第531話 お買い物

 外に出ると、まだくずれコンビがなんかやっていた。


「なにやってんだ?」


 所在なさげに立つマイブラザーに尋ねた。


「わかんない。買い物にいくって呼ばれたんだけど……」


 まあ、くずれコンビの行動を理解しろと言う方が悪いか。オレもなにかを熱く語り合う内容などさっぱりわからん。つーか、聞きたくもねー。脳が腐るわ!


「なら、オレと先に買い物行くか? どうせ、終わったら来るだろうしよ」


 来なけりゃ来ないで構わねー。いつも一緒にいるってわけじゃねーんだからよ。


「いく。ガブもいくか?」


「ああ。いくだや。なんかつまんねーし」


「ん? そー言やカナコさんとやらはどうした?」


 ガブの頭に咲いてもなければ近くにもいねーみたいだが。


「部屋にいっただよ。なんか探してくるとかで」


 まあ、チャコの同類。不思議生物。深く考えるなだ。


「そうか。んじゃ、いく――前にサリネのところによってからな」


 言ってサリネの工房へと向かう。


 工房に来ると、なにか椅子に座って鼻歌を歌いながら木を削っていた。


「サリネ。ちょっとイイかい?」


「ん? ああ、ベーかい。なんだい?」


 木を削るのを中断してこちらを見てくれた。そんなに集中する仕事じゃないようだ。


「家って何戸できてる?」


「まだベーに頼まれた宿屋を作っているところだよ」


「随分と時間かけてるんだな?」


 もう二、三戸作ってても不思議じゃない腕前だろうに。どーしたん?


「ロノさんのお願いで台所の作りをもうちょっと小さくしてくれと頼まれてね、もう一回作り直してるんだよ」


 あ、そー言や、ドワーフのおばちゃんにイタリア~ンな店主のこと話してねーや。どーすっぺ?


「な、なあ、サリネ。それが終わったら、オシャレな食堂も作ってくれるか? 宿屋の隣に置きてーからよ」


「お洒落な食堂かい? まあ、ベーが言うなら作るが、必要なのかい? 宿屋にあるのに」


「あ、ああ。離れの食堂は泊まり客だけじゃなく、一般の客も受け入れようと思ってな。まあ、そこら辺は担当者が来たら決めるよ」


「わかった。ロノさんやサプルに相談して作るよ」


「ワリーな、無理言って」


「構わないよ。それがわたしの仕事さ」


 その職人魂に感謝してカイナーズホームへと向かった。


「……町になってる……」


「はや~!」


 港に来ると、そこに広がる光景に二人は目を丸くした。


 ガブはしょうがないとして、トータは港には何度も来ている。あの岩だらけの港が賑やかな町となっていれば、そりゃびっくりだろうよ。


「にしてもスゴい人だな。さらに拡張しねーとダメか?」


 タケルの潜水艦が余裕で入れるように拡張したのに、アダガさんの船や見知らぬ船が四隻も停泊してギチギチだった。


「おう、ベー。どうした?」


 と、あんちゃんが現れた。


「あんちゃんこそどうしたい、今頃港にいて?」


 午後からは上の店にいるシフトだろうに。


「ああ、ウルさんと会議だよ。見ての通り増えすぎていろいろ問題が出てな」


 まあ、人が……いや、魔族とは言え、集まればどうしたって問題は出てくる。不平等も生まれる。それが集団社会ってもんだ。


「で、解決はしたのかい?」


「するわけねーだろう。誠意努力って感じで終わったよ」


 だろうな。解決できたらあんちゃんを王にするわ。


「アダガさんって、どこにいるか知ってるか?」


「三日前からギルドに泊まり込みだよ。お前が無茶振りしてっから」


「やるやらねーはアダガさん次第。オレのせいじゃねーよ」


 まあ、ほとんど強制みたいなもんだがな。


「あんちゃん。辛いなら町長でも代理者でも選んで任せろ。ここの責任者はあんちゃんなんだからよ」


「それが無茶振りって言うんだよ。一介の商人がやることじゃねーよ」


 それを情けないと言うのは酷か。もう商人としての域は出てんだからな。


「青年団は、ここにいるか?」


「青年団でわかるのもなんか嫌だが、ホテルにいるんじゃねーか? 最近、皆で集まって討論してるって聞いたぜ」


「そうかい。討論好きな連中だ。わかった。ありがとな」


「なに考えてんだ? やるんならおれにも話しておけよ。お前の突拍子もないことに対応できるの、おれくらいなんだからよ」


 フフ。さすがあんちゃん。頼りになることを言ってくれるぜ。


「んじゃ、言っておくよ。地上に町を造る。ジオフロント計画の拠点の町を。明日、その拠点となる場所にいくから興味のあるヤツ……では多くなるか。代表者数人を連れて行く。ってことを広めてくれや」


 さっそく頼らせていただきますと、ニッコリ笑って見せた。


「……ほんと、お前は容赦ねーよな。ったく。わかったよ。知らせておくよ」


「フフ。頼れるあんちゃんがいてくれてオレはマジサイコー!」


「うっせい! 貸しから引いておくからな!」


「おう、金貨二百枚くらい引いておけ」


 その苦労をするくらいなら金貨二百枚など惜しくもないぜ。


 肩を上下に激しく揺らしながら去っていくあんちゃんを見送り、カイナーズホームへと向かう。


「いらっしゃいませ~!」


 鬼のねーちゃんから買い物カゴを受け取り、そのままトータに渡した。


「なんか欲しいものがあったらこれに入れて持ってこい。わからないことがあったらそのエプロンした人に聞けな」


「あ、あんちゃん、ここ、なに?」


「雑貨店だ。まあ、普通の雑貨店の百倍はありそうだがな。まあ、買い物も勉強だ。いろいろ見て回ってこい。夕食はここで食ってくからゆっくりでイイからな」


 今日は外食したい気分。ここで食ってくべ。


 ……決してパンケーキが食いたくないからじゃないデスヨ……。


「んじゃ、またあとでな」


 えーと。まずは、大物からいくかと、大型のカートを引っ張り出して布団売り場へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る