどれくらいか知らんが、バリアルの街まで入るとなると、五、六十キロはわかっているってことだろう。
「残りの飛空船団は、魔族の訓練を続けててくれ。食糧や物資はあんちゃん――アバール商会から仕入れてくれ。金は……って、聞くの忘れたんだが、事務関連ができるヤツはいるのかい?」
殿様には言わなかったが、金勘定できるヤツは必要だ。仮にも商会としてやってくんだからな。
「殿の命により商人出のもを幾人かは連れて来ましたが、我々とベー様のところでは勝手が違うので、なんとも言えません」
確かに。そーゆーすり合わせは必要か。なんともメンドクセーな。
「その辺はまたあとでだ。オレの代わりに商会を任す者にやってもらう。今はどんぶり勘定……ざっぱにやるしかねーか。船団員の手当ては落ち着いてからでイイか?」
船団員の名簿はもらっているが、単行本二冊くらいの人員なんて確認している暇は……ありましたが、メンドクセーので無視しました。
「はい。問題ありません。我々はベー様への恩返しをするために殿から遣わされた身、役目と食事を得られるだけで満足です」
船団員の約八割は初老で、残り二割は老人だ。若いヤツはいない。まあ、ベテランをと注文したからなんだけどな。
まあ、これは次世代の船団員を見越してのこと。人材は順次確保し、投入して行く予定だからな。
「今はその理由に甘えるとしよう。で、だ。小人族の船団なんだが、食糧輸送が主なんだが、あれって輸送船なのか?」
小人族代表の三十代前後の、まさに叩き上げな雰囲気を持つ男に目を向けた。あ、小さいままでは会話し辛いのでデカくしてますよ。
「はい。護衛のために四隻は高速戦艦ですが、残りは輸送船です」
「商人は連れて来たか?」
小人族の船団は、ゼルフィング商会へ出向と言う形で来てもらってるが、いずれは小人族で輸送してくださいと、商人を連れていくのだ。
「はい。この者らです」
と、背後にいた中年男性をオレの前に出させた。あ、部下じゃなかったのね。小人族の服は軍服っぽいのが多いからわからんかったよ。
「グロウニーと申します」
「アリバと申します」
「おう。よろしくな」
白髪混じりの人とヒゲの人ね。うん。外見は覚えた。
ちなみに、この場に突っ込み要員はいないので、スムーズに自己紹介は終わりました。
「まあ、飛行に関しては船団長に任せる。なんかあれば聞いてくれ」
各船長が立ち上がり、一斉に敬礼した。
ここで解散もイイのだが、それは人身掌握の観点から悪手だ。ここは、雇い主の力量を示さなければならん場面だ。
収納鞄から葡萄酒が入った小樽を出し、伸縮能力で大樽にする。それを二十ほど出す。
「今日は記念すべきゼルフィング商会立ち上あげの日だ、明日に残さない程度に飲んでくれ」
横にいる猫型ドレミに視線を送ると、了解とばかりに頷いた。
「お待たせ~! 料理を運んで来たよ~!」
お前、なにもしてねーじゃん。とか突っ込みたいが、ムードメーカー要員のメルヘンさんは、場を明るくするのがお仕事。ガンバれや。
あとは、優秀なドレミ隊に任せれば問題なしなので、オレは見てるだけ。
しばらくして、船団員に葡萄酒が配られ、なぜかオレに視線を集中させ、グラスを掲げた。
え、あとは適当に飲んで食って騒いでくださいよ。とか言える雰囲気ではなかった。なので、さも当然とばかりにコーヒーカップを掲げた。
「よりよい明日が来ることを願って、乾杯!」
乾杯と、歓喜に満ちた声がクレインの町に響き渡った。
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