第492話 S級の村人
さて、プリッつあんが一っ風呂浴びてる間にオレも一汗流すか。
ズボンの左右のポケットから殺戮阿吽を取り出し、二刀流でスイングする。
今日は殺戮技が一つ、殺戮フルボッコの練習だ。
架空敵を想像して殺戮阿吽で無双する。オラ、ボッコボコじゃ!
「ふ~。百匹はやったな」
「なんの敵を倒したんだよ?」
「今回はオーガだな」
金髪アフロのねーちゃんの突っ込みに、マジで返した。
まあ、オーガが百匹もいたら殲滅ノックのほうが早いが、体を動かすこともやっておかねーと、いざってときに力が尽きるからな。
「……それ、どんな村人だい……?」
「ふっ。オレはS級の村人だからな、オーガの百匹なんて敵じゃねーよ」
「いや、S級の村人ってなんだい? そんな階級があるなんて初めて聞いたよ! つーか、村人に階級つけてどーすんだよ!」
「なんだい、帝国の冒険者は村人ギルドを知らねーのか?」
アハハ。おっくれてる~。
「知らないよ! あんのかい、そんなの!」
「あるよ。まあ、発足者、オレ。ギルド長、オレ。メンバー、オレ。他、随時募集中だがな」
「それ、完全にあんたの妄言だよ!」
「失敬な。なにごとも最初は一人。ただ、理解者がいねーだけだ」
「いる方がびっくりだよ! つーか、なにをどう理解すんだよ、村人に!」
やれやれ。これだから村人のよさをわからん凡人は参るぜ。
「村人は税さえちゃんと払ってりゃあとは自由だ。嫌な上司もいなけりゃ貴族のような面倒な柵もねー。まあ、多少の人付き合いはあるが、それは生きる上で必要なこと。それができねーでは村人失格だ。自分の歩幅で自分の判断で歩ける。商売しても商業ギルドにピンはねされることもなけりゃ魔物が出たからと冒険者ギルドに強制参加されることもねー。自由気儘、は言いすぎかもしんねーが、力と金とコネがあれば大抵のことはできる。こんな素晴らしい立場ねーだろうが」
まあ、その力と金とコネが問題だろうと突っ込まれそうだが、だからこそS級。最強の称号である。
「…………」
唖然とも茫然と取れぬ金髪アフロのねーちゃんに構わず、殺戮フルボッコを続け、オーガ二百匹を倒した。
「ベー、上がる~」
「あー、ハイハイ」
殺戮阿吽をポケットに戻し、バスタオルを結界内に入れてやる。
「ベー、いいわよ」
「あいよ」
結界を解くと、バスローブを着たプリッつあんが現れた。
軽く突っ込みどころが二十はあったが、スルー拳二倍も出せば気にもならんわ。
「ベー、暖かい風」
「ハイハイ」
魔術で髪を乾かしてやる。
……今度、親方に頼んでドライヤー創ってもらおう……。
髪が乾くと、あとは自分でやるようで、収納鞄から三面鏡やらタンスやらを出して、オシャレタイムに入った。
んじゃ、オレはシャワーでも浴びるか。
シャワー室を出し、服を脱いで中へと入った。
「ふ~。すっきりさっぱりした~」
やっぱ、動いたあとのシャワーは気持ちイイぜ。
「ん? ねーちゃん、まだいたのかい?」
暇なのか?
「……いや、まだなにも始まっちゃいないんだけどね……」
なに怒ってんだ、金髪アフロのねーちゃんは?
「その素で首を傾げられるあんたの神経は確かにS級だよ」
「なんだい、いったい? オレの神経にも脆いところはあるぞ」
特に女からの殺気にはガラスのハートだぜ。
「もう、いい。単刀直入に聞く。金髪の娘はどこだい?」
「オレの目の前にいるぜ、とびっきりのべっぴんさんが」
金髪アフロのねーちゃんから、凄まじい殺気が放たれる。どうやら村人ジョークは通じないようだ。
確かに女の殺気にはガラスのハートだが、金髪アフロのねーちゃんから放たれる殺気は純粋な殺気。
例えるなら『ふふ。ベー。ちょっと裏に来なさい』が女の殺気とすれば、金髪アフロのねーちゃんの殺気は『おら、ちょっと金貸せや』的なもの。あの股間がキュッとする笑顔に比べたらこんな睨み、春風にも匹敵する心地好さだわ。
……思い出しただけでもおしっこチビりそうだぜ……。
「しゃべる気はなし、ってことかい?」
「逆に聞くが、なにをしゃべれって言うんだい? オレはなにについてしゃべれとも言われてねーんだがな?」
まあ、オレの想像通りなら言えんわな。それは、秘密中の秘密であり、隠密で行動しなければならないこと。それ故のねーちゃんらだ。ましてや、オレ相手に迂闊なことは言えんわな。そっちが探っているように、オレも探っている。その些細なヒント次第で今後の展開が違ってくるんだからよ。
「――これは、キャッチボールを付き合ってくれた礼の代に言っておく。下手な脅しは止めておけ。言った時点で宣戦布告と受け取る。オレは敵には容赦はしねーし、慈悲も与えねー。やるんなら徹底的にやる。逃しはしねーぞ」
金髪アフロのねーちゃんのことは嫌いじゃねー。どちらかと言えば、好きな方だ。
だが、敵となるなら話は別だ。オレやオレの家族に危害を加えようってんならオレは鬼にも修羅にもなんぞ。だから、間違えんな。そのためのヒントなら与えただろう。
「もう一度言う。オレは敵に容赦はしねーし、慈悲も与えねー。ねーちゃん。あんたはオレの敵になるかい?」
「いや、まだどちらにもならないよ。だが、敵にはなりたくないから、ここは尻尾巻いて退散するよ」
殺気がウソのように霧散し、不敵で不遜な笑みを浮かべた。
「そうかい。やっぱスゲーねーちゃんだ」
「フフ。S級の村人にそう言われたら光栄だね。んじゃね」
「おう。またな」
あっさりと立ち去る金髪アフロのねーちゃんに、こちらもあっさりと返した。
まったく、厄介なねーちゃんだぜ。
「ベー、終わったよ~」
頭の上に着地したプリッつあんを連れて、部屋へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます