第505話 ギルド長

 昼食後、お茶を飲みながらおしゃべりしてたら午後の鐘がなった。


 誰が鐘(時間)の管理してんだろう?


 とか頭の隅で思ったが、オレの時間とは流れが違うからどうでもイイやと、直ぐに頭から消し去った。


「フェリエ様、カラエル様、指名依頼が入っております。カウンターまでお越しください」


 そんな声が上がった。


「呼び出しされるんだ」


 さすが都会の冒険者ギルド。進んでるぅ~。ってまあ、なにが進んでるかはオレにもわからんが、村のアットホームな感じとは全然違うんだな。


「じゃあ、いってくるわ」


 そう言ってフェリエやカラエルたちがカウンターへと向かった。


 どのくらい時間がかかるかわからんが、待つことにそれほど忌避はなく、今生は何時間でも待てる。コーヒーがあるなら何日でも待てる自信があるね。


 ん~マン〇――。


「――兄貴!」


 心地好い一時に浸ろうかと思ったら、カラエルの叫びで強制終了させられた。なんだい、いったい?


「カリガさんが呼んでるぜ」


「カリガさん? って、誰だよ」


 まあ、知ってる人だったらゴメンナサイだが。


「あ、受付の人だよ。あの髪の長い女の人」


 カラエルの指差す方向に、二十代前半と思わしき人族のねーちゃんがいた。


 客観的に見て、美人の分類に余裕で入りそうだが、どうもその自分の魅力を知り尽くし、利用している雰囲気が見て取れて眉をしかめた。


 まあ、それがワリーとは言わねーが、なるべくなら近寄りたくねー存在だな。


 とは言え、こちらの不備があったかもしんねー。用があんならそっちが来いとも言えんだろう。


「なんか不備でもあったかい?」


「いえ。ボブラ村のビベルファクフィニー様ですね」


「正しくはヴィベルファクフィニーだが、言い辛いならベーでイイよ」


 やっぱ、オレの名は難しいようでこの受け付け孃には言えんよーだ。


「し、失礼いたしました。では、ベー様。申し訳ありませんが、ギルド長がお話しがあるとのことです。二階にお越しくださいませ」


「オレには話はねーから却下だ」


「はぁ?」


 ハトが豆鉄砲くらった顔をする受付嬢に構わず酒場へと戻った。


 席へと戻り、今度こそん~マン〇――。


「――ベー様!」


 と、今度は受付嬢に強制終了させられた。なんだよ、まったく!


「うるせーな。公共の場では静かにするもんだと習わねーのか、バリアルの冒険者ギルドの受付嬢はよ」


 依頼館(?)の職員は優秀だったのに、本館の職員は教育がいき届いてねーな。


「ベー様、困ります。ギルド長のお呼びですよ」


 その言い方に思わず「はぁ?」と眉を寄せてしまった。


「冒険者ギルドを利用させてもらってるが、オレは冒険者じゃねー。ギルド長に応える義務もなけりゃあ義理もねー。用があんならそっちから来やがれ」


 ったく。何様だ? 呼んだから来ると思ってんじゃねーぞ。


「ベー様。ここはわたしに免じて来ていただけませんか?」


 なにやらオレの手を両手でつかみ、その色香を撒き散らしながらニッコリ笑う受付嬢に、オレは冷笑を返した。


「ねーちゃん。本当にイイ女ってのは、そんな安い色香なんて散らつかせねーし、相手を尊重するもんだ。ましてやガキ相手に、そんなクソったれなことなんぞ絶対にしねー。もうちょっと相手を見抜けるようになるんだな」


 姉御のようになれとは、無茶ぶりもイイとこだが、せめて姉御の半分くらいの有能さは見せて欲しいもんだぜ。


 余裕をなくした受け付け嬢に構わずマンダ〇タイム。あーコーヒーうめー!


「……なにを考えてるの……?」


 付き合いが長いせいか、ブラックべーが降臨してきたのを感じたフェリエがジト目を向けてきた。


「ふふ。そう言う裏が読めるようになったのは嬉しいが、そこから先はまだまだだな」


 まあ、フェリエにわかれと言うほうが酷か。いろいろ秘密にしてるもんな。


「またそうやってはぐらかす」


「真実を見たいなら人を知れ。裏の裏を考えろ。海千山千こけおどし。嘘八百虚偽無双。酸いも甘いも噛み分けるってな、己の希望を叶えたいなら誠心誠意すら武器にしろ。相手より狡猾に、残忍に、容赦なく、相手の弱みを踏みにじれ。敵はそうしてくるぞ」


 綺麗事が通じるなんて希だ。だいたいが理不尽で、強い者が、覇者となる。


 ……まあ、だからこそ躊躇しなくてイイんだがよ……。


 しばらくして、オレらのとこらに白髪頭の、小さいじーさんが現れた。


「相席、イイかのぅ?」


「他の席をあたりな。こっちは満杯なんでな」


 事実、四人用のテーブルと六人用のテーブルには座れるスペースはねー。じーさんを迎える隙間はねーんだよ。


「それは手厳しいのぉ。じゃが、ものは考えてから言いなされ」


「じーさんこそ考えてからしゃべれよ。下手な脅しはそちらの不都合にしかならねーぜ。まあ、もう減点二十。信頼度も急降下してるがな」


 オレの中ではもはやこのじーさんは敵だ。敵に譲歩はしねーぜ、オレはよ。


「……ほっほ。こりゃ礼儀に欠けたことには詫びるよ」


「詫びなんていらねーよ。話すこともねーしな」


 そうにべもなく突き放した。


「こりゃ厄介じゃわい。なら、どうしたら聞いてくれるかのぉ?」


「そんなもん、そっちで考えな。オレが考えることじゃねーよ」


 それはそちらの不手際。こっちの不手際じゃねーよ。

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