第482話 未来へ

 しばらくして副院長さんに連れられて四人がやって来た。


 一月ちょっとなのでそれぞれに変化と言う変化はない。が、奉公に出る覚悟、いや、認識は把握している顔つきに見えた。


「ワリーな、来るのが遅くなって」


「あ、いえ、そんなことないです!」


 この中では一番社交性が高い小太りの少年が反応した。


「そうかい。そう言ってもらえると助かるよ。ありがとな」


 そんなオレの返しにオドオドする。これも変化はねーか。


「まずは、料理人としての働き口からいこうか」


 小太り少年とマッスル少女に目を向けた。


 ハイ、この二人の名前なんでしたっけー?


 なんて心の叫びなど誰にも届かないだろうから、視線を二人に向けた。


 視線の意味はわからないだろうが、どちらも空気は読めたらしく、ちょっと背筋を伸ばした。


「お前たち二人が働く船の船長を紹介する。タケル」


 タケルの背中を押し、一歩前に出させた。


「え、あ、イ六〇〇改、嵐山らんざんの船長、タケル・バンドウです。よろしくお願いします」


 威厳もなにもあったもんじゃねーが、それは今さらだ。未来にこうご期待ってことにしよう。


「あなたたち。ご挨拶しなさい」


 副院長さんの促しに、小太りの少年がお辞儀した。


「ぼ、ぼくは、サダンです。よ、よろしくお願い致します!」


 きっと練習させられたんだろう、いたるところにぎこちなさがあった。


「あ、あたいは、マーブ。いえ、マーブです! よろしくお願い致します!」


 こちらも練習はしたが、緊張で段取りを忘れっちまったよーだが、以前のマッスル少女と比べたら奇跡のような成長だろうて。


「タケル。この二人がお前の船の料理人となる。見ての通りの年齢で、料理は素人以下。生き残る術も持ってねーが、先を考えたらこの年齢からがイイだろう。前にも言った通り、一月はサプルに面倒みてもらうが、そのあとは潜水艦で育ってもらう。地上と違って海での調理だ、いろいろ勝手も違うだろう。習うより慣れろでやってけ。一応、サプルに乗船してもらってフォローはしてもらうからよ。まあ、その辺のことは後々だ。なにが起こるかわからんしよ」


 予定は未定な我が人生。臨機応変に、だ。


 タケルの説明はこのくらいにして、二人へと視線を移す。


「お前たちも、タケルの若さに驚いているようだが、お前たちの雇い主なことに違いはねー。絶対服従しろとは言わねーが、タケルの命令がなによりも優先されることは覚えておけ。イイな?」


 その辺はカーチェにお任せだが、仲介者としてのけじめはつけておかねーとな。


「は、はい!」


「はい……」


 まだ、反射的に返事してるに過ぎないが、自分の立場は理解しているようだがら、今はそれでよしとしよう。


「今回は船長しか連れて来てねーから、商人組は村に行ってから雇い主を紹介するよ。出発の予定は三日後の朝に予定はしてるが、ちょっと伸びるかもしれん。なんで、いつでも出発できる用意はしててくれや」


 四人を見回すと、わかりましたと返事した。


「ほんじゃ四人に準備金を渡す」


 とのオレのセリフに、四人はキョトンとした。


 それに構わず、左端にいる顔に傷がある幼女に銀貨一枚と銅貨三枚を渡した。


 意味がわからず、目を丸くするが、構わず次の狐の獣人の少年にも同じく渡し、小太り少年、マッスル少女へと続けた。


「それで生活に必要なものを買い揃えろ。あ、衣服類はこちらで用意するからそれ以外な」


 つーか多分、コーリンたちがなんか作ってると思うし、してなきゃカイナーズホームで買い揃えるだろう。それぞれの雇い主が。どちらもカイナーズホームを利用することに躊躇いもねーからな。


 だったら他もカイナーズホームで揃えろよと言われそうだが、金の使い方を学ばすためにそう言っているのだ。どちらの常識も知っててもらいてーからよ。


 ……カイナーズホームを当たり前にしたら、きっとダメな大人になると思う……。


「なにを買おうがそれぞれの自由だ。使わないのもまた自由。必要不必要を自分で考えろ。お前たちの働き場は、常に考え、常に決断を求められるところ。それが嫌だと言うなら、その金をおいてこの場から去れ」


 こんな子供に無茶ぶりもイイところだが、それがこの世であり、不合理である。やらねば進めないのならやるしかない。それがこの世で生きるってことなんだからな。


 誰も金をおかないことに満足の頷きをする。


「では、用意にかかれ」


 四人の少年少女たちが頷き、未来に向かって進み出した。

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