第481話 本題へ
「ちょっと話が変わるが、領主から使者か連絡はきてるかい?」
さりげなく出された茶に手を伸ばし、一口飲んだ。
「領主様から、ですか?」
と、言うからにはまだ来てないってことか。反応が遅い……いや、内部でもめてるのかな?
「ここに来る途中で領主夫人が襲われててな、偶然通りかかったオレらが助けたんだわ。その流れでここの話をして、興味を持っていた感じだからなんか反応があるんじゃないかと思ってな」
まあ、反応なしはないだろうから、そのうち来んだろう。
「……領主夫人が、なぜ、ここを?」
もっともな質問をしてくる院長さん。
補助金のようなものは出てるが、そんなものは雀の涙だし、領主自ら率先して出しているわけじゃねー。領内統治の問題からと外聞を抑えるためにしてること。知っているほうがどうかしてる。
実際、領主夫人は、パニア修道院のことなんかまったく知らなかった。それだけで関心がないどころか、意識にもないってことがわかるってもんだわ。
「オレが関係してるからだろうな。さる高貴な方の使いで来たと言ったからよ」
それで無反応だったら、ここの領主は終わってる。もはや統治能力なしとして取り潰されろ、だ。
「高貴な方の使い、ですか?」
「この国の大公より自由裁量権を公式にいただいているからな、それ以下の地位のヤツらは戦々恐々さ」
まあ、絶対な力はねーし、乱用はできんが、いざとなれば伯爵でも裁ける。それだけの力があるのだ。
「…………」
唖然とする院長さん以下、修道院の皆様。世間知らずじゃなくてなによりです。
「何度も言うが、オレ自身に権力はねーし、貴族……あ、いや、貴族の子にはなっちまったが、高貴とはほど遠い村人であることには変わりはねー。敬意は素直にいただくが、敬いはいらねーよ」
思惑と打算で動いている身としては、敬われると、なけなしの良心が痛むんだよ。いやマジで。
「まあなんだ。ハイそうですかとはなんねーのはよくわかる。だがら、無理に変えろとも言わん。だが、これだけは理解してくれ。オレはオレのために生きて、院長さんらを利用している。そこに嘘偽りはねー」
なんて言ったところで、院長さんには正しくは伝わってねーし、客観的に見ても説得力がねーのはわかってる。オレだって同じことをされたら、このツンデレ野郎がと突っ込んでるわ。
「はい。肝に銘じておきます」
微笑ましい眼差しに肩を竦めるが、それ以上はなにも言わない。そう思うのならそれを利用するまでだ。
「――ともかくだ。領主からなんか来たら待たせるなり、オレに連絡するなりしてくれ。一応、バリアルの街にいるのは今日を混ぜて四日はいる計画してるからよ」
せっかくバリアルの街に来たんだし、ジャックのおっちゃんのとこや、買い物もしたい。特に今の時期はプライットと言う、里芋に似た粘りけのある芋が収穫される。これは芋餅としてオヤツや保存食として冒険者によく売れるのだ。
修道院に収納箱を置き、以前、市などで知り合った生産者に、ここへと運んで来てもらってはいるが、プライットはいくらあっても困らねー。あればあるだけ買ってきてーんだよ。
「あ、農家から運ばれて来る野菜とかの代金、まだ足りてるかい?」
寄付とは別に支払い用の金も渡しているんだよ。
「そうですね。だいたい半分と言ったところでしょうか?」
少し首を傾げながらそう言う院長さん。文字と計算の勉強のために記録は取らせているのだ。
「半分か。結構残ってんだな」
自分の中ではそろそろ使い切ってる計算なんだが。
「一月で銀貨三百枚も買うとか、もうそれだけで異常です」
冷静に、いや、冷静にならなくても異常ですね。ハイ。
「ま、まあ、それはそれ。あれはこれ。オレにも事情があったりなかったりと、いろいろあんだわ。ナハハ」
まったく説明になってませんが、突っ込んだらやーよ。ここはスルーしてくれる慈悲をぷりーずデス。
「おほん。溜まったぶんは今回もらって行くとして、引き続き売りに来たら買ってくれや。あ、これ代金の補充ね」
収納鞄から銀貨千枚入った小箱を出して院長さんへと渡した。
ちなみにこの小箱を開けられるのは院長さんのみに設定しており、それ以外の者が開けようとしたら結界で身を封じて動けなくなりますんでご注意を。
「……わかりました。お預かり致します」
素直に受け取ってくれる院長さんにマジ感謝です。あと、そこ。諦めたの間違いじゃね? とかの突っ込みはノーサンキューだぜい。
「さて。いろいろ脇道に反れっちまったが、本題と行こうか。四人はいるかい?」
そう言って表情を引き締めた。こればっかりは真面目にやらんといかんしな。
「はい。おります。サナ。呼んで来てください」
「畏まりました」
と、副院長さんが返事をした。つーか、副院長さんの名前、サナって言ったんだ。初めて……知ったよね?
前に聞いたような聞かなかったような、まあ、オレの中では副院長さんになってんだからイイか。
なんてことを考えながら四人が来るのを待った。
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