第546話 めでたしめでたし

 次の日の朝、飛空船団が訓練飛行へと出発した。


「え!? なぜに見送り?」


 頭の上の住人さんが、突然、わけのわからんことを叫んだ。どーしたん?


「いやいやいや、あの流れからしてベーもいくんじゃないの? なにさも当然のように見送ってるの!?」


「は? 飛空船の素人がついてってどーすんだよ。ましてや玄人が仕切ってんのに、ずぶの素人が口出ししても迷惑なだけだろうが」


 飛空船のことは飛空船乗りに任せるのが一番。安心して結果を待てだ。


「え、いや、そうだけど、バリアルの街にいくんじゃなかったの?」


「いくさ。飛行訓練が終わってからな」


 訓練期間は四日。のちにバリアルの街へと行けと指示してある。場所も知ってるしな。なら、オレは、それに合わせてバリアルの街に向かえばイイだけじゃねーか。


「…………」


 なんか騙されたと言う顔でオレの前に立ちはだかるメルヘンさん。なんなの、いったい?


「それより帰るぞ」


 なにやら珍獣でも見るようなカバ子さん(テメーが一番の珍獣だわ)の裾をつかみ、猫型ドレミをカバ子さんの頭に乗せた。


 収納鞄からいろいろ明言を避けなければならん羽根を一つ取り出し、空へと掲げた。


「ゼルフィングの館へ」


 で、我が家へと帰還する。あと、突っ込みはノーサンキューでお願いデス。


 ハイ、我が家に到着――したんだが、なにやら女騎士さんとサリネが庭でお茶をしていた。


「珍しい組み合わせだな?」


 この性格も方向性(なにかは知らん)も違う二人。会話なんてできんのか?


「そうかい。まあ、女同士おしゃべりするのもいいと思ってね。最近、忙しくて籠ってばかりだしさ」


 まあ、籠りっぱなしじゃ体にもワリー。気分転換できてこそ、一流のクリエーターになれるのだ。ハイ、テケトーです。


「女騎士は、勇者ちゃんの面倒見なくてイイのか?」


 まだ朝の八時だってのに、ケーキとか食っちゃってますけど。


「って、そー言や、やけに静かだな。勇者ちゃんは?」


 あの暴れん坊は朝から全力全開。剣客さんやらと遊んでいるんだがな?


「ああ、渡り竜って言うのかい、あのルククって竜は?」


 あ、すっかり忘れてた……わけじゃねーが、サプルがなんとかしてくれんだろうと脇に置いてたわ。


「ルククがどうしたんだ?」


「サプルがルククの相手を勇者ちゃんに任せてね、喜んで飛んでいったと思ったら二日くらい帰ってこないんだよ」


 女騎士さんを見れば、ハイ、その通りですとばかりに頷いていた。イイんかい、それで!?


「ってまあ、飽きたら帰ってくんだろう」


「え、いいの!?」


 イイんじゃね。幼女でも勇者。死にやしねーだろう。一応、結界は纏わしてあるし、お小遣い(銀貨二百枚)は渡してある。収納ポケットにしてオヤツもいれてある。魔王でも倒しに行ったんじゃなきゃなんとかなるだろう。


「勇者は村を旅立った。よくあることだ」


 きっと、壮大なドラマが今始まったんだろう。なんのかはよー知らんけど。


「……ところで、ベー。うしろにいるのは誰だい? なかなか見ない種族の方だが?」


 よく見る種族だったら、この世界はいろいろ終わってるよ。


「こいつはリリー。元聖女で将来の……なんかだ」


 どうも、このカバ子さんには人を引っ張る力はないように思えてきた。じゃあ、なんの力があるんだと問われると、まだよーわからんが、しばらくは適当に、好き勝手に生きてくれ、だ。


「リリーさんかい。わたしは、サリネ。ベーの専属木工職人さ。よろしく」


「…………」


 あ、どうも。とばかりにお辞儀する女騎士さん。お口は中は甘いお菓子でいっぱいなのでしゃべれないようです。


「……あなたは、わたしの姿を怖がらないの……?」


 オレを盾にするように、サリネに尋ねた。いや、八割以上出てますから、あなた。


「アハハ。ここに住んでたらリリーなんてまだまだ可愛い方だし、まともな方さ。ここは、変わり者のるつぼだからね」


 それだとあなたも入ってますよ。まあ、まともとは言えねーサリネさんですけどね。


「――なに、このカバ子さん!? 着ぐるみ?」


 と、カイナが突然現れ、カバ子さんに抱きついた。


「――きゃーっ!」


 突然抱きつかれて乙女な叫びをあげるカバ子さん。そして、剛拳(蹄だけど)を唸らせた。


 たぶん、岩だったら粉砕しているレベルだろうが、カイナの肉体は伝説の魔王のもの。子犬が飛びかかった程度にも感じてねー。


「なにこの子、メッチャ可愛いんですけど!」


 カバ子さんの両脇をつかみ、高い高いをするカイナ。お前、どんな趣味してんねん!?


「ま、まあ、今日からうちに住むことになったから、よろしくな」


 カバ子さんが助けてと目を向けてくるが、それはたぶん、気のせい。なので、カイナに任せてオレは自分の部屋へといきましか。


「……ベー、あとでリリーに殺されるわよ……」


 え、そうなの? なら、殺される前に殺しておきましょう。


 クルリと回れ右。


「カイナ~! リリーの面倒頼むわ~!」


「任せてー!」


 今日、魔王カイナにカバのペットができましたとさ。めでたしめでたし。


「……絶対、いい死に方しないわよ、あんた……」


 やだな、このメルヘンったら。オレは、イイ人生を送れたら死に方なんて気にしませんぜ。


「さ~てと。今日も楽しく生きますかね」

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