第507話 イイ取引

 勇者? って、うちの村の勇者ちゃんか?


「話が見えねーんだが?」


 なんで勇者ちゃんの話がこのバリアルで出て来んだよ。王都でならまだ理解できるがよ……。


「そもそも、なぜオレに言う? いや、つーか、随分と優秀な情報力を持ってんじゃねーか。オレの情報だだ漏れかよ」


 まあ、個人情報保護法なんてある時代でもねー。それなりの力があったら個人の情報などすぐに手に入れられるし、冒険者ギルドはデカい組織。情報収集の専門がいたとしても不思議じゃねーわな。


「それがギルド力よ」


 なにやら勝ち誇ったような顔をするギルド長。まるで悪気はねーようだ。いや、あるわけねーか。表面しか見えねーアホには。


「まあ、別にイイけどな。オレもいろいろ情報収集してるし」


 実を言うと、タケルに頼んでバリアルの街の住人の情報を収集している。


 さすがアニメに出てきた潜水艦。そして、エリナが創り出したSF飛行機。僅か三日で六割近い住人の情報収集を済ましている。


 まあ、『これがアニメとSFの力よ』とか言えねーし、こちらは反則を通り越して明らかな不法行為。もう、オレの方が悪党だよね。


 訝るギルド長に心の中で誠心誠意、ざまーみろ。オレを敵にしたことを後悔しやがれ、だ。


「で、なぜオレに言うんだ?」


「お前が今回の騒動の原因だろう。責任を取れ」


 その短い内容に含まれた重要事項の多いこと。つーか、言ってイイのか、そんなこと?


「……最初は依頼で、次は責任、ね」


 ふ~んと、ギルド長を軽く睨んだ。


「イイのかい。独断で変えたりして?」


 ギルド長の顔に緊張が走った。


「…………」


「一都市のギルド長に指示なり甘言なりする相手ともなれば、王都のギルド、それも上位にいる者だろう。さすがにギルド総長とかだったら目も当てられんが、じーさんの顔からしてそれはなさそうだな。となれば、派閥か抜け駆けか、はたまた足の引っ張り合いか、まあ、なんであろうとオレには関係ねーこと。ご勝手に、だ」


 ギルド総長には面識はねーが、情報屋から仕入れた情報によれば海千山千一癖も二癖もあるやり手だとのこと。そんなギルド総長がこんなお粗末なことはしないだろう。だが、それを許した時点でギルド総長の失態だ。利用しねー手はない。


「いや、さすが宰相様のお目にかかるだけはある。感服いたした!」


 と、なにやら態度が一変した。


「失礼した。わしは自分の見たものしか信じない質でしてな、試させてもらった」


「そうかい。なら、オレも試させてもらうよ。この状況をどうおさめるかをな」


 その早変わりは見事だし、それが真実ならアッパレと賞賛してやるよ。だが、オレの情報を持っているのに試すことが既にアウト。対応を間違えたってことだ。


「あ、いや、た、試したことは謝ろう。君のことを知りたくてやってしまったのだよ」


「そうかい。それで知れたのならなにより。オレもじーさんのこと知りたくなったからじーさんの実力を見せてくれや」


 そんな返しに口をパクパクさせるギルド長。それを底が浅いって言うんだよ。


「なんて、無駄な時間を費やすほど暇じゃねー。なぜオレに依頼を出すんだ? 国とギルドの仕切りでやってるって話だろう。って聞くのも無駄か。どうせ安く済ませて黒幕の手柄にしたい、ってところだろう」


 まあ、それはオレの適当な勘だが、どうせ、ことの真相は、それぐらいのアホな理由だろうよ。


「で、依頼の報酬は?」


「……金貨五枚だ……」


「笑い話にもなんねーな」


 バッサリと斬ってやる。


 金貨五枚。D級村人なら大金だろうし、軽く三年は不自由ない暮らしをできるが、S級村人たるオレにはジャリ銭でしかねー。


 しかも、生活改善の費用はこちらに出させる腹なんだろう。どこまでもおちょくってくれるぜ。


「本当にオレを調べたのか? お粗末にもほどがあるだろう。それともなにか? じーさんを貶めるために偽情報でもつかまされたのか?」


 もうアホ過ぎてわからんよ、ほんと。


「まあ、イイ。そっちの事情だ。オレには関係ねー。そっちで解決しな」


 付き合いきれんわ。


「ま、待ってくれ! これまでの非礼は詫びる。頭も下げる。どうか依頼を受けてくれんか」


「最終的に泣き落としか? ふざけんなよ。依頼を受けてもらいたいならそれなりのものを出すんだな。もっとも、そんな奇特なヤツがいるんなら、だがな」


 対価のことを一切話さず、己の利だけを優先させる。オレオレ詐欺より質ワリーわ。


「では、どうしろと言うのだ!」


「ダメなら逆ギレかよ。だがまあ、ことと次第によっちゃー受けてやらんでもねーぜ」


 そんなオレの笑みに警戒を露にするギルド長。そーゆーことできんなら最初からしろだ。


「な、なんなのだ?」


「なに、簡単なことさ。ボブラ村冒険者ギルド所属のフェリエをオレ専属の冒険者であることを冒険者ギルドが正式に認め、フェリエへの指名依頼はオレの許可を必要とする契約を交わしている。ってことになっていることにしてくれたら依頼はタダでイイし、あんたの、いや、あんたらの手柄にしても構わない。ただし、ギルドの総意で認められたこと。オレとギルドの間で契約書を交わすこと。もし、できることならそれを帝国のギルドにも流して欲しい。どうだい?」


 オレの仕入れた情報が正しいのなら難しくはねーはずだ。


 まあ、ギルドの上位の者が協力してくれたら、だがよ。


 考えに入ったギルド長だが、答えはすぐに出たようだ。


「それだけなのか?」


「それだけだ。あ、このことはオレたちだけの秘密にしてくれると助かるな」


 ニタリと笑ってみせた。


 秘密にして欲しいのはギルド長の方。それを敢えて言い、同類と思わせる。


「……よかろう。それで手を打とう」


「それはなにより。では、イイ取引ができたってことで」


 と、握手を求めると、渋い顔ながらも直ぐに手を握ってきた。


「ああ。これで最後にしたいもんだがな」


 さて。それは今後の状況次第。帝国が動いたらまたイイ取引させてもらうがな。ケッケッケッ。

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