第445話 空中港
「もう少し! もう少しだけ見させてください!」
そう叫ぶ博士ドクターを早々に見切り、飛空船ドックへと舞い戻った。
「どこいってたんだい!」
戻って来ていきなりカブキねーちゃんに怒鳴られた。
「買い物だよ。寸法を買いにな」
「はあ? 寸法? なに言ってるの?」
チンプンカンプンなカブキねーちゃんはほっといて、桟橋に巻き尺を引き、十メートルごとに買ってきたペンキで印をつけていく。
「なにしてるんだい?」
「デカくするときの目印だな。ほれ」
収納鞄から五メートルのスケール(メジャー)を渡した。
「なにこれ?」
「これから……そうか。名前、なかったな、ここ」
一種、陽当たり山は無法地帯になってるが、博士ドクターに渡したここは、世界貿易ギルドともエリナのテリトリーとも違う。謂わば第三勢力地帯。名前がないのも不便だな。
「よし。ここは、世界技術研究ギルド。最新の技術が集うところだ。イイな、カブキねーちゃん」
「いや、突然過ぎて意味がわからないんだけど?」
「だから、ここの名前だよ。名前ねーと不便だろう?」
「その名前を完全無視して見た目で名を変革するお主が言うセリフではないのぉ」
ハイ、世界の雑音など我には聞こえぬわ!
「世界技術研究ギルド、ね。まあ、名がないのは不便だけど、世界技術研究ギルドって名前なのかい?」
お。確かに。名前と言うよりは名称だな。
「じゃあ、カブキ研究所で」
「却下!」
悪即斬ばりに否定されてしまった。イイ名だと思うのに……。
「なら、アマラヴィ研究所でよいだろう。あの男は、名前を持ちたがらないからな」
「ならそれで」
「……軽いね、あんたは……」
名前なんてわかればイイもの。まあ、オレは研究所と短縮させてもらうがな。
「まあ、それでいいわ。で、これはなんなの?」
「それはスケール。またはメジャー。ところによりコンベックスと呼ばれるものや距離を測るものだ。今このときからメートル法を世界基準とする」
カイナーズホームの文房具売り場で見付けた単位表をカブキねーちゃんに渡した。
「……寸法、でしたか。なるほど、考えもしなかったけど、確かに世界基準……同一意識は必要ね。異種族が集まる場所だからこそ……」
さすが頭のできが凡人とは違う。たったそれだけで理解したよ。
「まあ、世界基準の普及はカブキねーちゃんに任せるとして、飛空船をデカくしたいんだが、大丈夫か?」
「え、ええ。と言うか、先生はどうしたのよ?」
「使い物にならないから置いて来た」
「はい? なんのことよ?」
「それは
まあ、無事生還できたら、の話だがな。
「それより、飛空船をデカくする話、進めてイイか? そろそろオカンとザンバリーのおっちゃんの結婚の話を進めなくちゃならんからよ」
ザンバリーのおっちゃんの受け入れ準備、村の連中におっちゃんの存在を認識させる期間はもう充分だろうし、サリネに頼んだものもできた。タケルの方もそろそろイイころだ。
片付けられるものはパッパと片付けて結婚式に集中しねーとな。
「まあ、よくわからないけど、飛空船を大きくしてくれれば問題ないわ」
と言うので、先程出した旗艦を人サイズに巨大化させた。
「わかっちゃいたが、やっぱデカいな」
百メートルを超す巨大飛空船。ファンタジーじゃなきゃ反則だよな、こんなふざけたものなんて……。
「ほんで、どうやって出すんだ、これ? 小人族をデカくすんのか?」
近くにガリバーな結界トンネルの存在は感じねーがよ。
「誘導員、お願い」
と、ゲージにいるドワーフな小人族の整備長さんに言うと、頷いた整備長が手を上げた。
なんだと見てると、外から武装してない竜機が二十数機が飛空船ドックへと入って来た。
編隊飛行で入って来た竜機がわかれ、旗艦を囲んだ。
それぞれからアンカーが打ち出され、飛空船のフックにかけると、タグボートのように外へと引っ張っていった。
「次、一番から順に来るからお願いね」
「あいよ」
そう答えて順番に入って来る飛空船をデカくしていった。
小人族の手際のよさで三十分もしないで終了した。
「じゃあ、いきましょうか」
と、カブキのねーちゃんがどこかへと歩き出した。
どこへと聞くのは愚問なので、そのあとに続いた。で、来たのは陽当たり山の頂上。見慣れた展望台だった。
「………」
「……これはまた、壮大な光景さね……」
なんと言うか、まさに空中港。ご隠居さんの言う通り、壮大な光景であった。
「これにも名前をつけてくれるかしら?」
カブキねーちゃんの悪戯っぽい笑みに、肩を竦めた。
「空中港。それしかねーだろう」
単純明快。俗な名前など無粋だぜ。この壮大さにはな。
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