第527話 ダークでピュアなベー

「あーあ。やっぱりベーには勝てなかったか」


 まるで子どものように口を尖らした。


「本気で戦ったらお前の圧勝だろうが」


 三つの能力の中で一番最強の結界術だってカイナには通じない。もう人外を超えて神域に入ってる感じだ。


「そうだけどさ。それ、おれの力じゃなくこの体の力だし、勝負するなら自分だけの力でやりたいよ。ベーもそうしてるじゃない」


「アホか。実弾生身で受けるとか死ぬわ。結界は纏わしてたわ」


 幾らオレがバカ野郎でも生身でやれるか。そこまでバカ野郎じゃねーよ!


「そんなもの防具してるのと同じさ。おれだって魔力を皆に纏わせてたもの。お互い、己の力だけで勝負で、おれらが負けた。やっぱ悔しいな、これでもサバゲー歴二十年になるのにさ。ベーはサバゲーやってたの?」


「オレは小学校から野球少年で、サバゲーなんて話にしか聞いたことねーよ。精々、祭の屋台でコルク銃を握ったくらいだ」


 ましてや実銃なんて今生になってから。つーか、ファンタジーの世界で銃握るとか今さらながらびっくりだわ!


「それでよく弾丸交わせるよね。実は化け物だったり?」


「オレは正真正銘、人だわ。オレは昔から勘がイイんだよ。あと、お前との勝負はある意味心理戦だ。誘い込みに誘い受け、野球してる頃はよくやってたことだ。これでもプロスカウトされたこともあんだからな」


 いろいろあってプロにはならなかったが、あの頃の感覚は未だに失ってない。どころか、この弱肉強食な世界で更に研きが入り、もはや特殊能力と言ってもイイくらいだ。


「……ベーって、変態だよね……」


 は? なんでそんな結論になるんだよ? 意味わからんわ!


「確かに、変態ね。銃撃戦を心理戦とか、マジないわ~」


 なぜかチャコからの賛同。なぜに!?


「ったく。満足したんなら終わりでイイだろう」


 これ以上は付き合ってやれんぞ。疲れたわ、精神的によ。


「……ベーは変態だけど、律儀だよね。そんなことしなくても手伝うのにさ」


 カイナの呟きに、フンと鼻を鳴らした。


「どう言うこと?」


「おれに手伝ってもらう代価にサバゲーをしてくれたんだよ」


 正直、そこまでは考えてなかったし、かなり最初のほうで主旨が違ってきたがな。つーか、ダークエルフのメイド隊の参戦とか想像できるかよ! できたらそれこそ変態だわ!


「へ~。そうだったんだ。ベー、イケメン」


 チャコからくる生暖かい視線をフンで吹き飛ばした。


「悔しいけど、おもしろかった。何年振りかの本気の勝負だった。うん。しっかりもらったよ」


 まあ、満足してもらえたんならそれでイイよ、もう……。


「チャコもカナコも勇者ちゃんもありがとうね。楽しかったよ」


「あたしも楽しかったから別にいいわよ」


「わたしもよ」


「ボクもー!」


 男前な三人。こいつらにもあとで礼をしなくちゃな。


「ふふ。それで、ベー。おれになにして欲しいの?」


 こいつもこいつで男前な魔王だよ、ったく。


「カイナに島を一つ、持ってきて欲しい。それか、島を創ってくれ」


「島? 島なんて……あ、小人族にか」


 ん? どうやら殿様との会話は聞いてないみてーだな。そっちは興味なしか?


「ああ。小人族に農業と畜産をやらせようと思ってな。島が欲しいんだよ。オレの力じゃ創るまでに時間がかかるからよ」


 やるとなったら一月はかかる。そんな手間をかけるくらいならカイナに代価を払ったほうが何倍も安いわ。


「いや、さすがにおれでも時間がかかるよ。浮かすだけの浮遊石って結構魔力を使うんだからさ」


「どんくらいかかんだよ?」


「二時間?」


 ポケットサイズ殺戮阿吽さつりくあうんを抜いた。


「いやいやいや、簡単そうに聞こえるかもしれないけど、結構集中力がいるんだからね! ベーの持ってる結晶石にするのが大変なんだから。って言うか、なんでそれ使わないのさ?」


 チッ。バレてやがったか。


「ダークベーだ、降臨。って感じね」


 うっさいよ。お前もかなりダークじゃねーか。


「こっちは違うことに使いたいんだよ」


 クソ。カイナが丸ごと創ってくれたらオレ丸儲け作戦がバレるとは。想定外だぜ。


「なにに使うの? 教えてくれたらやるよ」


 ニヤリと笑うカイナ。やっぱこいつ魔王だ!


「ったく。わかったよ。ラ〇ュタ創りたかったんだよ」 


「「はぁ」」


 なに言ってんの、このバカって顔をするカイナとチャコ。だから言いたくなかったんだよ。


「ラピュ〇って、そこにあるじゃん、リアルのが」


「あれはたんなる浮遊島だ。〇ピュタじゃねー」


 オレはあれをラピ〇タとは認めねーぞ。肝心なのがねーじゃんかよ。


「まさか、玄関の横にあった鉢、を?」


「わかってたのか?」


 これまで誰にも突っ込まれなかったが、さすが親戚……みたいなもの。あれがわかるようだ。


「鉢? あ、そう言えばあったあった。自然にありすぎて気にも止めなかったよ。あれ、なにか特別な植物なの?」


 カイナにはわからないのか、あれ。結構有名な植物なんだがな。


「あれは、世界樹だよ」

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