第443話 キツネうどん

「んーと。だいたいのものは揃った感じだな」


 まあ、ぱっと見の確認だが、スケール(メジャー)をメインに買いに来たのだから、足りなくても問題はねーさ。


「にしても、皆買い物に夢中だな」


 のんびりゆったり回って来たつもりだが、誰もレジ前に来てなかった。


「しゃーねーな。もう一回りしてくっか」


 ここで待ってるのも暇だし、二階にでもいってみるか。案内板でなにがあるか見てなかったしな。


 そう言や二階ってどっから行けんだと、うろちょろしてたらエスカレーターを発見。二階へと上がった。


「…………」


 えーと。んーと。うん? なんだろう。オレ、目がおかしくなったのかな? ホームセンターでも激安な殿堂でも、まずあり得ないものがあるんだが、気のせいだよね?


 恐る恐るそこにあるものに触れてみると、金属の塊の感触と冷たさが伝わって来た。


「うん。めっちゃ戦車やーん」


 ………………。


 …………。


 ……。


 じゃねーよ! なんだよ戦車って! なぜに戦車なんだよ! 意味どころか売ろうとする気もわからんわ! つーか、わかりたくもねーよ!


 ほんと、なんなの、なんだって言うの、あのはっちゃけ魔王は? よく人のことを突っ込めるよな! オレは今、とことんお前に突っ込みてーよ!


「しかも戦車が自転車売ってるみてーに並んでんな。大安売り、一台どれも五億円って、安いのか高いのかわかんねーよ!」


 ほんと、自重とかしねー野郎だよ、まったく。


 叫んだら幾分落ち着いたので、冷静に周りに目を向けることが……できるかよ、こん畜生が!


「なんなの、このどっかの武器博覧会のような空間は? 戦車だけじゃなく戦闘ヘリどころか戦闘機まで売ってんのかよ!」


 だから戦闘機一機十億円って安いのか高いのかわかんねーわ!


「もしかして、売り物ってよりは展示物なのか?」


 ズキズキする頭の痛みを堪えながら見て回ると、今度は多種多様な銃が並んでいる売り場が現れた。


「……アメリカも真っ青な銃天国だな……」


 まるでオモチャのように棚に並べられ、勝手に手に取れるようになっているとか、頭おかしいんじゃねーの?


 一度、タケルが持っているのを触ったことがあるので、ここにあるのが本物とわかるだけに頭痛いよ……。


「……最終処分。ベレッタがなんと一丁三千円。お買い得でーす☆」


 とか、なんか可愛らしい文字で書かれたポップが貼ってあり、スイカの絵が描かれた段ボール箱に無造作に何十丁と入っていた……。


「銃の値段なんて知らねーが、確実に安いとわかる値段だな」


 つーか、この値段で売っちゃダメだろう。闇市真っ青だわ。いや、闇市知らねーけどよ。


「……こっちには、弾丸つかみ取り一回百円とか、完全に悪ふざけしてるよな……」


 もうなんか頭痛いので、回れ右して反対の売り場へと向かった。


「で、こっちは、ファンタジーな武器博覧会かよ」


 鎧やら剣やらがズラリと並んでいる。


「全身鎧が金貨六十枚とか、こっちはまともな値段で売ってんだな。なんなの、その違いは?」


 いやもう、なんでもイイわ。下に戻ろ。


 武器に興味はねーし、オレには三つの能力があり殺戮阿吽がある。そして、多種多様な球がある。戦車や戦闘機など鉄球一つで打ち落としてやるわ。


 下に来ると、なにやらイイ匂いが漂っていた。


 なんだろうと匂いを辿っていくと、フードコーナーに出た。


「……いや、あるとこもあるだろうけどさぁ……」


 だからって造るか? 客が来るかもわかんねー状況でよ。あ、いや、それはカイナーズホームそのものがなんだけどさぁ……。


「お、ベー」


 と、フードコーナーにいたご隠居さんがオレに気がついて手を上げた。


「どうしたい、こんなところで?」


 なにも頼まず、ただ座っていたような感じのようだが。


「いい匂いがしたのでな、来てみたんだが、どうしてよいかわからず、店員が通るのを待っておったのさ」


 厨房に鬼のおばちゃんがいるのだが、ここのシステムがわかんなきゃしょうがねーか。


「なにか食いてーのあるか?」


 テーブルの上にあるメニューを見せてもわからんだろうから、コーナーの上にあるメニューの写真を指差した。


「そうじゃの。あの、右から四番目のものを頼むさね」


 右から四番って言うと豚骨ラーメンか。いったいどんな思考のもと、それに行き着いたんだ?


 よーわからんが好みは人それぞれ。なんか来るものがあったんだろう。ちょっと待ってなと言い残して券売機に向かった。


 豚骨ラーメンとオレのキツネうどんを選んで、コーナーに持っていく。


「いらっしゃい。すぐできるからね」


 鬼ではあるがおばちゃんな対応を見せる鬼のおばちゃんが券を半分切った。


 どう反応してイイかわからんので『おう』とだけ応えて、できるのを待った。


 よく見るフードコーナーと同じく、鬼のおばちゃんもマニュアル的な感じで豚骨ラーメンとキツネうどんを作って行った。


「はい、お待ち遠さま」


「ありがとよ」


 盆に載った豚骨ラーメンとキツネうどんを席へと運んだ。


「いい香りさね」


「だな」


 昆布系の甘しょっぱい香りに、ちょっと懐かしさが湧いて来た。


 ……よく工場の食堂で食ったっけな……。


「いただきます」


 ご隠居さんの存在を忘れ、懐かしいキツネうどんを食した。

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