第533話 聖女
「うほー! この美顔ローラーとやら、いいのぉ~! なにかお肌に効きそうな感じだ」
美顔ローラーとやらが、なにに効くか知らんが、まあ、先生が喜んでんならなんでもイイわ。
他にもシャンプーや化粧品の説明してたらあっと言う間に夜中となり、一夜の宿にと買ってきたドールハウスに泊めさせようとして、いろいろやっていたら深夜となって、なんやかんやで朝になっていた。
「……まさか、力尽きて寝るとか、今生初だわ……」
運ぼうとしていた布団があまりにも心地よかったのか、運ぶ途中で廊下で寝てしまったよーだ。
「あーまあ、風呂入ってすっきりするか」
ドールハウスから出て、体を大きくする。
「おはようございます、マスター」
猫型のドレミが挨拶してきた。
あ、ちなみにここは、オレの部屋ね。さすがにドールハウスでは雨風は防げねーし、ゼルフィング家の庭は小さくなったので、庭に置けねーのだ。
「おう、おはよーさん。ワリーな、なにも言わず帰ってこねーで」
いやまあ、自分の部屋から出てはいないのだが、気分的に外泊したので、一応、謝罪した。
「いいえ。近くにおりましたのでお気になさらず」
なにか、ドレミの言葉に違和感を感じたが、上手く頭が働かないのでスルーした。それより風呂だ。
うちの野郎どもで朝風呂に入るヤツはいねーので、男湯には誰もいない。が、女湯の方はなにやら大盛況のようだ。珍しい。
サプルは前から入っていたが、他は入らない。それは、館になってからも変わらなかったのだが、誰が入ってんだ?
見知らぬ声からしてダークエルフのメイドさんズか? なんかもっといそうな感じだが……。
うちの風呂は、銭湯方式に変えたので、男湯と女湯の間は竹の衝立一枚。余程の小声じゃなけりゃあ直通なのだ。
「かぁ~! やはり風呂はよいものだな。しかもシャンプーとやらの泡立ちと効能には驚かされるばかりだ。髪が生まれ変わったかのようだわ!」
はぁ? 先生かよ!?
おいおい、昨日、小さくしてドールハウスに入れたのに、なんで風呂入ってんだよ!
「先生、いんのか!」
「んお、ベーか。お前も朝風呂か」
「ああ。まーな。いや、どうやって出てきたんだよ!」
つーか、寝てんのわかってたら廊下に放置すんなや! 毛布の一つでもかけやがれよ。運んでたんだからよ。
「わたしが大きくしたのよ」
と、衝立からプリッつあんが顔を出した。
あ、いたな、プリッつあん。なんかオレの中から消えてたわ。
なんて考えは顔には出さなかったのに、なぜか石鹸を投げつけてくるメルヘンさん。エスパーか!?
「……ベーとは近いうちにちゃんと話し合う必要がありそうね……」
オレにはまったくありませ~んとばかりに頭や体を洗って、湯船にダイビング。風呂、気持ちイイ~わ~!
「あ、先生よ。カリスマ指導者が欲しいんだが、持ってねーか?」
じゃれてくるプリッつあんを相手しながら先生に尋ねた。
「……お前は、相変わらず唐突な上に、予想だにもしないこと聞いてくるよな。と言うか、妾のことをなんだと思っているのだ……」
「頼れる先生?」
「なぜ疑問系なんだ。どうせなら言い切らんか」
「頼れる先生、カリスマ指導者をください!」
「持ってねーわ!」
即座に返ってくる突っ込み。そして、落下してくる桶。相変わらず先生の突っ込みはイイ切れ味だ。
「アハハ。やっぱ先生の突っ込みは最高だな」
「……ほんと、ベーは怖いもの知らずよね……」
失敬な。オレにも怖いものはある。なにかは口が裂けても言えんがな。まだ死にたくねーわ。
「まあ、カリスマがなんなのか知らんが、二百年前の聖女ならおるぞ」
「それ、改造したもんだろう。オレが欲しいのは自由意思で動くやつ。人形なんかいらんわ」
フランケンなんてゴーレムと大差ない。人の肉体を使ったか土を使ったかの違いでしかねー。
「いや、そやつはちゃんと意思を、生前の記憶を持っておってな、妾の支配を拒絶しておるのだ。なかなか面白い検体だぞ」
こーゆーところがマッドだって言うんだよ。まあ、先生の主義主張に突っ込こまねーオレもオレだがな。
「そいつ、指導者タイプなのか?」
「知らん。が、生きてた頃は、種族平等を訴えてどこぞの宗教国家と戦っておったぞ。まあ、最後は首を切り落とされたがな」
ジャンヌダルクのようなもんか? いやまあ、ジャンヌダルク、よー知らんけどさ。
「そいつ、くれんの?」
これまでの経験と、オレの考えるな、感じろが当たりと囁いている。
「ああ、くれてやるよ。面白い検体ではあるが、ベーには住み家をもらうしな、その礼だ」
「んじゃ、遠慮なくもらうわ。あ、朝食が終わったら出かけるからそのつもりでな」
「ああ、わかった。皆にも言っておくよ」
にしても聖女か。思っていたのとは違うが、まあ、先生が示し、オレの考えるな、感じろが当たりと感じているなら、なるようになるだ。
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