第489話 スルー拳二十倍!

 夕食後、食休みしてからプリトラスへと向かった。


 ちなみに、プリトラスは荷車台の上。小さな城が載ってるはずなんだが、なぜかない。どーゆーこと?


「ところで、ベーさん。プリッシュはどうしたんです?」


 なにやらジト目なタケルくん。なんなの、それ?


「プリッつあんなら……あれ? そー言や、なんで孤児院にいたんだ?」


 オレたちはコユキとライゼンに跨がって孤児院にいったはずだし、プリトラスは宿に置いてきた。なのにプリッつあんがいたとはこれいかに?


 ……誰も突っ込みしてくれないから気がつかんかったよ……。


「ベーさん、プリッシュのこと放置し過ぎじゃないですか?」


 なんか非難の目を向けてきやがった。


「いや、放置されてんのオレだから。つーか、別にプリッつあんの飼い主って訳じゃねーんだから、束縛する必要もねーだろうが」


 共存ってなんだろう? と言う問いにまだ答えは見いだせてねーが、お互い違う意思の持ち主。ならばその意思を尊重するまで。好きにしろ、だ。


「え、いや、そうなんですけど、なんかプリッシュの扱いが雑に見えるから……」


「まあ、雑には扱ってるな。プリッつあん、なんか頑丈だからよ」


 体もそうだが、精神も意外とタフネス。なんで、雑に扱ってます。


「……なんと言うか、不思議な関係ですよね、ベーさんとプリッシュって……」


「つまり、似た者同士なんでしょう。お互い自由人だし」


 なぜかついてきたフェリエさんが纏めた。あ、ついでに猫耳ねーちゃんもいますよ。


「そ、そうだね。プリッシュもベーさんのところで生き生きしてるし」


 なにやら失礼なことを言われてるよーな気もしねーではないが、自由人なのは確かなのでスルーです。


「それより、プリトラスはどこいったんだ?」


 孤児院にもいなかったぞ。


「迎えついでに補給しにいったんじゃないですか?」


「補給?」


 なにやら不思議な単語が出てきましたよ。


「水がないって言ってたから、どこかの泉にでも汲みにいったんじゃないですか? あ、帰って来たみたいですね」


 と、なぜか空を見るタケル。釣られて見たら、なんか形状し難いものが光を放ちながら降下して来るのが目に映った。


「…………」


 どう言葉にしてイイかわからんので、目でタケルに問うた。なんじゃありゃ?


「ああ、乙型機動ユニット、シュトラスだそうです。まあ、所謂飛行ユニットですね」


 ごめん。なんか当たり前のように言ってますが、オレにはなにがなんだチンプンカンプンです。


 形状し難いものが地上に着地しそうなところで飛行機みたいなものにトランスフォーム。人型のなんかを分離させた。


「カイナさんも趣味人ですよね」


 あのアホ野郎の作か。いや、こんなことするの、あのアホ野郎しかいねーんだが、お前もなに趣味人で納得してんだよ! もうなんかいろいろ過ぎて大爆笑だわ!


「お帰り~」


 つーか、なに普通に対応しちゃってんのフェリエさん!? ここはびっくりしておしっこチビっちゃう場面でしょーよ! なに当然のように受け入れちゃってんのさ!


 ……なんだろう。オレの世界が音を立てて崩れていくような感じなんですが……。


 人型になってるプリトラスと会話する家族たちが、なんか遠くに見えて、疎外感がハンパなかった。


 遠退きそうな意識を必死に堪えてるオレをよそに、人型プリトラスは荷車台へと上がり、なにかいろいろな法則を無視して城へと変形した。


 全力全開、スルー拳二十倍を発動ッ!


 それでも心がポキっと折れそうだが、今が決戦のとき。堪えるだ、オレ!


 って、いやもう、自分でなにしてるかわからんし、わかりたくもないが、誰でもイイからオレにスルー力をわけてくれ! 状態。


 ほんともう、この世は理不尽だらけだぜ、こん畜生がよっ!

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