第532話 美魔女
う~ん。ねーな。
先生の布団やら生活用品を集めながら目的のものを探しているのだが、どうしても見つけることができなかった。
「お客様。どうかなされましたか?」
お菓子売り場の前でうんうん唸っていたら、心配した鬼の店員さんが声をかけてきた。
「ああ。さっきから探してんだが、どうしても見つけられんのよ。やっぱ、カイナーズホームでも売ってねーか」
いやまあ、淡い期待を込めて探したまで。本気であるとは思ってはいねーよ。
「失礼ながら、なにをお探しでしょうか? おっしゃっていただければお調べしますが」
なにか、失礼なことを言ったのか、鬼の店員さんがちょっとムっとしていた。そんな思いで言ったんじゃないんだがな……。
でもまあ、奇跡はあるもの。お導きだ。これがそうかもしれない。これに賭けるのも一興だ。
「あ、いや、カリスマ指導者を探してんだよ」
「はい?」
ゼロ円スマイルで首を傾げる鬼の店員さん。器用だな。
「だから、カリスマ指導者だよ。売ってるかい?」
「え、あの、その、あう……」
混乱する店員さん。喜怒哀楽の激しいこと。
「なら、普通の指導者でもイイんだがよ」
この際、贅沢は言わん。あるのなら二流でも構わねー。町くらいなら治められんだろう。
「……も、申し訳ありません。当店では扱っておりません……」
だろうな。扱ってたらスゲーわ。
「イイよ。それほど期待してなかったからな」
肩を竦めて見せた。
「いや、なにクレーマーなことやってるのさ!」
「ホームセンターでカリスマ指導者探すって、なかなか愉快なことしてるわね」
と、くずれコンビが現れた。
「そうか? コンビニには愛が売ってるって聞いたから、カイナーズホームには売ってんじゃねーかと思ってよ」
愛だったかなんだったか忘れたが、二百円だか三百円で売ってる耳にしたぞ。
「それ、どこのなに情報なの?」
「知らん」
バッサリ切り捨てて買い物を再開させた。
「にしても、なぜにカリスマ指導者なのよ? ベーがいるじゃない」
なぜオレになるかはサラっとスルーして、くずれコンビに語ってやった。
「……つまり、面倒だから誰か代わりにやってくれる人を探していると……」
まあ、そんな感じだ。
カイナがやってくれんならマルっとサクっと任せるのだが、こいつは指導者としては三流だ。まあ、小集団のリーダーや副としてなら優秀に働いてくれる。
つーか、こいつは力ずくで従えさせる魔王だ。ある意味では適任なんだろうが、こいつはそんなことはしない。そう深い過去は聞いてないが、自由に生きることをおのれの使命にしている節がある。
そんなアホが真面目にやるわけがねー。もう最初から除外だ。
なら、あんちゃんっての考えたが、あれは指導者の器じゃねーし、商人として経済を担当してもらいたい。
アダガさんもそれに同じ。統治より商売で魔族を回して欲しい。
「やっぱ、平和なときには英雄英傑は生まれんか」
まあ、そんな平和な時代でもねーが、強い意思や願いはどん底の方が生まれ易く、英雄や英傑を多く出現させる。
なんとも皮肉なことだが、それが世の常。グチってもしょうがねー。そんなどん底で苦労するよりは今の現状でがんばるとしよう。
「まあ、先生に相談するか」
今はマッドの知恵も借りたいくらい。たまにイイ知恵出すからな、あのマッドは。
そう答えを出して買い物を続けた。
「あ、そー言や、ここ、家具類も売ってたっけか?」
なぜかついてくるカイナに尋ねた。
「うん、あるよ。えーと、あっちだよ」
と、案内してもらう。
アレやコレやとテキトーに決めて、小さくしてカートの中に入れていく。
「そんなに買ってどうするの?」
「先生の家に置くんだよ。さすがにサリネに頼んでいたら時間がかかるからな」
先生はそれほどインテリアに拘るタイプじゃねー。拘るのは実験器具と材料。他は気にしないのだ。
「あ、塔とか売ってるか? 人が住めそうなやつ」
「ほんと、ベーはホームセンター泣かせの客だよね。塔なんて売ってる訳ないでしょう。ドールハウスじゃダメなの? あるよ、いっぱい」
「先生、日焼けするタイプだから窓が少ない塔とかの方がイイんだよ」
「……なにかしらね。吸血鬼らしからぬ話になってるんだけど……」
「あ、いや、この世界の吸血鬼、陽に当たっても平気なタイプだから。って言うか、そのわりに肌艶いいよね、あの人」
「あれでいて美容にうるさい人だからな」
「……さすがベーの先生だね……」
「この世界、ほんと、ふざけてるわよね」
飛んで行くブーメランを回避しながら買い物を続ける。
あ、美顔ローラーでも買っててやるか。美魔女先生のためによ。
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