第523話 本命

「なあ、ベー。お前、王になる気はあるか?」


「普通にねーな」


 殿様に客間みたいなところに通され、ソファーに座るなりそんなこと言ってきたので、即座に返した。


「どうしたい。急に?」


 弱音など吐くような殿様じゃなかったのによ。


「いや、己の才能のなさにつくづく思い知らされよ。やってもやっても問題が増えるばかりだ」


「統治なんてそんなもんさ。問題がねー方が問題だよ。藩主だった頃も問題なんてあったろう」


 問題のない統治なんて夢物語。王なんて奴隷より酷い職業だ、やりたいと思う方がどうかしてるわ。


「そうなんだがな……」


 肩を落とす殿様。余程大変なんだな。


「まあ、早く誰かに任せて隠居するんだな。じゃないと大切な人生を仕事に持っていかれんぞ」


 まあ、仕事が好きって言うなら止めはせんがな。


「まったく、息子に恵まれながらも後継者には恵まれん。お前みたいな息子が欲しいよ」


「ワリーな。オレにはもう立派な親父殿がいるんで、殿様の息子にはなってやれんよ。これでも一応、跡取り息子なんでな」


 なにを継ぐかは知らんけどな。


「羨まし……くはないか。お前の父親など早死にするか胃に穴が開くかのどちらかだわ。よくお前の親になろうとしたな。マジ尊敬するわ」


「……人を問題児のように言うなや。オレは孝行息子だぞ」


 失敬な。オレは親を敬い、親を大切にする男だわ。


「問題だらけだろう。このメンバーで家に帰ってこられたら我なら確実に泣くぞ。意味わからんわ!」


 いやまあ、確かにオレも意味はわからんが、うちではあっさりしたメンバーだ……と思いたいです……。


「わたしも入ってるとか不本意なんだけど」


 オレの頭によりかかるメルヘン。同じサイズなんだから止めろや。うっとうしいわ。


「我が言うセリフではないが、お前は種族に関係なく仲よくなるよな。偏見とかないのか?」


「こうして話ができるんだ、偏見なんて持つ必要なんてねーだろうよ」


 いろんな言語はあるが、ハルヤール将軍からもらった自動翻訳の魔道具でこうして会話ができてる(ちなみに持ってるだけでも翻訳はしてくれるし、声の届く範囲内にいれば他の人にも作用します)。だったら話し合ったほうが早く相手を理解できるってもんだろう。


「……そう言えるお前の精神が羨ましいよ……」


「真似をしたいのなら遠慮なく真似したらイイさ。これからいろんな種族と話し合うんだからな」


 その含みに殿様の顔が藩主の、いや、指導者の顔となった。


 ……オレから言わせれば殿様は正真正銘、偉大な王だよ……。


 本題に入る前に収納鞄からコーヒー牛乳とお菓子を出し、つまんなそうな顔をしている勇者ちゃんの前に出した。


「これでも食ってろ」


「うん!」


 喜ぶ勇者ちゃん。あ、女騎士さんにもありますからね。


「……えーと、突っ込んだほうがいいのか?」


 別空間になってしまった二人を見て問うてくる殿様。ここは、ノーサンキューでお願いします。


「あ、まあ、で、だ。なんだったかな?」


「未来のお話だ」


 殿様には葡萄酒を出し、オレはいつものコーヒー。プリッつあんは……適当に自分で出して飲んでます。ドレミは勇者ちゃんの膝の上で丸くなって寝てます。


 ……つーか、こいつがスライムだと言うことを忘れそうになるな……。


「相変わらず下界の酒は旨いな」


 いやそれ、カイナが出したもので、この世界の酒じゃないですけどね。まあ、訂正するのもメンドクセーのでスルーさせていただきます。


「なら、下界と貿易してみるかい?」


 葡萄酒を飲む手が止まった。


「……どう言う意味だ?」


 オレの表情や思考を読もうとしたが、すぐに降参して率直に聞いてきた。


「すぐそこに世界貿易ギルドがある。興味があるんなら覗いてみな。あと、輸送船って何隻ある?」


「輸送船、か? すぐに動かせるのは三隻だ。積んでいるものを下ろせば八隻まで用意できる」


 八隻か。まあ、最初としては充分か。


「なら、その八隻を八日後まで飛び立てるように準備しててくれ。あと、護衛用の船を六隻くらい。人選は任せるが、殿様の代理、いや、全権代理者を用意してくれ。港を造るからその技術者、作業員、世話人、まあ、船に乗せれるくらいで構わん。どうだい?」


 思考の海にダイビングする殿様。こう言うところがスゲーんだよな、この殿様はよ……。


 しばらくして思考の海から上がった殿様は、入り口に立つ近衛兵に文官を呼ぶように伝えた。


「それとな、自前の飛空船団を立ち上げたいんだが、船員がいなくて困ってんだわ。誰か紹介してくんてくんねかな? もちろん、巨大化してもらうんで、イイってヤツを頼むぜ」


 さすがに小人サイズの飛空船では大量輸送ができねーからな。


「あとこれは、お知らせと言うか相談なんだが、今、異種族国家を創っててよ、国防を担う戦闘集団を募集してんだわ。どっかに空を守る集団がいたら紹介してくれや。厚待遇で迎えるからよ」


 ニヤリと笑ってみせると、心底呆れた顔をする殿様。そこは、ニヤリと返すとこだぜ。


「……一度、お前の父親に会ってみたいよ。よくこんなのを息子にしようと思ったものだ……」


「まあ、いつでも来な。歓迎するぜ」


 うちはいつでもウエルカムさ。


「ベー。今日は泊まっていけ。まずは我が歓迎する。否とは言わせんぞ」


「言わねーよ。アレを食いに来たのが本命だからな」


 食糧や船員募集などついで。ダメならダメで気にしねー雑事だ。


「誰かある! 宴を用意しろ!」


 フフ。空魚の甘酢餡掛け、空魚の刺身、空魚の唐揚げ。思い出すだけでヨダレが出るぜ。じゅるり。 

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