第446話 プロキオン

 しばしの間、この壮大な光景に見惚れていたが、メルヘン機の編隊飛行で我に返った。


「……久々にファンタジーなもん見っちまったぜ……」


 いやまあ、ファンタジーな光景は毎日のように見てんだが、珍生物系より大自然系の方が壮大で、つい我を忘れっちまうわ。


「あれが小人族の住むところか。結構長く生きとるが、初めて見たさね」


「シャンバラ、小人族が住むところはもっと壮大な光景だぜ。まさに別世界だ」


 あれこそまさにファンタジー。今回以上に我を忘れて見惚れたぜ。


「それを知るベーが世界で一番壮大なんだろうな……」


「なんだいそれ。オレはちっぽけで、弱っちーただの人だぜ」


 三つの能力や外付け能力があろうと人は人。人以上のものにはなれねー。勘違いして人生台無しにしたくねーわ。


「この世で一番恐ろしくて厄介なのは、強大な力を持ちながら自分を弱いと言う奴さね」


 なにやら昔の恥を語るように、苦々しく言うご隠居さん。


「なんか嫌な思い出もあんのかい?」


 その顔からして前に言われたって口だな。


「まあ、長く生きてるといろいろあるさね」


 それに触れてくるなと、ご隠居さんの顔が言っているので、それ以上の追及は止めておいた。


「そんで、飛空船には乗れんのかい?」


 空気を読んで黙っていたカブキねーちゃんに問うた。


「ええ。乗れるけど、まずは食糧を渡してやってくれない。催促がうるさいのよ」


 と、カブキねーちゃんがアゴでなにかを差した。


 なんぞやと見れば、都市島から六隻の輸送船のような飛空船がこちらに向かって来るのが見えた。


 ……ふ~ん。輸送船もあんだ……。


 そんなことに感心してると、輸送船が港へと接岸した。


 と言うか、今接岸したとこ小人サイズだよね。ってことは二種類あんのかい、この港は?


「左側は小人族専用だよ。まあ、特に意味はないんだけどね」


 次々と輸送船が接岸し、しばらくして乗組員がわらわらと出て来た。


「ん?」


 わらわらと出て来た中に、全身鎧を纏った集団――ドウ・ラン近衛隊がいることに気が付いた。


 結界望遠鏡を創り、覗いて見たら殿様がいた。


「働く殿様だ。ワリー。ちょっと待っててくれや」


 ダルマっちゃんらに言って港へと下りた。


 港まで道を整備してくれたので、難なく来れたが、小人族専用の港だけあって、港の入口までしか道はなかった。


 小さくなってもイイんだが、殿様たちがこっちへ向かってることだし、ここで待つとしよう。食糧を出す必要があるしな。


 道と港には四十センチくらいの段差があるので、腰を下ろして待つことにした。顔の位置がちょうど港の高さとなるんでな。


「ベー。よく来てくれた。さっそくで悪いが、食糧をもらえるか?」


「構わんよ。なんかあったのかい?」


 なにやら切羽詰まった感じが見て取れるが。


「恥ずかしい話だが、移住数に間違いがあってな、五千人ばかり増えてしまったのだ。しかも、シャンバラの工作員が紛れ込んでいたようで、食糧の二割をダメにされてしまった」


「そりゃ難儀だな。で、捕まえたのかい?」


「まだだ。だが、時間の問題だ。必ず捕まえる」


 どうやってと言わねーところをみると、ちょっと苦戦しているようだな。


「そうかい。まあ、そっちのことはそっちに任すさ。なら、万が一のときのために、こちらにも食糧をわけておくか。一番と二番倉庫に入れといてやる。都市島の分がなくなったら取りに来な」


 できる殿様にはそれで充分。オレを数秒見て頭を下げた。


「すまない。我々にできることがあるならいつでも言ってくれ。全力で応えよう」


「ああ。そんときは頼むよ」


 いろいろ働いてもらいてーからな。


 忙しい殿様のために無駄話は止め、収納鞄から食糧を出していく。


 量が量なだけに出すだけで一時間近くかかってしまった。


「ワリーが、こちらも予定があんでな、あとは頼むわ」


「ああ。わかった。落ち着いたら遊びに来い。都市島を案内したいしな」


「おう。楽しみにしてるよ」


 言ってカブキねーちゃんたちのもとへと戻った――ら、展望台には誰もおらず、貼り紙だけがあった。


「先にいってるか。まあ、その方が助かるか」


 若干の寂しさはあるが、そこはあえて考えない。


 でも、待ってぇ~! と全力で疾走で追いかけました。


「なにも全力で駆けて来ることないでしょうが」


「オレは結構寂しがり屋なんだよ!」


「なんの白状さね?」


 知るか。つい言っちまったんだよ!


「んで、どうすんだい?」


「……また変わり身の早い男さね……」


 人生常に急転直下。一秒一秒を真剣に生きろだぜい、ご隠居さんよ。


「適当にしてていいよ。操船はあたいがやるからさ」


 ちなみにオレらがいるのは船首甲板。船橋ではねーんだが?


「まあ、説明は省くけど、飛空船は魔力で操るか舵で操るかのどちらか。これは魔力で動かす型の飛空船なのさ」


 ざっくりした説明だが、オレにはそれで充分。飛空船にロマンはねーからな。


「それで、いき先はどこだい?」


「内陸に向かって飛んでくれ。方向は、こっちかな? しばらく行くと、小さな湖がある。そこに向かってくれや」


 地下都市の水源となるところ。まずはそこをダルマっちゃんらの拠点としよう。それに、協力者もいるしな。


「了解。あ、この船の名前はどうする?」


「名前、か」


 駿河、朝日、信濃、ん~、和名もイイけどカレーもね。じゃなくて、今回はカタカナで攻めてみるか。


「……プロキオン……」


 と、不意になんか出た。


「プロキオン、かい?」


「ああ。星の名前さ。どうだい?」


 まあ、前世での星だが、結構カッコイイ名前があるから、それからいただこう。


「いいんじゃないかい。なら、プロキオン、発進するよ!」


 カブキねーちゃんの声に、飛空船、プロキオンが発進した。

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