第491話 ハイハイ
朝、いつもの時間、いつものように自然と目覚めた。
が、目の前が真っ暗。どーゆーこったいと、瞼を瞬かせたらなにかに当たる感じがした。
なんだと手を伸ばすと、生温かい……って、プリッつあんか。驚かすなよ、まったく。
人の瞼を覆うように寝ているプリッつあんをわしっとつかんで枕の上に置いた。
「ったく。猫か」
ちゃんとプリッつあん用のベッドがあり、オレが寝る前に自分のベッドに入ってるのに、たまに人の顔の上にくんだよな、このメルヘンは。
寝間着用の服から普段着に着替えていると、プリッつあんが目覚めた。
「ベー、おはよ~」
「おう、おはよーさん」
軽く挨拶を交わして着替えを続け、収納鞄とガンベルトを装着する。
え、いつもしてたの? とか誰からも突っ込みが入らないので、顔を洗うために部屋を出ようとすると、着替えたプリッつあんがオレの頭に着地した。
なんだいいったい? とは思ったが、それを口にはせず、そのまま部屋を出た。
一階に下りようと階段の手すりに手をかけたとき、見知った結界を感じ取った。
……この結界マーク、あのねーちゃんらか……。
やはり感づかれたかと、驚きながらもあのねーちゃんなら当然かと納得しながら一階へと下りた。
「おはようございます、ベーさま!」
孤児院出の女の子がカウンターから挨拶してくれた。
「おう、おはよーさん。カウンターにも立ってたんだな」
そーゆーのは女将さんの仕事とばかり思ってたよ。
「まだ見習いですけど、ベーさまのお陰で任されてます」
「そりゃお前さんの努力が実っただけ。オレには関係ねーよ」
軽く流して外の水場へと向かう。
「よっ、おはよーさん」
「おう、おはよーさん」
金髪アフロのねーちゃんの軽い挨拶に、こちらも軽く挨拶を返した。
「ふふ。やっぱり驚かないんだね」
「いや、驚いたぜ。やっぱA級の冒険者は油断できねーってな」
正直言って誤魔化せたと思ってたんだが、あちらも悟られないように動いていたよーだ。まったく、腹芸はそちらが上のようだぜ。
……まあ、女の鋭さに勝てるわけもねーがよ……。
「それはこっちのセリフさ。いったいあんたはどんな千里眼を持ってんのさ。しかも、その年とは思えないほどの演技力。これまでの経験がなかったら違和感にも気付かなかったさ」
「自慢じゃねーが、結構心を抑える術には自信があったんだが、どこに違和感があったんだい?」
いや、心を抑えるなんて自慢にもならねーが、前世の記憶と経験を受け継いでしまったからにはしょうがねーもの。なら、遠慮なく利用しろ、だ。
「あんたの全てが違和感さ。だがまあ、なにか隠してる……いや、触れないようにしてるのは見ててわかったよ。腹に一物あるやつがよくやる手口だからね」
フフ。そりゃ参った。オレもまだまだ青いぜ。
「逆に聞きたいよ。なぜあたしらが、と思ったんだい?」
ん? なんか今、躱わされたぞ?
「……別に。たんなる勘さ。これでも勘がイイんでな」
本当に躱わされたと感じたのは勘でしかねーが、言ったようにオレの勘ピューターは高性能。それを信じてこちらも躱わして答えた。
「……そうかい。それは恐ろしい勘だね……」
あちらも躱わされたと感じたらしく、微妙な間が生まれた。
もしかして、ねーちゃんらは、まだフェリエが目的の人物か確信してねーんじゃね?
もしそうだとしたら、これは揺さぶり。確信を得るための確認、か?
あぶねーあぶねー。もう少して足を掬われるとこだったぜ。やっぱこの金髪アフロのねーちゃんは油断できねーぜ。
「まあ、なんでもイイさ。んじゃな」
金髪アフロのねーちゃんの射るような視線に構わず通り過ぎ、水場で顔を洗い始めた。
「……ほんと、クソじじいどもより厄介な坊やだよ……」
たぶん、本音が漏れたんだろうが、それはあえてスルーした。無駄な反応は相手にヒントを与えるようなもんだからな。
「というか、それなんだい?」
「ん? なにがだい?」
「いや、そこで当然のように顔を……ん? あれ? え!?」
金髪アフロのねーちゃんの視線を追う先にあるのは、プリッつあんだが、これと言って不思議なものはねー。なに驚いてんだ?
「いやいや、なんで首を傾げられるんだか意味わからないよ! なんだいそれ!?」
プリッつあんを指差しながら叫ぶ金髪アフロのねーちゃん。メルヘンがそんなに珍しいのか?
「うるさいわね。あ、ベー。お湯をお願い」
「ハイハイ、わかりましたよお姫さま」
朝風呂が習慣となったメルヘンのために湯船(サプル作)に魔術でお湯を注いでやった。
「ちょっと熱い」
「ハイハイ」
もはや文句を言うのもメンドクセーので、言われた通りに水を足してやった。
「ベー、壁」
「ハイハイ」
結界で壁を創ってやる。
「ベー、ちゃんと見張っててよ」
「ハイハイ」
もーなんでもどーぞ、だ。
「……ほんと、なんなの、あんたら……」
村人とメルヘンですが、なにか?
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