第528話 世界樹アマテラス

 それを手に入れたのは偶然だった。


「ベーが言うと安く聞こえるのはなぜかしらね?」


 ハイ、そこのメルヘンくずれさん。お口にチャックだよ。


 エルフの狩人が、助けたお礼にと世界樹の種をくれたのが始まりだな。


「世界樹の種って貴重じゃないの?」


「いや、そんな貴重なもんではないらしい。世界樹の実は一年に一回生って、たくさん落ちるらしいぜ。もらったのも袋いっぱいにだからな。エルフの中では保存食程度のものらしいぜ」


 まあ、人の世では一つ金貨二枚になっちゃうけどね。


「それに、世界樹の種を植えたからと言って必ず芽が出ることはないらしい。芽を出させるには土、水、空気、魔力、霊力、光りがバランスよく揃わないとダメなんだとよ」


 それらが揃ったからと言って、芽が出るのは奇跡に近いらしく、エルフでも芽を出させるのは至難の技らしい。


「まあ、それでもせっかく手に入れた世界樹の種だ、試さない手はない。近くには花人が暮らす里がある。土と水は簡単に手に入るんだかな。土と水が揃ったらあとは難しくない。エルフ監修のもと、結界で環境を創り出せばイイだけだからよ」


 まったくもって結界超便利~。


「なんの奇跡か芽は出た。なら、あとは育つのを待てばイイだけだ」


 あとは放置、とはいかないが、環境はできているので維持に勤めれば問題はないらしい。


 芽が出て何日かして、殿様と知り合い、この世に浮遊島があることを知った。


 まあ、その前にあるとは聞いてたし、浮遊石も見たことはあったが、この時代、自分の目で見るまではことの真偽はわからない。妄想と空想が入り交じっているからな。


 なんてことを語りながら皆をオレの部屋に連れてきた。


「へ~。これがベーの部屋か。意外と綺麗にしてるんだね」


「そうね。ごちゃごちゃしてるかと思ったわ」


「アハハ! 村人さんの部屋おもしろーい!」


 各自、珍しそうに人の部屋を見回している。一名、ベッドの上で跳び跳ねてるがな。


「なにか二つ、部屋にそぐわないものがあるわね」


「そぐわないと言うか、不自然なものだね。こうして見ると」


 なにか、名(謎)コンビを見せる魔王くずれとメルヘンくずれ。同類だな。


「片割れはお前が出したもんだろうが」


 プリッつあんの部屋と言うか、キャッスル、結構場所を取るんだよな。もうちょっと小さくしてくれるともう片割れのが窓の近くに置けるのによ。


 部屋の中でキャッスルに住むクセに日照権主張するとか意味わからんわ、あのメルヘンくずれがっ。


「そうだけどさ。まさかミニチュアのラ〇ュタモドキを作る人がいるとは思わなかったよ」


「これ、何分の何よ? と言うか、無駄に精巧すぎて引くわ~」


「うっせーな。こんなファンタジーな世界に生まれたらラピ〇タの一つや二つ、作りたくなるだろうがよ!」


 くずれどもにはこのロマンがわかんねーのかよ。


「あ、いや、わからなくはないけど、それを実行しちゃうとか、マジあり得ないよ」


「ベーって、無駄に行動力あるわよね。尊敬はしないけど」


「おー! 浮いてるよ、これ!」


 〇ピュタ――ではなく、ベピュタを揺らす勇者ちゃんを排除する。繊細なんだから止めてくれ。


 ブーブー言う勇者ちゃんに構わず、傾いたベピュタを元に戻した。


「浮いてるだけなんだね」


「と言うか、なんか盆栽みたいね、これ」


「あー確かに言われてみれば盆栽だね。ぶふ。浮かぶ盆栽とかウケる~」


「フフ。確かにウケるわね。ベー、趣味イイじゃない」


 クソ! テメーらにウケさせるために作ったんじゃねーわ、こん畜生どもがッ!


「でもまあ、失敗作だしな、笑われてもしょうがねーわ」


 できに関しては成功なんだが、性能としては失敗だ。ベピュタの制御法が思い付かなかったんだからよ。


 浮遊石に土を纏わせ、手頃な木を移植して城を作る。ただそれだけ。魔術的魔法的なものは施してはいないのだ。


「部屋のインテリアとしてはいいと思うけど」


「そうね。なかなかお洒落じゃない。ベーの部屋にぴったりよ」


「そりゃ、どーも」


 今さらそんななこと言われてもうれしかないわ。


「でも、それなら浮遊結晶石、いらないんじゃないの? 制御機関がないと、本当に浮かぶ島だよ」


「いや、それは解決してた。最大の問題は、実物大のにしようと思ったら並大抵の浮遊石ではダメだってことだったからな。それも結晶石で解決したよ」


 島の候補はもうとっくに決めてあるからそれも問題なしだ。


「あとは、世界樹の成長なんだが、いや、世界樹の説得、かな?」


「説得?」


「どう言う意味?」


 説明するよりは見せた方が早いと、玄関に向かった。


 ちなみに、なぜ玄関かと言うと、我が家で一番陽の当たる場所が玄関なんだよ。


 鉢を持ち上げ、皆に見せる。


「アマテラス。ちょっと顔を出してくれ」


 そう呼びかけると、二枚の葉がぷるぷると揺れ、ポコンと土から顔を出した。


「なーに、ベー? せっかく気持ちよく寝てたのに」


 頭に葉を生やした女の子が眠そうに瞼をこすっている。


 相変わらず謎植物だよな、世界樹って。


「世界樹のアマテラスだ。ほれ、挨拶しな」


「今、ベーが言ったじゃない。眠いからもういいでしょう。おやすみ」


 しゅぽんと土の中に戻ってしまった。


「まったく。万年寝太郎が。なんで……ん? どうした?」


 なにかくずれコンビがワナワナと震えていることに気がついた。


「「……違う……」」


 はん? なにが?


「「――世界樹と違うわ!」」


 大絶叫するくずれコンビ。なんなんだよ、いったい!?

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