第444話 未来の知る人ぞ知る大商人

 なにこのプリン、やけに旨いじゃねーかよ! フードコーナーで出て来る味じゃねーだろう。もっとこう、なんだ、えーと、んーと、まっ、イイや。旨いってことだ。


「あープリン、うめ~!」


 キツネうどんで腹は満みたしてから三十分。未だに誰もこねーので、辺りを見回していたら、テーブルの上にメニューに気が付いた。


 なに気に見て見ると、デザートがズラリと並び、初デートで食べたプリンアラモードが目に入った。


「……まだ腹に余裕があるし、甘いもんでも食って待つか。ご隠居さん、なんか甘いもん食うかい?」


 一人で食うのもなんなので、ご隠居さんを誘ってみた。


「いや、わしは甘いものは苦手なんで遠慮するよ。いただけるならコーヒーを頼むさね」


「あいよ」


 と応えてプリンアラモードとコーヒーを頼み、ゆっくりじっくり味わってる訳さ。


「……にしても、誰も来ねーな?」


 博士ドクターは最初から諦めているとは言え、素朴そうなダルマっちゃんらがこねーとは思わんかったわ。


「まあ、不遇な境遇だったし、いろいろ物資が不足しておる。好きなだけ買わしてやってくれ。金はちゃんと払うんでな」


「別にご隠居さんからもらおうとは思わんよ。それに、オレがご隠居さんに頼んで、ダルマっちゃんらに来てもらったんだ、必要なものは好きなだけ買えばイイさ」


 十億円なんてもらってもオレに使い道はねー。つーか、十万もあれば充分。それで欲しいものは揃えられるわ。


「豪気じゃの、ベーは」


「オレは平々凡々に、悠々自適に、後悔のねー人生を送りたい小心者さ。過ぎたる金は災いのもと。金よ、幸福となりて世に満ちよ、さ」


「フフ。高貴な村人もいたもんじゃ」


 その皮肉に肩を竦め、プリンアラモードを口にする。


 ちょっと甘ったるくなった口ん中をコーヒー(フードコーナーで買ったもの)でもとに戻しながらまったりとした気分でプリンアラモードを楽しんでいると、なんか見慣れた人が通り過ぎた。


「ん? あんちゃん?」


 我が家の隣に引っ越して来た、元行商人だった。


「ん? あ、ベー! ここにいたのかよ。捜したじゃねーかよ!」


 怒ったと思ったら安心した顔になり、すぐに泣きそうな顔になって迫って来た。


「どうしたい? そんなに慌ててよ」


「どうしたじゃねーよ! なんだよ、ここ?」


「カイナーズホームだろう」


 ちゃんと看板に書いてあったろう。まあ、あえて無視はしたがよ。


「知らねーよ! なに当たり前に言ってんだ! こんなもん出されたらおれの店が潰れんだろうが!」


 店? あ、そー言やあったな、あんちゃんの店。すっかり忘れったわ。


「別にあんちゃんは、人魚相手の商売だろう。地上の商売なんてどうでもイイじゃねーか。人魚、地上に上がってこねーんだからよ。逆にここでものを仕入れて売るってくらいの気概を持てよ。世界貿易ギルドのギルドマスターさんよ」


 今なら独占状態。ライバルいねーんだ、儲けるときに儲けろよな。


「ここで使える金なんてねーよ」


 あ、そう言えば、換金所的なもん、なかったな。


「なら換金してやるよ。今、幾ら持ってんだ?」


 行商人の出からか、あんちゃんは全財産を常に持ち歩いてる。まあ、オレがやった収納鞄なら金貨千枚でも余裕だし、あんちゃんだけしか出せない設定にしてある。


 ……いやまあ、一番安全なところがそこなだけなんだかな……。


「え? あ、ちょっ、ちょっと待て。えーと、えーと、これで頼む!」


 収納鞄を漁り、革袋を四つ出してテーブルの上に置いた。


 サイズと音からして金貨。百枚ってとこか。


 四つだから八百万円。まあ、オレの適当な為替レートなので一千万くらいにしておくか。


「ほれ。たぶん、これで店の四分の一は買えんだろうさ」


 まあ、二階は含まれてねーがな。


 一千万じゃ戦車や戦闘機は買えんし、海の中で銃とかは使えん。ファンタジーな武具は博士ドクターから買う方がお得で発注元。付き合いを大事にすんなら二階にはいかんだろうしな。


「……いや、まあ、ベーのことはおれがよく知ってるが、ときどきお前についてけねーことがあるよ……」


「さすがベーの惚れ込んだ男さね。この非常識に飲まれんとは。ある意味、この男が凄いのかもな」


「そうだな。オレもスゲーと思うよ」


 もう何度となくこんなことをしてるのに、決して当たり前と思わず、こうして己を戒めている。


「……だが、ここは素直にもらっておくよ。まったく、借りばかり増えていくぜ……」


「それでこそ商人。この好機を見逃すな、だ」


 生真面目な商人なんて大成どころか破産しかしねーよ。商人失格だわ。商人なら理と利を使い分けてこそ繁盛しろ、だ。


「ったく。上から言いやがって。だが、まったくだ。借りは正当な対価で支払うよ」


「世界貿易ギルドのマスターとなってくれただけで、オレには金貨一億枚に匹敵する儲けだがな」


 メンドクセーことを一手に引き受けてくれる。金貨二億枚出しても惜しくはねーよ。


「ったく。万事任せろ、とはまだ言えねーが、お前が村人やれるくらいには任された。安心してすろーらいふをやってろ」


 ニヤっとだけ笑って見せた。


「んじゃ、さっそく仕入れてくるわ!」


 ガンバレ、未来の知る人ぞ知る大商人どのと、心の中で応援した。

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