第506話 はい?
「――とは言え、だ。冒険者ギルドのギルド長が直々に現れ、こうして不手際を認めたんだ、意固地に突っぱねるのもみっともねー。しょうがねーから妥協してやるよ」
ヤレヤレだぜと肩を竦めてみせた。
年の功からか顔には出さねーギルド長だが、その張り付けたような笑顔が感情を表しているようなもの。そこは、無理にでも笑いながら一本取られたわ、ぐらい言うとこだぜ。でなきゃ反撃にも転じられんぞ、じーさんよ。
まあ、その甘さはこちらの好都合。忠告なんてしてやらんがな。
「んで、ここで話すかい? オレは別に構わんがよ」
「……では、こちらに来てもらえるかの」
「あいよ。フェリエ、カラエル。ワリーがちょっと待っててくれや」
「わかったわ」
「わかったよ」
冒険者のこいつらには口出しすることはできない。が、冒険者じゃないオレには関係ねー。利用できるものは例え国王だって使うのがオレの主義主張。
「あ、待ってる間、好きなもんでも頼んで食ってろ。もちろん、ギルド長のおごりでな」
ニヤリとギルド長を見る。
「……容赦がないガキだ。わかった。わしのおごりだ、好きなものを頼め」
「ギルド長の豪気なお言葉だ、旅の旅費を節約するためにたくさん頼め。収納鞄にはまだ大量の空きがあるんだからよ」
「なっ!?」
驚くギルド長に構わず先に動いた。
ギルド長にはワリーが、フェリエの勉強のために教材となってもらおう。こーゆー駆け引きもフェリエには身につけて欲しいからな。
「おら。客を先にいかしてどーすんだ。早く案内しろや。それとも酒場の食材をそんなに空にしたいのか?」
まあ、それならそれでありがたくいただくがな。
「ったく! このクソガキが! こっちだ!」
ほんと、ダメだな、ここのギルド長は。こんな三文芝居に引っ掛かるとか、それでよくギルド長なんてやってんな。まあ、その方がこちらはやり易いがよ。
で、案内されたのはギルド長の部屋らしきとこ。なんか書斎って感じだな。
「座れ」
もはや取り繕うともしねーギルド長に苦笑し、言われた通り質素なソファーに腰を下ろした。
向かえのソファーにギルド長が座り、なにか皮羊紙を置いた。
「バリアルのギルド長は、客に茶も出さねーのかい?」
ギルド長の歯がギリっと鳴ったが、その感情を口には出さず、ソファーを立ち上がると部屋を出ていった。
盗聴とかまるで考えてねーのだろう。怒鳴るギルド長の声がだだ漏れである。他人事ながらここの冒険者ギルドの職員に同情するよ。
ギルド長が部屋に戻り、ドカっとソファーに座る。しばらくして女の職員が茶を持ってきた。
「ボア茶か。しけてんな、バリアルの冒険者ギルドは」
ボソっと。だが、ちゃんと聞こえるように呟いた。
ボア茶はハーブの一種で、独特のある味がするんだが、そんなに人気のある茶ではなく、貧乏人の茶として流通してると以前、聞いたことがある。
「……嫌なら飲むな」
「いい加減にしろよ。こっちは来てやってる立場。そっちは来てもらってる立場。それがおもしろくねーってんなら最初から呼ぶな。これ以上の妥協はしねーぞ」
こちらにも思惑があるとは言え、そんな態度にいつまでも寛容でいられるほどオレは人間できちゃいねーぞ。
……ってまあ、そう言う方向に仕向けてんですけどね……。
「…………」
ギルド長としての義務と自分の矜持が心の中で激しく戦っているんだろう、なんとも苦渋な顔をしている。まあ、ガンバレ。
ボア茶はそんなに好きじゃねーが、出されたものら食う主義。旨くねーなと思いながらも飲み干した。
「……お前に頼みがある」
と、いつのまにか決着ついたようで、ギルド長の義務を優先させたようだ。ただ、口調は矜持が勝ったようだが。
「頼み、ね」
小バカにしたように反応して見せた。
イラっとするギルド長。もはや隠すこともしなくなったかい。
まあ、こんなガキにコケにされたら怒りたくもなるだろうが、それにしたって態度を露にし過ぎだろう。こんなガキだからこそ、その違和感に気付くべきなのに、なんでそう感情のままに素を出せるかね?
見た感じからそれほどバカとは思えねーし、それなりの人生経験が垣間見れる。冷静に、疑いの目を持て接すれば挑発されてるとわかるはずなんだがな……。
「で、その依頼とは?」
その内容まではさすがにわからねー。なんで、こっからはアドリブ。冷静に思考を働かせろだ。
「勇者の生活改善をしてもらいたい」
……はい?
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