第439話 博士(ドクター)

 やはり食糧を運ぶのに時間がかかり、保存庫から出て来たのは十時前くらいだった。


「ワリー。遅くなった」


 謝りながら家に入ると、ご隠居さんがいた。


「お邪魔してるさね」


「おう。いらっしゃい。今日はどうしたい?」


 残りの青年団を連れて来てから、ちょくちょく遊びに来るようになったご隠居さん。まあ、来たいのなら来ればイイし、歓迎するが、王都の方は大丈夫なのか? ご隠居さんが人外の纏め役だろう。


「ああ、ノーム族を連れて来た。どうするさね?」


 ノーム? ああ、あのダルマっちゃんね。すっかり忘れてたわ。


「何人連れて来たんだ?」


「先発隊として二十三名。大丈夫かね?」


「問題ねーよ。で、ダルマっちゃんらは、どこに?」


 外にはいなかったが、転移の間か?


「中で待たしておるよ。いきなりではお前さんに迷惑がかかるからのぉ」


 まあ、今さら感がハンパないが、ダルマっちゃんのような体格のノームが二十三人も来たら、さすがに村のもんもびっくり。おしっこチビっちゃうよ。いや、驚かねーか。今、村では勇者ちゃんフィーバー中だから。


 最近、集落にはいってねーから詳しいことは知らんが、なかなか愛されているようで、こちらには目が向いてねーのだ。それに、ザンバリーのおっちゃんがよく村に来るから異種族がいてもそれほど気にしねーくらいになってるのだ。


「まあ、その心遣いには感謝するよ。そうだな、これと言った計画がある訳じゃねーし、んーーーうん。まずは地形や地表を見せるか」


 ダルマっちゃんらにいきなりやれってのも暴論だし、下準備的なことをやってから取りかかってもらうとしよう。


「親方。展示してある飛空船って飛べるのかい?」


 殲滅ノックを食らわしたが、大砲を潰して結界で捕縛したから、飛べるとは思うが、整備なんてなにもしてねー。専門家の意見を聞かせてくれや。


「問題ないですよ。小人族の技師が修理してくれましたから。まあ、ベーの頼みだと言ったんですがね」


 なんでサラっと最後に本心を加えるかね、この人外親方は?


「あんま無茶させんなよ。反乱なんて起こされたらメンドクセーからさ」


 あの種族にテロでも起こされたらたら防ぎようもねーわ。あいつら、魔石を利用した爆弾とか作れんだからよ。


「わかってますよ。これでも師匠歴は長いですからね、そこら辺の加減は知ってます」


 タチワリーな、この親方。いつか弟子に刺されんぞ。


「まあイイや。遊覧できる船をでかくするが、構わんか?」


「構いませんよ。空中桟橋を造りましたから全てを大きくさせても」


「空中桟橋? なんだいそれ?」


 いや、なんとなくは想像できるが、親方が造ったもの。きっと、ぶっ飛んだものなんだろうよ。


「ふふ。見てのお楽しみさ」


 まあ、確かにそうだな。言われたところでそのスゴさはわからんしよ。


 と言うことで向かったのだが、結界エレベーター、なんかデカく――いや、広くなってね?


「つーか、結界エレベーターごと違うな」


 前の結界エレベーターは、木で作った手作り感百パーセントなものだったのに、そこにあるものは重機でも運べそうなくらい広く、機械的なエレベーターとなっていた。


「どうしたん、これ?」


「前のでは狭いので変えました。工房から下の港に運ぶには狭すぎますからね。ベーの力があればよかったのですが。不都合でしたか?」


「いや、好きにしてくれてイイよ。でも、人用のエレベーターも造らねーとならんな」


 作業用と兼用じゃ不便だろうし、危険だ。陽当たり山改造が本格化する前に人用エレベーターを確保しとかねーと階段移動になっちまうわ。


「あー確かにそうですね。なら、何ヶ所かに造りましょう。それほど手間はかかりませんしね」


 でしょうね。三日前に来たときは結界エレベーターだったんだからよ……。


「材料とかどうしたんだ?」


 エレベーターの材質、鉄だし、壁は陶器のような感じだ。他にもいろんな金属やら木材が使われているぜ。


「なにもベーだけが土魔法に長けているわけじゃありませんよ。わたしもそれなりに長けていますよ」


 無限鞄とか創っちゃう人外さん。不可能はねーってか。頼もしいこった。


「その辺は親方に任すよ。オレより仕事が早いからな」


 あとセンスもオレ以上に優れている。エレベーターとかマジカッコイイしよ。なんか、秘密救助隊の基地っぽくておもしれーよ。


「ふふ。長く生きてますが、こんなワクワクする日々を送れるベーに大感謝ですよ……」


 と、なにやら遠い目をする親方。どーしたい?


「……いや、過去は過去。今を楽しみましょう」


 人に歴史あり。親方の過去は親方のもの。無闇に足を踏み入れるな、だ。


「では、まず工房へいきますか」


 親方の言葉に無言で頷き、皆がエレベーターに乗った。


「では、いきますよ」


 親方の合図でエレベーターが上昇した。


「結構静かなんだな」


 無音ってわけじゃねーが、微かになにかが回る音がするだけ。つーか、これの動力ってなによ?


「魔道具ですよ。ベーのエレベーターを見て創りました」


「親方は付与師ってより博士ドクターだな」


博士ドクター、ですか?」


 あ、この時代では導師だったっけな。


「その道に長けた者に贈られる称号みてーなもんだな」


 まあ、オレもよー知ってるわけじゃねーけどよ。


博士ドクターですか。うん。いいですね、それ。親方より格好いい!」


 なにやらこの人外さんは、形から入るタイプと見た。


「では、親方を改め、これからは博士ドクターとお呼びください」


「あいよ、博士ドクター


 オレの中では親方でも博士ドクターでも変わりはない。すんなり博士ドクターに切り替わった。


 あ、今度白衣をプレゼントしよう。


 ハイ、オレも形から入る人ですがなにか?

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