第504話 依頼再び

 なんと表現して言いかわからんが、謎の飛行ユニットなるものと合体したプリトラスがボブラ村へと旅立った。


 オレの後ろでは、院長さんらやチビっ子どもが感動の別れを見せてるのだが、あれを見て泣けるとか、オレには無理。もうなんの茶番だと叫びてーよ。


「……いったか……」


 叫びてーのは叫びてーが、空気が読める者としては必死に我慢。この空気に適した言葉を紡ぎ出した。


「……はい……」


 そんなオレとは違い、感動の場面に身を投じながら現実を忘れない院長さんが応えた。


 ……院長さん、あんたはスゲーよ……。


「そんじゃ、オレらはいくな」


「はい。ありがとうございました」


 あっさりしたもんだが、すぐに来ることは昨日のうちに告げている。こんなもんで充分さ。


「カラエルたち、乗ってくか?」


 プリトラスとメルヘン機がいなくなったので、荷台が空いている。五人なら充分乗ってけるので尋ねてみた。


「そうだな。馬車なんて乗ったことねーし、いい機会だから乗ってくか?」


「ああ、乗ろうぜ。ちょっとこの馬車に乗ってみたかったんだ」


「あたしも。馬車なんて滅多に乗れないもんね」


 と言うので皆を乗せて冒険者ギルドへと出発した。あ、フェリエは後ろにいるよ。


 で、なんの問題もなく冒険者ギルドに到着。って、そー言や、馬車を停めるとこあったっけ?


「馬車ならあっちに停められるぜ」


 カラエルの指示に従い馬車を移動させると、冒険者ギルドの裏に馬車専用の広場があった。なんだいここ?


「隊商の人らが依頼をしに来たときや獲物の運び入れに使ったりするところさ」


 ほーん。そんなところがあるんだ。初めて知ったよ。


 まあ、それほど利用される場所ではないようで、一、二台しか停まってなかった。


「んじゃ、依頼を出してくるよ。フェリエたちはどうする?」


 村以外での依頼は二回しかしてねーからよくわからんが、依頼についてくることもできるん?


「わたしたちは、本館にいるわ。指名依頼なら直ぐに受けることができるから。その場合は本館にいるからすぐに出してくれと言うのよ」


「ほーん。そんなことできんだ。もっと役所のようにお堅いかと思ったぜ」


「村人のクセに役所を知ってるとかは、もう疑問に思うだけ無駄ね。早く済ませてきなさい」


 フェリエのスルー力がレベルアップしました~。


 なんて心中で呟きながら冒険者ギルドの依頼館(?)に入ると、以前来たときのように犬耳のねーちゃんが受け付けにいた。


 前に来たとき、ここでもできるとか言ってたので、フェリエとカラエルたちの依頼をここで済ませた。あ、本館にいることも伝えねーと。


「はい、わかりました。では、午後一番に出しますね」


 今、十一時ちょっと過ぎ。午後を告げる鐘は……何時だ? まあ、昼食とお茶をしてりゃ直ぐか。


「あいよ。んじゃ、頼むわ」


 受領印をもらい、依頼館(?)を出る。えーと、本館はあっちだっけか?


 看板を頼りに本館へと向かい、ちょっと傷が目立つ扉を開けて中へと入る。


 ……やっぱデカイ街の冒険者ギルドは違うな……。


 冒険者はさほどいねーが、受け付けカウンターが四つもあることからして冒険者の数は結構いそうだな。


「兄貴、こっちだ」


 と、カラエルの声に振り向くと、奥に酒場らしきスペースがあった。


 ……酒場なんてあるんだ。騒動とか大丈夫なんかい……?


「こっちも人がいねーんだな?」


 開けてもらった席に座り、疑問に思ったことを口にした。


「そりゃ、昼にいる冒険者はいねーよ。いるのは街での依頼か情報収集、もしくは掘り出し物狙いさ」


「ほ~ん。なかなか通なこと言うじゃねーの」


「そりゃ兄貴に叩き込まれたからな、情報は武器であり身を守る鎧だってな」


 それを恥とは思わず、ちゃんと受け止めて実行してることに笑みが溢れた。


「ふふ。成長著しいこった。フェリエ、負けんなよ」


 叩き込んだ数はフェリエのほうが多い。が、努力し、身にしているのはカラエルらの方だ。才能に胡座をかいてたら追い抜かれるぜ。


「わかってるわよ」


 ぷいと横を向くフェリエ。それがカラエルらに負けてる理由なんだがな……。


「まあ、人それぞれの成長速度だ、比べるのもワリーか」


 フェリエは、どちらかと言えば天才型だが、精神的に弱いところがある。カラエルらのように苦労してねーから、ちょっと躓きで心が乱れる。それさえ克服できたら、ぐんぐん伸びていくと思うんだがな。


「んじゃ、依頼が出されるまでなんか食って待つとするか。オレが奢るから好きなの頼めや」


 厨房らしきものがあんだから、なんか作ってくれんだろう?


「おれ、昨日のが食いたいぜ!」


 カラエルの言葉に四人が目をキラキラさせて頷いた。


「昨日、いっぱい食ったろう」


 最後は数えてなかったが、一人四十枚は食ったはずだ。あんだけ食えば飽きんだろうよ。


「昨日は腹一杯で食えなかったが、もっと食いてーよ」


 四人も同意の頷きをする。


「まあ、お前らがそれでイイのなら構わんけどよ」


 パンケーキはまだあるし、油断すると直ぐに増える(たぶん、料理人育成に大量に作られると思う)から食ってくれんなら助かるってもんだ。


 人数分の皿を出し、それぞれに十枚ずつ盛ってやり、ハチミツやらジャム、あと羊乳を出してやった。


「フェリエはどうする?」


 多分、フェリエもパンケーキには飽き飽きしてるはずだ。


「わたしは、注文するわ。サプルの料理ばかりじゃ舌が肥えちゃうからね」


「ふふ。わかってきたじゃねーか」


 冒険者である以上、粗食に慣れてなくちゃやってられん商売だ。舌が肥えるとか拷問以外なにものではねーぜ。


 常日頃から実践してるオレもお勧めを注文して昼食を取った。


 ちなみに頭の上の住人さんは、サプル特製の野菜シチューに焼き立てパン。そして、よく冷えた白ワインときたもんだ。


 ……このメルヘン、ぜってーキリギリス派だな……。

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