第526話 四番バッター

 こちら特派員のベーです。


 わたしは今、ゼルフィング家の地下にある保存庫にきております。


 ここは、飢饉に備えた場所であるため、中は広大で、しかも六階層にわかれています。知らずに入れば迷うこと必至です。


 普段は静かなところですが、今は銃弾が飛び交う危険地帯となっております。


 ゼルフィング家勇者隊が必死に交戦しておりますが、ここに逃げ込んだ魔王隊も必死。一進一退を繰り返しております。


「ヒィーット!」


 おっと、今、魔王隊の一人、ダークエルフのメイドが一人倒れました。ですが、まだ四人のダークエルフのメイドがおり、戦況は変わっておりません。


「もう弾がないよっ!」


「チッ。わたしもよ」


「さすがね。得意だけあって抜かりはないわ。ほら、弾よ」


 どうやら勇者隊は劣勢になっていたようです。


 そろそろ誰かから突っ込みが欲しいところだが、そんな常識人近くにはいてくれない。自分でなんとか……できる自信がねー!


「まずいわね。このままじゃジリ貧だわ」


「チャコ、弾は大丈夫なの?」


「正直言ってあとちょっとで尽きるわ」


 もう三十分以上撃っててまだ尽きないのがオレには不思議だよ。


「なら、ボクが出るよ!」


 なにか意を決した勇者ちゃんが声を上げた。


「勇者ちゃん……」


 それに対して悲壮な顔を見せるチャコとカナコさんとやら。え? なんのドラマがあったの? 全然気がつかなかったんですけど!


「わかった。勇者ちゃんに任せるわ」


 これが戦争映画だったら感動シーンなんだろうが、オレにはコメディ映画の大爆笑シーンにしか見えねーよ。


「へへ。任せてよ。んじゃね!」


 曲がり角から飛び出す勇者ちゃん。いや、君は最後にいくとこじゃね?


 勇者としてどうかと思うものの、この状況に突っ込みできる勇気が出てこない。マジ、止めてー。


「「「ヒート!」」」


 同時に声が上がった。


 今さらで申し訳ないんですけど、ヒートとかなんですのん? 当たったって意味なんか?


「次はわたしね」


 そう言うと、歓喜の笑みを浮かべながらカナコさんとやらが飛び出した。


 激しい銃撃戦が起こっている。もはやいないものとされたオレなので、曲がり角の向こうは見て取れないが、『やるわね!』とか『カナコ様こそ』とか、なんか友情が芽生えそうなドラマチックバトルが展開されているのはわかった。


「「ヒート!」」


 これまた同時に声が上がる。


「フフ。認めるわ。あなたが上よ。でも、こちらにもゲーマーとしての意地と誇りはある。ただではやられないわ」


 なにか壮大なストーリーがチャコの頭の中で流れているようで、自分が最後の一人となっているようです。いやまあ、どうでもイイけどさ。


「勝負、カイナ!」


 曲がり角から飛び出すチャコ。


 なんつーか、三度目ともなると、なんの感情も湧いてこねーな。


 曲がり角の向こうでは、激しくもドラマチックなバトルが繰り広げられているようだが、もう勝手にしてください。オレは疲れたのでマンダ〇タイムとさせていただきます。


 あーコーヒーうめー!


 ふっと、考えるな、感じろセンサーが働き、頭を横にずらすと同時に腰に差していた朧を抜き、目の前に向かって撃った。


 自分でもなんでそんなことしたかわからないが、オレは考えるな、感じろには逆らわないし、疑問にも思わない。


 もし、オレに才能があるとしたら、この考えるな、感じろ――第六感に優れていることだろう。これは自分でも驚くくらい高性能なのだ。


 第六感に意識が追いつくと、銃口の先にはダークエルフのメイドさんがいた。


「ヒットでございます」


 なにか、威厳と言うか凄味と言うか、他のダークエルフのメイドさんとは明らかに格が違う。メイド長的な人か?


 後ろから死亡と書かれた札を出してしゃがみ込んだ。


「ご苦労さん。もう下がってイイよ。後片付けを頼むわ」


「はい。畏まりました」


 一礼して立ち去る……誰だったっけ? 名札見んの忘れったわ。


 まあ、そのうち確かめればイイか。それより、この茶番劇を終わらせねーとな。


 いや、お前が始めたことだろう! との突っ込みは聞かぬ! そして、知らぬ! あと、ごめんなさいです!


 朧を戻し、未来的ライフル銃を構えた。


「メンドクセーな、ほんと」


 曲がり角を曲がると、十五メートル先にカイナがいた。


 オレとカイナの間には目を輝かす死体が転がっているが、そんなもん全力全開で無視。死んでも視界にはいれんわ。


「待ってたよ」


 出会ったときにかけていたライフル銃を持ち、不敵に笑う魔王。


 えーと。これ、付き合わなくちゃならないの? とか誰かに問いたいが、ここはまさにアウェイ。四面楚歌。逃れられないってことだ。


「待たせたな」


 この空気に乗ってはみたものの、それ以上は無理です。勘弁してください。


「ベーとはいつかこうなると思ったよ」


 さらにカイナからの無茶振り。ある意味、強敵過ぎて動けねーよ。


「……そうかい。オレとしては避けたかったがな」


 ほんと、どこで道を誤ったんだろうな。


 最初からじゃない? とか、プリッつあんの突っ込み欲しい。クソ。あのメルヘン、肝心なときにいやがらねーぜ。


「そうだね。でも、おれはこうなれて嬉しいよ。ベーとは本気で遊びたかったしね」


「物騒な遊びだな」


「そう? おれとしてはもっと厳しくてもいいんだけどな~」


「そうしたらうちの女神から天罰食らうわ」


 サプル、怒るとおっかねーんだぞ。


「あはは。確かに。おれもあれには勝てないよ」


 たぶん、元の家族のことを言っているんだろう。情けない顔を見せていた。


「なんで、とっととやるぞ」


「いいとも」


 と、持っていたライフル銃を床へと放った。


「こっちでやろうよ」


 右手で腰に差す拳銃――チャコからもらい、カイナの手に渡った、拳銃を叩いた。


「ああ。それでイイよ」


 未来的ライフル銃を放り投げる。


「じゃあ、勝負だ!」


 目にも止まらぬ速さで拳銃を抜くカイナだが、オレの第六感は既に動いている。勝負のしょの時点で体が右斜め前へと一歩前進する。


 今までいたところを弾丸が翔ていく。


 腰から朧を抜くと同時に左斜めへと一歩前進。またいた場所を弾丸が翔ていく。


 銃口をカイナに向けると同時に、また左斜めへと一歩前進。弾丸が頬を掠めるように通り過ぎた。


 引き金を引く。


 朧から放たれた弾丸がカイナがいた場所を通り過ぎる。


 ニヤリとカイナが笑った瞬間、オレもニヤリと笑い返した。


 はっとしたカイナが後ろを振り向いた瞬間、また、引き金を引く。


 放たれた弾丸がカイナの腕に直撃した。


「なっ!?」


 信じられないと驚愕するカイナ。ふっ。腕は超一流だろうが、心理戦はまだまだだな。


「四番バッターをナメるな」


 銃口から出る煙をフッと吹き、朧を腰に戻した。

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