第451話 村長宅へ

 つーか、オレ、上等な服なんか持ってねーよ!


 なぜ上等な服を、なんてこと思ったのか我ながら謎だが、ねーもんはねー。なんで、いつもの格好でいくことにした。


「オカン。村長のところいって来るわ」


 オカンには、なぜいくかは伝えてあるので説明は省いた。


「あたしもいかなくて本当にイイのかい?」


 前世の感覚なら二人揃ってご挨拶だが、ここじゃ男の仕事。夫となるための儀式みてーなもんなのだ。


「オカンはオカンの仕事をしろ。ザンバリーのおっちゃんに恥をかかせねーように祝い客をもてなせばイイんだよ」


 村の結婚式なんて二人並んで村のもんに結婚することを宣言し、祝いに来てくれた客に食事を提供するのが一般的だ。


 まあ、結婚できんのは家を継げる者だけであり、次男以下の結婚なんてできたら奇蹟。その奇蹟が起こっても家の労働力として、死ぬまで家に縛られるのだ。


 それが村での暮らしであり、否定できねー現実である。


 それが嫌なら、なんて言ってるようでは田舎暮らしどころか、この世界では生きて行けねーぜ。善く悪くもここは弱肉強食な世界。強い者(&慣わし)が法なんだからな。


「あと、荷物の整理もしててくれよ。結婚式で披露すっからよ」


「それはだいたい終わってるよ。元々荷物は少ないしね」


 質素な我が家。無駄なものはないので、整理なんて半日もかからんか。各自に収納鞄や箱を渡してるしな。


「あいよ。なら、いって来るわ」


 そう言って外に出て、馬車の用意をする。


「どうするんですか、それ?」


 銃いじりをしていたカーチェがやって来て、荷台に載っている酒樽に首を傾げていた。


「祝い品だよ」


「祝い品? なんです、それ?」


 カーチェ――いや、エルフにはねー習慣だったな。


「エルフの結婚式がどんなもんか知らねーが、人の世界、まあ、この近辺では、結婚するときに村長や村の者に結婚することを認めてもらうために酒を渡すんだよ」


「結婚する方が渡すんですか? 普通、かどうかは知りませんが、帝国方面では結婚する者らに祝いの品を贈ってましたよ?」


 前世の感覚ではそっちにしっくりくるが、今生では渡すほうがここら辺の常識。それを否定して変えようとは思わねーんで、それに従っているんだよ。


「まあ、地域によって様々さ。ここでは、酒を皆に振る舞う。それで村の一員となれんのさ」


「そんなものですか……」


 こればかりはわかれと言う方が悪いので、『そんなもんなんだよ』と応えておいた。


「上等な葡萄酒の香りがしますね」


「今晩出すから手を出すんじゃねーぞ」


 のんべいではねーが、拘りを持つ男、カーチェ。イイ酒しか飲まねーんだよな、このインテリエルフはよ。


 カーチェを追い払い、オークの肉も保存庫からそっと持ち出し、空いてるところに詰めていく。


 角猪の肉がやっと減ったと思ったら、エリナのところから大量のオーク肉が流れてきて、毎日のようにブタ肉が食卓に並ぶ。


 もうほんと、カンベンしてくださいよと言いてーが、それを言わないと主義主張してるので、心の中での呟きにとどめておいているが、そろそろ限界なので村のもんに処理してもらおう。


 ……なんで出されたものはありがたくちゃんと食うとか決めちゃったかね、オレ……。


 裕福ならではの贅沢な悩みとはわかってはいるが、人間なんてそんなもの。だから、ブタ肉をそっと処理をするあんちゃんを許せ、マイシスターよ。


「ワリー。待たせたか?」


 すっきりさっぱり、上等な服――騎士を思わせる格好で現れた。


「いや、ド田舎時間じゃ瞬きするほどの時間だよ。にしても、随分と立派な服だな。どこで着るんだ、そんなもん?」


 そんなもんを着るとか、どんな冒険者だよ?


「A級ともなれば貴族、それも高位の者からの依頼が多くなるし、王宮に喚ばれることもある。何着か持ってないと成り立たないんだよ」


「ふ~ん。大変なんだな、A級ともなるとよ」


 基本、冒険譚にしか興味がねーんで、貴族との関わりなんて知らんのよね、オレって。


「まーな。自由気ままにとはいかんのさ。強くなるとよ」


 肩を竦めるはものの、そう悲嘆したり皮肉ったりしないところを見ると、それほど苦ではなかったようだ。そーゆーとこは素直にスゲーと思うわ。


「そんで、なにしにいくんだ?」


 結婚の慣わしなんて人生で関わり合うことがなかったんだろうとはわかってはいたが、エルフのカーチェより知らねーとかダメだろうよ。


 リファエルを歩き出させ、カーチェにした話を、わかるように説明してやった。


「……結婚っていろいろあるんだな……」


「そうだな。だがまあ、それも人生の一つだ。オカンを喜ばすためのイベント――催しだと思え。結婚式なんて女が主役。男は添え物。女のためにやるもんだからな」


 あくまでもオレの主観であり、結婚式なんて羞恥プレーとしか思わねー古くさい男の言い訳さ。


「身も蓋もないな……」


「身も蓋もあるものにするために、これから村長のところにいくんだよ」


 村長宅につくまで、流れの説明と段取りを覚えさせた。

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