第453話 最後の役目
村長宅から帰って来ると、珍しいことに全員が揃っていた。
え? 今まで揃ってなかったんかい! とか突っ込まれそうだが、トータがいなかったり、メルヘンズがいなかったり、モコモコガールがいなかったり、タケル……は毎日帰って来てるか。カーチェも潜水艦の勉強のためにいたりいなかったりする。
まあ、オレが一番いないんだけどねっ。
「あ、あんちゃんお帰り」
台所で残像を見せていたサプルが真っ先にオレたちの帰宅に気がつき、疲れなどぶっ飛ぶくらいの笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。ん、今日は魚か?」
ブタ肉が焼かれる匂いが漂っている毎日だったので、直ぐにこの匂いに気が付いたのだ。
「うん。隣のあんちゃんが人魚からいっぱいもらったから、久しぶりに魚料理でもと思ってね。あ、あんちゃんの好きなバリエの刺身もあるよ」
バリエか。そりゃ楽しみだ。
「バリエって、あの海にいる魚か?」
「ん? ザンバリーのおっちゃんは食ったことなかったっけ?」
以前、出したような気がするんだが。
「いや、ここで食ったことはあるが、サシミとはどんな料理なんだ?」
あ、出したときはバリエのステーキだったっけ。
「生のバリエを切ったものさ。絶品だぜ」
「生で食うのか? 大丈夫なのかよ?」
生で食う文化はないとは言え、冒険者なら生で食う状況もあるんじゃねーの?
「そりゃ、最終手段だ。生で食ったら腹を壊して最悪死ぬわ」
そんな疑問を口にしたらそう返ってきた。
まあ、こんな不衛生な時代じゃしゃーねーか。そもそも保存が目的。干すか燻すかのどちらかだしな。
「百聞は一見にしかず。薬師のオレがザンバリーのおっちゃんの腹を守ってやるから食ってみな」
生で食って食中毒になったヤツなら何人も診てる。充分経験を積んだから安心して食えや。
「なんの安心にもならん説明だな」
家へとあがりいつもの席へとついた。
夕食ができるまでの間、ザンバリーのおっちゃんやカーチェが晩酌へと入り、タケルやモコモコガールは飢えた野獣のごとく料理ができるのを待っている。オカンは晩酌組にツマミを運んだり注いだりしてる。
メルヘンズは、パソコンの前でなんかを見て、トータとチャコは、なんか謎の道具をいじっていた。
下戸なオレは、ただ静かに夕食が整うまで待っている。
他から見たらなにが楽しいんだと思われそうだが、家族の会話や光景を見てるだけでも結構楽しいし、時間を忘れるもんだぜ。
「お待たせ~」
夕食ができ、一人で作ったとは思えねーくらいの料理が床に並べられる。
元々は囲炉裏の枠の上に置かれていたんだが、人数が人数なので床に置くようになり、全ての料理に手が届くようにと皿の枚数が多くなってしまったためなのだ。
前にも言ったが、オレは少食だ。前世のもので例えるなら、回転寿司で五皿も食えば充分ってくらいだ。まあ、ガンバレば十皿は行けるが、しばらくは動けないだろうよ。
「ほぉう。旨いな、バリエのサシミ」
サシミを食ったザンバリーのおっちゃんが感嘆の声を上げた。
「だろう。部位でも味が違うし、炙ったり焼いたり煮たりしても旨いときてる。バリエは万能食材なんだぜ」
サシミを醤油で食う。あとワサビも少々。
「バリエ、ウメ~!」
マグロで言えば大トロの部分。前世じゃ一年に一回、回転寿司で食えたら贅沢だったのに、今生では皿に山盛り。当たり前に出ている。
まったくもって最高の人生である。
「……うっ。食いすぎた……」
調子に乗って十切れも食ってしまった。今生のオレの胃、なんでこんなに小さいんだよ……。
「相変わらず少食だな、ベーは。そんなんだから小さいんだぞ」
別に背丈にコンプレックスも興味もねーが、もうちょっと食えるようにはなりてーな。こんな食の遅れた中で前世以上の旨い料理が並んでんのによ……。
まだ皆が食っている中、コーヒーで胃を落ち着かせる。
腹が落ち着く頃、我が家の夕食が終わった。
皆の腹が落ち着く頃、コーヒーカップを床に置く。
「皆、ちょっとイイか?」
寛いでいる皆の視線をこちらに集める。
「明後日、オカンとザンバリーのおっちゃんの結婚式をやる。だから、明日は荷物を外に出して家を片付ける。式の用意は山の女衆がやってくれるから各自、寝床を確保してくれ。あと、ザンバリーのおっちゃんは、結婚式まで港に行ってろ。結婚式の朝までくんな。カーチェ。見張り頼むな」
「お任せあれ」
オレの意図はわからなくても察してはくれるカーチェさん。ワリーな。
「オカンは、トアラのところな。トアラには言ってあるからよ」
「わかったよ」
「サプル。料理は頼むな」
「うん。お任せあれ。美味しいのいっぱい作るよ!」
「タケルは……好きにやってろ。あと、モコモコガールもな」
二人にはなんも期待してねー。つーか、邪魔しねーように港にいってろ。サプルが作ったもんを食われるのも困るしよ。
「んじゃ、ごちそうさまでした」
家長としての最後の役目を終わらした。
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