第529話 前ふりか?

 なにかくずれコンビから否定された。


「なにが違うんだよ? 正真正銘、アマテラスは世界樹だぞ」


 ちゃんと同じ種を蒔き、唯一芽を咲かせたのがアマテラスなんだからな。


「いや、世界樹が人化するなんて初耳だよ!」


「あたしら花人族にも世界樹なんていないし!」


「だが、こうしているじゃねーか」


 事実にちゃんと目を向けろよ。お前らの方が非現実的な生き物なんだからよ。


「いや、そうだけど、もうそれ、マンドラゴラだよ」


「違うとはわかってるけど、反論できないくらい見た目はマンドラゴラなのよね、それ」


「あんなのと一緒にすんなよ。アマテラスの方が百倍も可愛いだろうが」


 マンドラゴラなんて人の形してるってだけだろうが。


「……また、新たな衝撃が出た。マンドラゴラ、魔族が住む土地のものなんだけど。知ってるの?」


「ああ。その魔族からもらったからな」


 正確に言うなら交換したんだがよ。


「……魔族にも会ってたんだ……」


「この村、もしかして世界の中心かなにかなの?」


 だったら、とっくに発展してるわ。


「……それで、その魔族って、何族なの?」


「吸血鬼だな。確か名前は……なんだっけ? カーでもなく、ルーでもなく、あうわ~って感じだったな」


「たぶん、ベーのことだからかすってもいないわね」


「ベーに名を聞くほうが悪いよ」


 失敬な。顔は覚えてるんだからイイだろう。


「そのうち来るだろうから、そんとき紹介するよ。オレと同じ薬師で、年に何回か材料調達に来るからよ」


 吸血鬼界では結構名が知れた――かどうかは知らんが、薬に関してはオババ以上。つーか、万能薬とか作っちゃうマッドな薬師だ。


「……ほんと、ベーの顔の広さは呆れるよ。ベーの知り合いを辿って行けば会えない人いないんじゃないの?」


「大げさな。十一年しか生きてねーのに、そんなことできるわけねーだろうが」


「まったく説得力がないね」


「ないわね」


「…………」


 自分の出会い運を考えたらできんじゃね? と思わくはないので、くずれコンビから目を反らした。


「――それより、だ。島の方、頼むぜ。サイズとかは任せるが、肥沃な土地にしてくれよ」


「わかった。その辺は任せてよ。ただ、おれもやることあるから一月くらい時間もらうよ」


「ああ。カイナのペースでイイよ。小人族の方もいろいろあるからな」


 人選とか組織作りとかあるだろうし、一月くらいがちょうどイイだろうよ。


「チャコたちもありがとうな。これは礼だ。カイナーズホームで好きなもん買ってくれや」


 ポケットから百万円の束を四束出してチャコに渡した。


「日本札? カイナーズホーム?」


「あれ? あ、チャコたちには言ってなかったな。港にホームセンターがあんだよ。まあ、ホームセンターってレベルじゃねーがよ」


 あれをホームセンターと言ってイイのか謎だが、代わりになる言葉がねーんだからしょうがねーわ。


「……名前から言って、カイナのお店でしょうけど、なんとも際どい名前をつけるわね……」


「いい名でしょう?」


「まあ、嫌いじゃないわね。と言うかシャレが利いてて最高よ。フフ。なにかお店に行くのワクワクしてきたわ」


「チャコの期待は裏切らないよ。そーだ。なんならこれあげる」


 と、カイナがどこからかカードを一枚出現させた。なんです、それ?


「カイナーズホームのプレミアムメンバーズカード。これにチャージすると全品三割引きになるから」


 そんなもんまであんのかよ、あの店。つーか、メンバーズって言えるほど買い物客がいんのかよ?


「もらっちゃっていいの?」


「構わないよ。お客さんは多いほうが働いてる人らも喜ぶからさ」


 だったらあんなところに造んなや。客を拒絶してるとしか思えねーよ。


「なら、トータたちも誘って行きましょうか。カナコ。二人を呼んできて。あたし、カイナと相談あるからさ」


「わかったわ」


 見た目はツンツンしたカナコさんとやらだが、結構素直なところがあんだな。いやよ、自分で行きなさいよとか言いそうなのに。


「おれに相談? なんなの?」


 オレには関係なさそうなので、持っていたアマテラスを元の場所に置き、食堂へと向かった。ちなみに勇者ちゃんもついて来てます。


「村人さん。ボク、お腹すいた」


「なら、オヤツにするか」


 食堂に入ると、サプルのお料理教室はまだ続いており、テーブルには生徒が作っただろう料理が並んでいた。


 どうやらサプルは、実戦で覚えさせる派らしく、皮剥きとか皿洗いとかはしないよーだ。


「サプル。腹減ったからこれ食ってイイか?」


「うん、イイよ。あ、そこのパンケーキを食べてよ。まだこれからいっぱい作るからさ」


 サプルの指差す方向に、パンケーキの山があった。


「……ず、随分、作ったな……」


 いや、作り過ぎだよ。お昼にはなかったじゃん。どんだけ作ってんのさ!?


「うん。やっぱりパンケーキは早く覚えてもらいたいし」


 なぜかはあえて聞きませんが、覚えるまでは作るんですね。わかりました。


「なら、もらってもイイか。パンケーキ、もうねーからよ」


 ここでなんとかせねばしばらくパンケーキが続く。さすがに朝昼晩とパンケーキは泣くぞ。飽きるわ!


「うん。いっぱい持っててイイよ。明日も作るから」


「あ、うん。それはなによりだな。ほら、勇者ちゃん。いっぱいあるからお食べ」


「うん、いただきまーす!」


 その強敵に勝ってくれ、オレの勇者よ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る